大いなる財産
「イツカちゃんて客と付き合った事ある?」
「ないけど肯定派だよ」
はあ……と溜息をつくユメミさんを見て好奇心が膨れ上がる。私は恋だの愛だの語り合うのが大好き。誰かを想う女の子はとびきり可愛いから。
「どこの誰だか言いなさい」
「それが指名客じゃないんだよ。この前新規で来てフリーで着いた人」
「それって……」
一目惚れってやつだ! 都市伝説かと思ってた。
「会いたいけどお店には来ないでほしいって思っちゃった。今日も出勤してないって嘘ついちゃった」
「可愛すぎる。さらけ出せよ」
ユメミさんはいやんいやんとくねくねした。結構いっちゃってる。
「でも向こうはあたしの事キャバ嬢としか思ってないみたい。出勤前にご飯行ってそのままエルで飲もうって言われてしまった」
「同伴か。オイシイ誘いだけど複雑だね」
店外で合流してから出勤するシステム。客はプラス料金だがキャストにはバックが付く。要はプライベートタイムを金で買う仕組みだ。好きな女の子に誘う事ではない。
「完全に一線引かれてるよね」
「見た目は? ルーキースで言うと誰?」
「なんでヤンキー前提なのよ。第一印象は若い頃のイーサンホーク」
ノーコメントで。魔法がかかっちゃってるから。
恋する女の視力はまじで当てにならない。
「どんどんアタックすべきじゃない? 向こうがキャバ嬢としか思ってないんだったらダメ元だと思ってアピールしないと!」
「がっついてるって思われないかな?」
「でもそうでもしないと一生客と店員のままじゃない?」
ユメミさんはうんうん唸って頭を抱えてしまった。可愛い。もっと悩め。引き出してやろう。
「中身は?」
「……やさしい」
……。
ええー……。まさかだったがこの鉄板の質問はユメミさんの表情から色を消してしまった。
同僚である前に友達だと心を鬼にして肩に手を置いた。
「ユメミさんさ、その客じゃなくて、若い時のイーサンホークが好きなんじゃない?」
ユメミさんの手からスマホが滑り落ちる。
「友よ」
「ありがとう。目が覚めたわ」
ひしと抱き合った。恋は儚いが女の絆は一生もの。付け加えるとイーサンホークは今だって素敵だ。
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