第10話
◯ 7月22日火曜日 19:10
某ビル内
帽子会長老
「ほぉ…タイラが」
「敵に捕まったか」
ケイコ
「……」
ユナ
「……」
帽子会長老
「──それで?」
「わしらにどうして欲しいと?」
「わしらの命令を無視して」
「好き放題していたガキのために」
「わしらにタイラを救出してくれと?」
「ん?」
ユナ
「おじいちゃんさ」
「言葉にトゲがあるよ?」
「好き放題って」
「別にあたしたち何も悪いことしてないし」
帽子会メンバーA
「新垣ユナ⁉︎」
「貴様よくもぬけぬけとッッッ‼︎」
帽子会メンバーB
「貴様が都内で起こした不始末の尻拭いを誰がやったと思っている⁉︎」
「立場を弁えろ⁉︎」
ユナ
「ッッ⁉︎」
「うるさー」
「いきなり怒鳴らないでよ」
帽子会長老
「……チャーリー」
「黙ってないでお前も何か言え」
チャーリー
「……」
「いや俺は」
「ユナに寄生してる身だからな」
「宿主の行動を『規制』する権限まではねぇぜ」
帽子会長老
「……」
ケイコ
「……長老」
「私は別に」
「あなたたちに助けを求めにきたわけじゃないわ」
帽子会長老
「……ほぉ」
「では何しにきた」
ケイコ
「『お願い』にきたの」
「これ以上」
「私たちの邪魔をしないでほしい」
帽子会長老
「……」
ケイコ
「あのカクレキリシタンが私たちにとって」
「脅威の存在」
「今まで現れたどんな敵よりも」
「間違いなく強敵よ」
帽子会長老
「──随分と」
「小僧を気に入っているようだな」
「惚れたか?」
「中条ケイコ」
ケイコ
「……私はこれからあいつと『勝負』をする」
「一対一の」
「真剣勝負」
「私が勝ったら」
「タイラを返してもらうつもりよ」
帽子会長老
「……負けたら」
「どうするつもりだ」
ケイコ
「──白鷺月夜を」
「諦める」
帽子会長老
「⁉︎」
帽子会メンバーA
「何⁉︎」
帽子会メンバーB
「貴様本気か⁉︎」
ユナ
「えー?」
「それマジ?」
「月夜ちゃん仲間にしないの?」
ケイコ
「──月夜に執着した悪魔の存在が謎のまま」
「新しい敵を作るのは得策じゃない」
「もしかするとあいつは」
「私たちが戦う敵以上に」
「厄介な存在になるかもしれない」
帽子会長老
「……」
ケイコ
「あんたたちから」
「これ以上干渉されるとこっちはやりづらくなるの」
「新宿の件と」
「学校での件」
「不始末に対応してくれたことは感謝している」
「だけど」
「これ以上」
「じいさんたちが関わることで」
「事態をややこしくしたくない」
「すっこんでて欲しいの」
帽子会長老
「……」
ケイコ
「この不始末」
「私が全てケリをつける」
「神太郎をぶちのめして」
「タイラを返してもらう」
「それで終わりよ」
帽子会長老
「……認めると思うか」
「貴様の一存で決めたことを」
ケイコ
「さぁ」
「どうかしら」
「でも」
「認めないっていうなら」
「あんたたちはとんでもない相手と」
「戦争をすることになる」
帽子会長老
「ほぉ」
「誰かな?」
「その相手とは」
ケイコ
「──私よ」
帽子会メンバーA
「な⁉︎」
ケイコ
「戦いたくないでしょ?」
「──この中条ケイコとは」
帽子会長老
「……」
「わかった」
「認めよう」
帽子会メンバーA
「長老⁉︎」
帽子会長老
「あいつのいう通りじゃ」
「好転していない状況で」
「敵を作るのは得策じゃない」
「それだけじゃ」
ケイコ
「……」
○7月22日火曜日 18:31
大山中華店 病室
孝一
「……よぉ」
「神太郎」
「お前まさか受ける気はないよな?」
神太郎
「……」
孝一
「サシの勝負だって?」
「どう考えても罠だろ」
「テメェから罠に飛び込むって……」
「自殺行為もいいところだぞ」
神太郎
「……月夜」
「お前はどう思う?」
月夜
「え?」
神太郎
「中条ケイコは」
「俺を嵌めるような奴か?」
月夜
「……わからない」
「あたし」
「ケイコ先輩とそんなに親しいわけじゃないし」
「でも」
神太郎
「でも?」
月夜
「ケイコ先輩は」
「嘘はつかないと思う」
「きっと」
神太郎
「……そうか」
足音
孝一
「どこへ行く」
「神太郎」
神太郎
「決まってるだろ」
「『勝負』しに行くんだよ」
「勝てば豪華賞品で『悪魔の帽子』をもらえるんだ」
「行くしかないだろ」
トーマス
「待ちなさい‼︎」
「カクレキリシタン‼︎」
神太郎
「なんだベレー帽」
「アドバイスでもくれるのか?」
トーマス
「……悪いことは言わない」
「ケイコとの勝負は辞退した方がいい」
神太郎
「ああ」
「だろうな」
トーマス
「こっちは親切心で言ってるのよ」
「ケイコと戦えば」
「まずいことになる」
神太郎
「ほぉ」
「どうまずいことになる?」
トーマス
「……ケイコの目的は」
「タイラの『奪還』じゃないからだ」
「君と僕らを」
「『皆殺し』にするつもりだ」
◯
ケイコ
「……」
キャスター音
ケイコ
「時間通りね」
「人質もちゃんと連れてきている」
「あんた」
「思ったよりいい奴ね」
神太郎
「褒めたって何もでねぇよ」
月夜
「……」
ユナ
「やっほー!」
「神太郎くん!」
「月夜ちゃん!」
「元気?」
「タイラを連れてきてくれてありがとうねー!」
月夜
「──ユナ先輩!」
「ケイコ先輩!」
「もうやめませんか⁉︎」
神太郎
「……」
ユナ
「やめる?」
「何のこと?」
月夜
「タイラ先輩は返します!」
「だからもうこれ以上」
「お互いに傷つけることは」
「やめませんか?」
「お願いします!」
神太郎
「月夜……」
「てめぇ」
ユナ
「えー?」
「マジ?」
「いいの?」
ケイコ
「せっかくの申し出だけど」
「お断りさせてもらうわ」
月夜
「どうして…?」
ケイコ
「これは『勝負』よ」
「黒翼神太郎と」
「この私」
「中条ケイコとの」
「真っ向勝負」
「勝った方が欲しいモノ手に入れる」
「そういう約束なの」
月夜
「だけど」
「それだと……」
神太郎
「──月夜」
「下がってろ」
月夜
「神太郎くん!」
神太郎
「気に入ったぜ」
「中条ケイコ」
「敵にしては惜しい奴だ」
ケイコ
「買い被らないで」
「私はあんたが思ってる奴じゃないわ」
神太郎
「そうかい」
足音
神太郎
「あ?」
「なんだ?」
ケイコ
「なに?」
神太郎
「テメェ……」
「帽子をどうした」
「いつもかぶってる『黒い帽子』」
「どこにやった?」
ケイコ
「上よ」
神太郎
「上?」
風切音
エドワード
「よっと」
骨切り音
神太郎
「がっ⁉︎」
「うぐ⁉︎」
月夜
「⁉︎」
「帽子が⁉︎」
孝一
「神太郎の頭に⁉︎」
「いつの間に⁉︎」
神太郎
「があぁああ⁉︎」
「痛ぇええええ⁉︎」
エドワード
「ガタガタうるせぇなぁ」
「ちょっとテメェの脳汁を吸ってるだけだろうが」
「いちいち騒ぐんじゃねぇよ」
神太郎
「テメェ⁉︎」
「離れ……ろ……」
膝が地面に落ちる音
神太郎
(なんだ……)
(力が入らねぇ……)
(どうなっている……)
トーマス
「僕たち『帽子の悪魔』は」
「人間の脳から分泌されるアドレナリンやエンドルフィンと呼ばれる『快楽物質』を食べて生きている」
「快楽物質をもらう代わりに」
「宿主に特殊な能力を与える」
「それが僕たちだ」
トーマス
「けど」
「僕たちは必ずしも」
「宿主に能力を与えるとは限らない」
「『能力』を与えずに」
「エネルギーだけ吸い取ることだって」
「よくやることだ」
神太郎
「がはっ!」
ケイコ
「……どう?」
「エドワードは食欲旺盛だから」
「結構大変でしょ?」
神太郎
「てめぇ……」
「ぐっ」
ケイコ
「あんたが代わりに被ってくれて」
「すごく助かるわ」
「さて」
「そろそろ始めましょ」
「時間がもったいないわ」
To be continued…..
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