賭けごと
すぅ
第1話
これは賭けだった。
御堂潤がわたしから離れていかないかどうかという。
「俺、束縛されんのとか、長時間電話するとか、そーいうの苦手なんだよね。」
恋人の潤はわたしと付き合う前にそう言っていた。
だからわたしはなるべく潤を自由にし、彼の嫌がりそうなことを避けて通ってきた。
それなのに、彼は電話でこう言うんだ。
「亜美から連絡くることって少ないよな。」
当たり前だ。
潤は求められると退くタイプ。
こちらから電話したいなど、そう言えない。
「そうかな??でもいつも連絡したいって思ってるよ。」
「ちゃんとさ、言葉にしないとわかんないよ。俺ばっかしたいのかなって思う。たまには亜美からも連絡ほしい。」
「わかった、じゃあわたしからもするね。」
夕食を食べ終わり、お風呂に入るまでの間に時間ができた。
なにしてるの??
ポンとひとことLINEを入れる。
暇ならば潤はすぐに返してくる。
10分経っても返事が来ない。
じーっと壁から女の子が覗いているスタンプを送る。
きっと潤は大量の追いLINEなども好きじゃないだろう。
それをわかっていながらスタンプを次々に送る。
ねぇねぇ
さみしい
かまって
既読がつかず病んでるわけではない、病んだフリをしているのだ。
潤はそれがわかる人だと思ったから。
既読がつき電話ができたら、やっと気づいた!メンヘラごっこ飽きたよー、などと冗談を言って笑わせたかった。
でも、万が一のこともあった。
この冗談が通じず、ホントに病んでいるのかと思われてめんどくさがられたら最悪だ。
わたしは、賭けにでた。
長時間電話なんて、と言ってた潤は最近3時間以上の電話なんてザラなのだ。
元カノはだめだったかもしれないけど、わたしなら大丈夫かもしれない。
そんな期待もあった。
あ、既読がついた。
「お風呂はいってた。電話していい?」
潤からメッセージがくる。
「うん、いいよ!」
スマホを見つめ潤からのコールを待つ。
自分から誘っての電話はなかなか稀だった。
すごくどきどきする。
「LINEめちゃたまってたわ。」
潤の少し笑いの含んだ声色で、“ごっこ”だとちゃんと伝わったんだと分かり安心した。
「メンヘラちゃんごっこ、おもしろかった??」
わたしはおどけてそう言った。
「亜美がそーいうことマジではしないことわかってるから。」
はっきりと理解されているというその言葉に再度安堵感を覚える。
病んでるわけではないが、かまってほしかったりするのは本心だ。
それを、冗談にして発散するしか臆病なわたしにはできなかった。
いつも電話をするときは、潤からの誘いがあってからだった。
「亜美、たまには電話かけてきなよ。」
「でも、出なかったら悲しいから…」
「そーいう時もあるかもしれないけど、かけてもらえると嬉しいんだよ。」
潤に嬉しくなると言われたらやるしかなかった。
潤が起きてそうな時間に、電話をしてみる。
5コール程しても出ないから切った。
忙しいのかな。
やっぱり出てもらえないとさみしくなった。
実際自分からかけてみると、連絡したくてしかたなくなった。
これはやってはいけないと思ったが、もう1度電話をかけてみる。
うざいと思われてもいいと、この時は思った。
コールの音を聞きながら思考する。
わたしはまた賭けごとをしている。
その程度で潤はわたしを嫌いになんてなったりしないと信じて。
次にはもうこの関係が終わってしまうかもしれないのに。
それでも、これからもわたしはギリギリのところを攻めていくんだ。
潤を好きである前に、素直な自分を好きでいられるように。
自分が自分で在れるために。
おわり。
賭けごと すぅ @Suu_44
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