第40話 メルガルドの独り言 前

私はメルガルド。

この世界の聖霊界ーーー妖精、精霊、神獣を統べる者。


私がこの世界に誕生したのは、まだ三界が分たれていなかった頃。

神々の力が大地に満ちていた神世の時代。


私は聖霊王として誕生し、その時から統べる者であり、誰に言われた訳でもなく、そう、生まれたのです。


そうして聖霊界を創り上げた頃、既に神々は多く存在したが、原始の神々、創造神様、大地母神様、月光母神様ーーー今で言う所の三柱神の一柱、大地母神様が創造神様との間に、末娘になる姫神様を身の裡に宿されました。

三柱神様方には、五柱の男神がお子様としていらっしゃいますが、この兄神様方は、姫神様のご誕生を、それは首を長くして待ち望んでおりました。


特に御長男である時空神様は、ご自分の対になる存在だと聞かされ、妹姫の魂の輝きに触れて、初めて感情を揺さぶられたと言われます。

時空神様は後継者として、創造神様が全てを与えた神。そのお力は強大で、創造神様を超えて神を屠る力さえあると。

強大過ぎる、それ故に安定しない力が暴走しないよう、常に神具の仮面を付け、感情すら抑え込んでいるのです。ただ、感情は、全てを持つが為に希薄だったとも、無いとも言われておりました。

私が接するに、喜怒哀楽が無いわけではなさそうでしたが。


今なら分かります。姫様が時空神様のどこかにあった感情のスイッチを押したのです。きっと。ポチッと。

その感情こそが力の安定には必要だったのでしょう。優しく灯る、その感情と、自らの鞘となる存在が。


そんな姫様ですが、ご誕生迄には紆余曲折がありました。

姫様の魂を異世界へ隠したり、世界が三界に別れてしまった為に、冥界の主となった大地母神様が産むには障りがあると、月光母神様がお引受になり。


様々な出来事を超えて、漸くこの世界でのご誕生となったのです。


この少し前に花神のフロース様もご誕生しておりますが、それは置いといて。


私メルガルドはこの時、『存在してて良かった!』と本気で思ったものです。ああ、マジと読むのでしたか。姫様の異世界豆知識ですね。


姫様は、異世界で魂のご留学?の所為か、他の神々とは違い人の子と同じ様にご成長遊ばしました。


神々は私と同じ様に、在るべきとして生まれ出る者、又は男女神で番った結晶の者、祈いからの者など様々ですが、大抵は、初めから在るべき姿、完成された姿で存在するのです。

女神が産んだ場合でも、産まれた瞬間こそは赤子ですが、直ぐに神として完成された姿になります。


それが、異世界での記憶がぼんやりと残っているらしき姫様は、人の子の様に時間を掛けてゆっくりと大きくなられたのです。

それが天界の神々にとって、私にとって、面映ゆく、眩く。

控えめに言って可愛すぎです。天使ですーーーああ、いえ、女神様ですが。

この世界中の愛らしさを小さな身体にギュッと濃縮されて体現されたお姿は庇護、保護欲を存分に増幅して下さり、見事に私の脳内は、姫様愛で蹂躙されつくされました。


母神様方などは、直ぐに青年になってしまって、可愛げなどが吹っ飛んで行った兄神様方よりも余程可愛がられておりました。

創造神様は言うに及ばず。兄神様達は片時も側を離れようとしませんでしたね。


代る代る交代で、人の子の子育てを真似て、天界中ではしゃいだものです。


そんな中で、なんと姫様の守役を天界中で募集すると言うではありませんか!

私は勿論、速攻で姫様の守役に立候補致しました。

熾烈な争いでございました。それは、もう。

ずらりと横に並ぶ神々と私、そして間を開けて姫様と対面致しました。そして戦いの火蓋は切って落とされたのです。


ちょこんとお座りをしている、それはそれは愛らしい姫様の気を何とかして引こうと、神々がそれぞれ工夫を凝らした衣装や玩具、楽器などでアピールをしております。


音楽神は流石の一言です。音の鳴る物は子供は大好きですよ。上手くツボをついたようで、まだ歩けぬ姫様がハイハイで寄って行きます。

が、ここで職人の神が木の玩具を取り出し、カラコロと小気味良い音のするカラクリで一気に姫様の気を引きました。


マズイです。非常に手強い。私は焦りました。可愛らしいモフモフンな縫いぐるみのような妖精を、数匹用意致しておりましたが、何かしら芸を仕込んで置くべきでした。インパクトに欠けるのでしょう。チラっとはこちらを見てくれるのですが。


ーーーこうなったら奥の手です。聖霊王の本気をご覧いれましょう、と。


私の髪と瞳は、白銀色がベースではありますが、光の加減で七色見えるのです。特に髪の艶には虹が宿ります。

鮮やかな色を誇らしげに掲げる神々と比べ、密かにちこっとばかりのコンプレックスを持っておりましたがーーー人の子を観察した結果、子供は不思議現象が好きな筈ーーー多分。


私、やりました。発光致しました。気合い入れて。ペカーッーペカッっと。


気が付けば姫様が目の前で、満面の笑みを浮かべて両の腕を上げ、私に抱っこをせがんでいるではありませんか!



こうして守役の座を射止め、私は私の髪と瞳を好きになったのです。



私は姫様と色んな事をしました。特にごっこ遊びなどは一部の周りも巻き込んで良くしたものです。


異世界の文化、娯楽は私などの想像を遥かに超えいて、時空神様が姫様にねだられると、様々な物を異世界へと呼び出しておりましたから。

異世界とこちらとで、送り迎えしただけあって、時空神様は良くご存知で。

ああ、ちょくちょく様子を見にも行ってらしたとうらやまけしからん。


まぁ、時空神様曰く、呼び出していると言うよりは、再構築しているとの事ですが、なる程、魂があるものは無理なわけです。


姫様の宮では異世界の物に触れて楽しむのは、身内の神々と極僅かな神と聖霊だけでしたが。

秘密の部屋、なのです。


そうそう、漫画のキャラクターに成り切ってみたりする事もありましたね。

最近、と言っても、十数年でしょうか。私の中で『執事』がブームで、姫様も大層喜んで下さいました。



そんな時でした。姫様が忽然とお姿をお隠しになられたのは。







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