第8話
○7月22日火曜日 16:10
皐月高校 3階 渡り廊下
タイラ
「……」
「……トーマス」
「いるか?」
トーマス
「……むにゃむにゃ」
「よく寝た」
「君の頭の上で寝るのは格別だなぁ」
タイラ
「いつも頭の上に乗ってるだろ」
トーマス
「それで?」
「殺すことできたの?」
「例のカクレキリシタンくん」
タイラ
「いいや」
「逃げられた」
トーマス
「逃げられたの?」
「あらら」
タイラ
「遠くには行ってない」
「致命傷は負わせることはできたしね」
「ただ」
「ひとつ君に聞きたいことがある」
トーマス
「なーにー?」
タイラ
「俺の能力……いや」
「君からもらったこの『銃』の能力だが」
「破壊できない物体は存在するかな」
トーマス
「今更どうしたの?」
タイラ
「いいから答えてくれ」
「重要なんだ」
トーマス
「……うーん」
「ないね」
「より正確にいうなら」
「この地球上には存在しない」
「といえばいいかな」
タイラ
「というと?」
トーマス
「もう知ってると思うけど」
「僕たち『帽子の悪魔』が持ってる能力の構成物質は」
「『サイコプラズム』という反物質エネルギーでできてるんだ」
「サイコプラズムは地球のエネルギールールを『無視するパワー』を持っている」
「──つまり」
タイラ
「どんな物質もぶち抜くことができる…」
「っていうことかい?」
トーマス
「そうそう」
「厚さ100メートルの鉄壁で守られたシェルターであっても」
「君が撃つ弾丸の前では」
「紙くず同然になる」
タイラ
「……なるほど」
トーマス
「どうしたの?」
「僕の能力は『無敵』だって」
「知ってるはずだよ?」
タイラ
「……」
「弾丸が効かなかった」
トーマス
「え?」
タイラ
「直撃だ」
「至近距離でベレッタの9mmを眉間に撃ち込んだんだ」
「──それなのに」
「彼…神太郎くんの脳天を」
「撃ち抜くことができなかった」
トーマス
「……外したんじゃないの?」
タイラ
「そうだね」
「機関銃の集中砲火を跳ね返すまで」
「僕も外したと思ったよ」
トーマス
「──うーん」
「何者なの?」
タイラ
「──カクレキリシタンらしいよ」
「彼」
○7月22日火曜日 16:08
皐月高校 1階 渡り廊下
月夜
「しっかり‼︎」
「神太郎くん‼︎」
神太郎
「はぁはぁはぁ」
地面に膝が落ちる音
月夜
「神太郎くん⁉︎」
神太郎
「──逃げろ」
「俺なんか庇うんじゃない」
「お前だけ逃げろ」
月夜
「見捨てることなんてできないよ」
「その血……」
「病院に行かなくちゃ⁉︎」
神太郎
「大丈夫だ」
「俺なら……大丈夫……」
「ぐっ!」
月夜
「うう……」
「どうしよう」
「スマホも電波が届かないし……」
「どうすれば」
神太郎
「……『公衆電話』だ」
月夜
「え?」
神太郎
「皐月高校には」
「災害時の緊急連絡手段として」
「『公衆電話』が備え付けられているんだ」
「場所は一階の職員室」
「妨害電波でスマホは使えなくとも」
「電話回線を使用している公衆電話なら外部に連絡できるはず」
月夜
「職員室……」
「ここからだと」
「5分もあれば到着できるはず……」
神太郎
「……これを持っていけ」
月夜
「これは?」
「コンパクト?」
神太郎
「吉利支丹鏡だ」
「奴の弾丸は反物質の『サイコプラズム』で構成されている」
「この鏡ならサイコプラズムの弾丸を」
「『3発』までなら防ぐことができるはずだ」
月夜
「……ありがとう」
神太郎
「奴の姿が見えたら」
「とにかく逃げろ」
「──わかったな」
○7月22日火曜日 16:13
皐月高校 1階 職員室
引き戸が開く音
月夜
「……」
足音
月夜
(人の気配がしない)
(まだタイラは職員室に来ていないみたい)
(今のうちに公衆電話を探さなくちゃ……)
足音
月夜
(あれ……かな)
(あのピンク色の箱みたいな電話っぽい奴)
(あれが公衆電話かな?)
月夜
「……ここに10円玉いれればいいのかな」
10円玉が公衆電話の中に落ちる音
月夜
「……え?」
「あれ?」
「どうやってこれ番号打つの?」
「回せばいいの?」
「え?」
銃声
月夜
「きゃ!」
トーマス
「あららら」
「現代っ子はダイヤル式の公衆電話は使ったことがないようね」
タイラ
「そうみたいだね」
月夜
「ひぃ!」
タイラ
「月夜ちゃん」
「どこにも逃げ場所はないよ」
「おとなしく出てきな」
月夜
(嘘でしょ……)
(公衆電話を撃たれた⁉︎)
(もう外部に助けを求めることができない……)
(やばい)
(どうしよう)
銃声
月夜
「ひっ!」
タイラ
「いいから出てきな」
「蜂の巣にされて死にたいのかい?」
月夜
「……」
タイラ
「……そうそう」
「両手を上げて」
「ゆっくりこっちに歩いてきて」
月夜
「……」
「先輩」
「もうやめてください」
「どうしてこんなひどいことを……」
タイラ
「ひどい…?」
「そう思うのかい?」
月夜
「……」
タイラ
「君は何か誤解をしている」
「一方的に僕が君を攻撃していて」
「自分が被害者だと思い込んでる様だが」
「──そうじゃない」
タイラ
「これは『戦争』だ」
「仕掛けてきたのは君の方だ」
「いや」
「君たちというべきか……な」
月夜
「……何を言ってるの?」
「戦争って」
「何の話?」
タイラ
「……月夜ちゃん」
「何を持っている」
月夜
「え?」
タイラ
「その手の中のもの」
「僕に見せてくれないか」
月夜
「……えと」
タイラ
「早くよこせ‼︎」
月夜
「ひっ!」
コンパクトが落ちる音
タイラ
「──なんだそれ」
「こっちに蹴るんだ」
「それを」
月夜
(しまった…)
(神太郎くんから渡された)
(武器が……)
タイラ
「早く‼︎」
月夜
「⁉︎」
コンパクトが地面を滑る音
タイラ
「……これは」
トーマス
「コンパクトのようね」
タイラ
「──ああ」
「わかった」
「『魔鏡』か」
「たしかに魔鏡なら」
「僕の銃弾を跳ね返すことができるかもしれないね」
コンパクトが開く音
タイラ
「でもこんな小さな手鏡サイズなら」
「せいぜい一発か二発防ぐくらいしか──」
破裂音
タイラ
「──な⁉︎」
耳鳴り
トーマス
「ぎゃあああああああ‼︎」
「痛い痛い痛い痛い⁉︎」
タイラ
「何だこれは⁉︎」
月夜
(何?)
(何が起こったの?)
(爆発した?)
(いきなりすごい光が出たと思ったら……)
(あの白い煙は?)
タイラ
「手鏡の中に」
「『閃光弾』を仕込んでいたのか……」
「くそ!」
「目が……」
「くそ!」
「ふざけやがって!」
トーマス
「落ち着いてタイラ⁉︎」
「興奮しないで‼︎」
タイラ
「あああああああああ⁉︎」
機関銃乱射
月夜
「きゃああああああ⁉︎」
タイラ
「どこだ⁉︎」
「どこにいる⁉︎」
神太郎
「ここだ」
「馬鹿野郎」
タイラ
「⁉︎」
鼻骨粉砕
タイラ
「がっ⁉︎」
銃声
神太郎
「がはっ⁉︎」
月夜
「神太郎くん⁉︎」
神太郎
「来るな⁉︎」
「くっ⁉︎」
タイラ
「はぁはぁはぁ」
神太郎
「はぁはぁはぁ」
「やるじゃねえか」
「顔面ぶん殴ったカウンターで」
「土手っ腹に撃ち返すなんて」
「冷静じゃねえか」
タイラ
「……そっちこそ」
「よく立ってられるな」
神太郎
「お互い……」
「もう次が最後だな」
タイラ
「……ああ」
タイラ
「──来いよ」
「神太郎」
「この距離なら」
「僕は外さない」
神太郎
「……」
タイラ
「……」
月夜
「……」
生唾を飲み込む音
ノッチ音
地面を踏み砕く音
神太郎
「おおおおお!」
タイラ
「うぉおおおおおお!」
銃声
粉砕音
タイラ
「がはっ⁉︎」
地面に体が落ちる音
神太郎
「──しゃ‼︎」
「っ⁉︎」
「うぐっ……」
膝が地面に落ちる音
神太郎
「……くっ」
タイラ
「──ちきしょう」
「──まだだ」
「まだ」
神太郎
「──てめぇ」
ノッチ音
トーマス
「もうやめて⁉︎」
「タイラ⁉︎」
「君の負けだよ⁉︎」
月夜
「⁉︎」
「帽子が……」
「喋った?」
トーマス
「カクレキリシタン‼︎」
「これ以上タイラを苦しめないで⁉︎」
「僕たちにはもう君と戦う意志はないよ⁉︎」
タイラ
「トーマス……」
「お前……」
トーマス
「これ以上戦ったら」
「タイラは死んじゃう……」
「タイラは死んでほしくないの⁉︎」
「お願い‼︎」
神太郎
「──」
「おい」
「手出せ」
タイラ
「……う」
神太郎
「まずは一言だ」
「てめぇの口から言うんだ」
神太郎
「──この勝負」
「どっちが勝った?」
月夜
「……」
タイラ
「……僕の負けだ」
「完敗だよ」
To be continued….
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