arthur fLeck
滝さんが来る。私の指名客だ。来店二回目と初回を連れて来るので計三名でいらっしゃる予定。
「マイさん、滝さんご友人と来るんですけど閉店した後そのまま皆で遊びに行けますか?」
「アフターね。いいよん」
「二回目のお連れさんにマイさん指名させます。初回もいるんですよ。こっちは誰を指名させようかな」
「アフター五人じゃだめなの?」
「初回さんがカラオケ行きたいって。人数揃えた方がいいかなって」
「ルルが歌超上手いよ」
「客のレベルが分からないのでパス」
「ララは? 巨乳アニメ声」
「ララさんで。聞いてきます」
ララさんはおっとりとした癒し系だ。話を聞くと酒が強くないからアフターでは飲めないかもしれないと言われた。困り眉が可愛い。カラオケだから飲まなくて大丈夫だし太い客だと言うとじゃあ行きますと言ってくれた。
ララさんを場内、つまり飲み始めてから指名すると前もって店長に伝えたものの金曜は常にテンパっているので不安が残る。
滝さんは気が短いので黒服の山下さんにも同じように伝えておく。
「おお滝さん。了解よ」
「店長多分忘れます」
「おっけおっけ」
山下さんはインカムで黒服達に共有してくれた。
「なんで黒服に出来て店長に出来ない事がこんなに多いんですか?」
「褒めんなよ」
山下さんはトレンチいっぱいのドリンクを持って行ってしまった。かっこいい。
滝さん一行は来た時から結構酔っ払っていた。カラオケの期待が大きかったので早々にララさんを場内した。輩の中に小柄なララさんが入ると組長の娘みたいだった。
滝さんは可愛いなあと言ってララさんを見た。初回のお連れさんはララさんのおっぱいに話しかけてるみたいだった。マイさんは二回目のお連れさんと話している。
私の席だけど、ララさんの無意識の一人勝ちだ。癒し系すごい。参りました。
私も修行が足りないな、さっきは馬鹿にしてごめんねとフロアの店長を目で探すと、何も無いところでつまずきビーフジャーキーを引っくり返していた。別卓の客はそれを見てなぜか爆笑だ。
この卓だったらああはなるまい。笑ってくれる客で良かったね。そうだ。笑いは正義だ。客が笑ってくれるなら、私はカラオケでマラカスを振り回しバカにでも道化にでもなろう。例え主役の座を奪われようと。
なぜなら私はキャバ嬢だ。癒し系には歯が立たないが、あの店長には負けるわけにいかない。
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