Get Ready With Lady


 匂い立つ42℃は夜の帳と滲むように流れる。


 ボディクリームに香水とグリッターを混ぜ込んだら惜しげも無く擦り込んで馴染むのを待つ。下味みたい? その通りよ。門外不出の淫秘なレシピ。


 クールダウンしたら煙草と心に火を付ける。女の為のランジェリーを身に纏ってレコードに針を落とすの。よく言うでしょ。大切な事はDannyHathawayが教えてくれるって。


 ドレッサーにぶちまけるのはコスメとジュエリー。最高に下品で上等ながらくた達。手に入れただけじゃ満足なんて出来ない。使い尽くして、尽くさせる。


 鏡の中の麗人は薄く微笑んでいる。彼女は素顔が一番素敵だから出し惜しむように何層にも塗り重ねてすっかり隠してしまうの。真紅の唇の本当の赤は、たったひとりに知ってもらえればいい。


 ワードローブを開け放つと色の洪水に飲み込まれる。めくるめくドラマがあたしを惑わせてくるけれど並んだ物の中から正解を見極める事が出来る。

 ツイードが見当たらないですって? お馬鹿さんね。CHANELが本当に似合うのは60代から。無理しなくても背筋を伸ばして歩いていればプロップスは必ず付いてくる。


 名も知らぬ男がベッドを抜け出す気配を感じる。

 ドアを開けて振り返らずに出て行く。


 あたしはキャバ嬢。

 玄人に言葉は要らない。


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