All You Want For Christmas Is Her
「やっぱり断ろうかな……」
「だから大丈夫だって!」
指名客の山田さん。今は弱気になってるけど叩き上げのサラリーマンだ。キャバクラより止まり木が似合うこの客は、同僚の女性に恋をしている。
世間は既にクリスマスムード。意を決してデートに誘ったら「いいですよ」と呆気なくOKされたと言う。車の中から楽しめるイルミネーションに行く事になったらしい。しかも提案したのは彼女の方。どう考えてもチェックメイトだ。怖がる理由は無い。否、恋は人を臆病にする。男も女も関係ない。
「僕は話し下手だから……」
「ドライブ中ずっと喋り続けるなんて私達でも出来ないよ。彼女の好きな音楽は何?」
「知らない……」
「ラインで好きな歌手を聞けば良いよ。そんでベストアルバムを借りる。会話のネタに山田さんのおすすめCDも仕込んどく。無言になっても好きな音楽かかってれば間が持つでしょ」
山田さんはビジネスバッグから手帳とペンを取り出しサラサラとメモを取る。
「素人質問で恐縮ですが……」
「続けたまえ」
遠慮がちに手を上げられ、私もその気になって先を促す。
「彼女が音楽を聴かない場合はどうしたら良いでしょうか」
「今回はマライアでいいんじゃないかな。ボリュームをうんと絞ってね」
手帳を覗き見る。会食や納期の文字にオススメCDやマライアが連なってシュールだ。
「イツカちゃんありがとう。来て良かった」
「グッドラック!」
肩を叩くと山田さんを纏っていた緊張感が消えた。本来の明るさ取り戻したので改めて乾杯だ。
この真面目な人の恋が叶いますように。叶わずともここにはいつも山田さんの居場所があると胸の中で伝えた。
楽しい時、辛い時、どんな時でも話を聞く準備は出来ている。ALWAYS BE MY BABY! 私はいつだってあなたの味方だから。
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