長命者の永き尾(0:1:1)
Si
長命者の永き尾(0:1:1)
アンダイン:とある村に暮らす女性。パン屋を営んでいる。
カレル:とある村を訪れた国の学者。
★学園職員:王立学園の職員。カレルの師のもとで働いている。
終盤にしか出てきません。アンダイン役の方が兼ねてください。
声劇台本として使用する際は、適宜、コピーしてご利用ください。
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台本:「長命者の永き尾」 作者:Si(@Si_lenceizmine)
https://kakuyomu.jp/works/16817330665380915470
アンダイン/学園職員♀:
カレル:
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カレル(M):
「好奇心は時に、信仰の、文化のありようすらも変えてしまう」
「だが時に、その燃える様すらも、辿るべき歴史の運命ならば。」
間
アンダイン(M):「彼の尾」《かのお》。
この地に住まう人々の口癖であり、祝福の言葉。
彼の尾の如く
彼の尾の如く力強く。
彼の尾の如く
カレル(M):尻尾ばかりを褒めそやされるその者は、
時に、輝く
時に、
かつてこの地に舞い降りた神。
最後は、村の中心に一筆入れたように走る清流へ――姿を変えたとされている。
その信仰は、未だ絶えず。
この村に、火を灯しているのだ。
<間>
アンダイン(M):鳥も
柔らかな布団に別れを告げ、冷たい水で目を覚ます。
アンダイン:「はあ…。今日も冷えるなあ。」
アンダイン(M):震えをまぎらわせるように、足は少しずつ早くなる。
家のそばに流れる川は、今日も美しく。
アンダイン:「うん。水に問題はないわね…。」
アンダイン(M):息をつき、水を汲もうした瞬間。
澄み渡る空気の層を、破るような音。
カレル:「...ごぼっ」
アンダイン:「…ん?いま、変な音が...?」
カレル:「がぼぼぼごぼ。」
アンダイン:「はっ!?」
アンダイン(M):目を凝らすと、遠くで何かが
暗がりの下、清流に顔を突っ込み、泡を吐く影。
カレル:「が、ごぼ、ごぼ....」
アンダイン:「たっ大変!!大丈夫ですか!?」
間
カレル:「いやあ、本当に助かりました!ようやく水にありつけたと思ったら、力が抜けてしまって‥。」
アンダイン:「いえいえ。ご無事で良かったです。その…不躾かとは思いますが、まさかお一人で?」
カレル:「あっ。ええ…はい…。」
アンダイン:「まあ!…ここは他の村とは距離がありますし、道のりも厳しいでしょう。一体どうして?」
カレル:「そ、そう思われますよねえ、やはり…」
アンダイン:「…?」
カレル:「あっ、怪しいものではございませんよ!お尋ね者とかでは、そう、犯罪などは生まれて一度も…!」
アンダイン:「ふふ。悪い方なら、行き倒れるようなヘマはいたしませんでしょうね。」
カレル:「う…お恥ずかしい。しかし、命の恩人であるお嬢さんを、怖がらせてはいけないと‥。」
アンダイン:「私はお嬢さん、なんて年ではありませんし。怖い思いなら、あなたを見つけた際に。」
カレル:「…あはは。本当に、ご迷惑をお掛けいたしました。」
アンダイン:「いいんですのよ。そうです、お名前は?」
カレル:「申し遅れました。私はカレル。王立学園で学者をしております。この村の風習や地形について調査をしたいと…思いまして…ん?むむ…(考え込む)」
アンダイン:「?どうかされましたか?」
カレル:「…いえ、あなたの方こそ、なぜあんな時間に川にいらっしゃったのかと...。こうして手当を頂いてなお、夜明けまでは時間がありますでしょう。夜中に、たまたま目を覚ましたのでしょうか?それにしては、身支度が整いすぎている。
人目をしのぶ時間…水浴びをされるところだったのでしょうか?
いいえ、ここの明け方は冷え込みます。それに、風呂がないような家にも見えません。極めつけに、先程から時計を気にしていらっしゃる。
なにか約束があるご様子…
っもしや!!逢引のお邪魔をしてしまったのでしょうか?!?」
アンダイン:「(終わり際から笑いだして)...あはは!面白い方!
私はアンダイン。職業はパン屋。
毎朝新鮮な水をくんで、それから仕込みをはじめるんです!
…それで、宿の朝食用にパンを
すぐに支度しないといけないの。ふふ。ご納得いただけたかしら?」
カレル:「っなるほどなるほど!先程いただいたパンが大変美味しかったのはそのせいでしたか…。ああ、お忙しいようでしたら、自分はこれで…」
アンダイン:「お待ちになって。そんなフラフラの体でどこへ行こうというんですの?大人しく横になって。ろくに眠ってもいなかったのでしょう。」
カレル:「ああ...すみません。ありがとうございます。いや、その!普段であればお断りしているところなのですが…」
アンダイン:「余計なおしゃべりは結構ですよ。ほらほら。毛布もかけちゃいますからね。」
カレル:「…何から何までお世話になってしまい…はっ、心地よい毛布の重み。ふわあああ。し、失礼!もはや体面を保てる余力が無く…。旅の恥はかき捨てと……ぐう。」
アンダイン:「ふふ...そういえば、結局なぜお一人できたのか、聞きそびれてしまったわ。」
カレル:すやすや
アンダイン:「…また後で、ゆっくりとお話しましょう。彼の尾のご加護が、あらんことを。」
2
カレル(M):
焼かれた小麦の香りが、
いつの間にか登った太陽が、容赦なく
もう昼近くだろうか。こんなに眠ったのはいつぶりだろう。
アンダイン:「~♪」
遠くから聞こえる鼻歌に、ようやく頭が動き始める。
ああ。彼女がパンを焼いているのか...
冷めたものでも美味しかったと言うのに、出来たてはどれほどだろうか。
がぶり。さくり。じゅわり。
想像するだけで、口内が潤っていく。
しかし、それでも去らぬのが睡魔というもの。
対抗するように腹の虫がぐるると鳴き、
世にも贅沢な争いがはじまるのであった―
カレル:「…いや二度寝している場合か!私は王立学園所属第二等教授のカレル。
もう失態は犯さぬぞ。…すでに手遅れな気もするが。」
間
カレル:「ふう。――おはようございます!おかげさまでよく眠れました..」
アンダイン:「(被せながら)おはようございます!良かった。ちょうど昼食にお呼びしようとしてたんです。座って待ってらして。」
カレル:「…。見事に食事が準備されてしまっている…」
アンダイン:「何をややこしい顔をしているんです。ほら、一緒に食べましょう!」
カレル:「‥ありがとうございます。うん。ううん。いい香りで目が覚めましたが、味も素晴らしく良い。」
アンダイン:「でしょう!うちの自慢のパンですから。」
カレル:「本当に…このパンだけでも、ここに来てよかったと思います…。」
アンダイン:「あ、そうです!私、ずっと考えていたんですよ。学者さんが、どうしてこの村に?って。」
カレル:「ああ、お話していませんでしたね。」
アンダイン:「理由こそわからないけれど、きっと気になることがあって、飛び出してきたんじゃないかしら。そう考えると、一人行き倒れていたのも納得できますし…。ふふふっ。」
カレル:「ああ…勘の鋭いことで。」
アンダイン:「あら、そんな顔なさらないで。私、ワクワクもしているんです。」
カレル:「ほお。それは一体どうして?」
アンダイン:「この村に、其のくらい魅力を感じてくれたってことでしょう。私、この場所が大好きだから…ぜひとも聞かせてほしいの。あなたが、何を探しに来たのか。」
カレル:「何を探しに来たのか、ですか。そうですね、私は…。私は…。」
アンダイン:「…私は?」
カレル:「…すみません。寝起きでぼけてしまっているのでしょうか。お嬢さんの予想通り、思うことがあって、にわかに研究室を出てきたのですが…。」
アンダイン:「あら、やっぱり。」
カレル:「…私の専門は、大きく言えば地理学。中でも信仰と土地の結びつきを調査をしております。」
アンダイン:「ははあ。では、彼の尾について調べにいらしたのかしら?」
カレル:「…そうですね。これは私の持論ですが、伝承や信仰は、時にその根付きに理由があるものです。」
アンダイン:「理由…ですか?」
カレル:「例えば、ある水神を
アンダイン:「合理性、ですか。」
カレル:「こんな例もあります。森の神を敬い、最低限の狩りしか行わない部族。不必要な殺しは、神への冒涜として固く禁じられています。結果として、森の生態は維持され、彼らは困窮することなく、豊かに生活している…。どちらのも、生態系や地理について、深く理解しているわけではありません。ですが各々、地域に沿った教義が根付いている。」
アンダイン:「…神を思う心を、そんなふうに分析する方々もいらっしゃるのね。興味深いわ。」
カレル:「お気を悪くされましたか。信仰心を否定する訳ではありません。ですが、人間が生きる上で大切な指針を…神の言葉で肩代わりしてもらっている。そんな考え方もあるのです。」
アンダイン:「神の言葉は、時に人々の知恵から生み出されるもの。そう捉えていらっしゃると?」
カレル:「ええ。それで、この土地を観察した時に…なにか違和感があったんです。だから、自分の目で確かめたくて。ううん。それは自覚しているのですが―。」
アンダイン:「違和感、ですか?」
カレル:「…ここ周辺の環境と、まっすぐに走る川。豊かな水…。」
アンダイン:「彼の尾。私達が愛する、神からの恵ですわ。」
カレル:「そうだ。アンダインさんは、こちらのお生まれですか?もしよろしければ、地元の方から直接伝承を伺いたい。謝礼もお支払い致します。」
アンダイン:「ええ?それはいいですけど…謝礼なんて、受け取れませんわ。」
カレル:「いいえ!地元の方のお話は貴重です。文献のみでは分からない部分も多く、時にデタラメを掴まされることもある。
…何より私は、物事を知る上で、自分の目で見て、聞いたものこそを大事にしています。貴方のお言葉は、どんな資料にも変えがたい。それには、相応の謝礼をお渡しするべきでしょう。」
アンダイン:「そこまで仰るのでしたら…。あまり話し上手ではありませんけれど。」
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<声劇台本として使用する際は、伝承部分は読まなくても構いません>
アンダイン(M):昔々、あるところに。肩を寄せ合って生きる人々がおりました。
彼らの土地は貧しく、日々の生活で手一杯です。
時に荒野をさまよいながら、何とか暮らしておりました。
暑い日差しを避けて、歩を進めていたある夜。
空から、星が降ってきました。
紺色の空に、一筋の光。まばゆい金と橙の発火。
あまりの明るさに、その夜は、昼となりました。
舞い降りてきた星は、麗しき青年の形をしていました。
目も開けられぬ輝きを持っていた彼ですが、
地面に横たわったその体は、ひどくくたびれております。
光を
徐々に、熱が失われようとしていました。
「どなたか、私に食べ物をくださいませんか。」
息も絶え絶えに、その生物は語りかけました。
人々は戸惑いました。
明日の命も分からぬ中、ただならぬ雰囲気をまとっているとはいえ、
初対面の者に渡す食料などありません。
ですが、声を上げた娘が一人おりました。
「私のパンを、あげるわ。」
震える手で、固くなったパンを渡す少女。
その姿を見て、一人、また一人と。わずかばかりの食料を、彼へと差し出したのです。
その優しさに、彼は涙を流しました。
そして、こう語りかけたのです。
「あなた方の心の美しさに、感謝を申し上げます。私は古き神の血を引くもの。ある争いによって、天界より追放されてしまったのです。私の命はもう長くありません。この暖かな食事へのお礼に、持てる力を尽くし、繁栄を授けましょう。何を望みますか。」
「飢えることのない恵を。この地に水を。」
――そうして、彼の眠りと引き換えに、この場所に川が走りました。
人々は、その恵みに感謝し、村を築きました。
また、恵みをもたらした彼の、一番美しい姿を。
空へ走った金色の尾を、今も大切に、心のうちに描き続けているのです。
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カレル:「…なるほど。おおよその内容は知っていましたが。素敵な物語ですね。」
アンダイン:「そうでしょう。美しいお話。空を走る姿は火鳥のごとく…なんて、鳥の姿で描かれることもありますね。」
カレル:「しかし…。火の神のような姿で、水の施しが与えられたのですか。」
アンダイン:「ええ…そう言われるとそうね。でも、眠ると時に川になったっていうのは、どこか自然ではないかしら。彼の炎は…そう。消えてしまったわけですし。」
カレル:「それは、そうですが…ううむ。」
アンダイン:「…何かひっかかっているのかしら。でも。カレルさんから伺ったお話と違って、おとぎ話のようなものですから。」
カレル:「おとぎ話...ですか。そうですね。私の考えすぎかもしれません。しかし、調査の手前、収穫なしで帰るわけにもいきません。少し、この村を回ってこようかと。荷物をまとめてきます。」
アンダイン:「あら、お待ち下さい!よろしければ、今日も泊まっていかれませんか?」
カレル:「え、ご迷惑ではありませんか?調査はいつ終わるかわかりませんし…この村には、宿もあるようですし…。」
アンダイン:「あなたのお仕事に、興味が湧いてしまって。食事には困らせませんし、ソファの寝心地も悪くはなかったでしょう。先程の謝礼も結構ですから、いかがですか?」
3
カレル(M):強い日差しに、足元がゆらぐ。
食事は取ったというのに、まだ本調子ではないようだ。
カレル:「…学者という存在は、物珍しいのかな。あまり熱心なもので、つい受けてしまったが。それとは別に謝礼はしよう…それよりもだ。」
カレル(M):私は、確かめなければならない。
アンダイン:「何を?」(カレルの脳内にのみ響く声)
カレル:「何って…だから、その…。なんだ、幻聴か?」
カレル(M):意識に砂がかかっているようだ。
ここ数日の、栄養失調のせいだろうか。
調査目標を見失うことなど、これまで一度もなかった。
むしろもっと周りを見ろと、師匠から言われてばかりだというのに。
カレル:「…このボケようはひどすぎるな。散歩でもして、思考を整理しよう。」
カレル(M):川沿いに向かって、歩き始める。‥不思議だ。
アンダイン:「不思議?それはなにが?」
カレル:「何がってそりゃあ…。くそ、この声は一体何だ?」
アンダイン:「ここは、いい街よ。」
カレル:「ああ。いい街だ。人々も、穏やかに暮らしている。だから…」
カレル(M):ふと気づく。遠目からでも目立つ、小高く盛り上がった丘。
そこだけ、取り残されているかのように、何もない。何も。
吸い込まれるように近づいてく。少しだけ見上げる。
カレル:「あの頂上からなら‥街を見渡せそうだな。」
アンダイン:「…駄目よ。」
カレル:「‥あ?」
アンダイン:「それ以上、足を踏み入れないで。」
カレル:「っなんだ…さっきからなんなんだ…!」
アンダイン:「そこに、足を踏み入れないで。」
カレル:「くそっ。伝承にこんな話はなかっただろう…?この場所はなんだ。彼の尾の伝説には、成り立ちだけではなかったのか…?」
アンダイン:「忘れて。ここは、彼の者に愛された地。あなたが覚えていて良いのは、それだけ。」
カレル:「…まって、くれ、この、声、は――(徐々に意識が遠のく)」
アンダイン:「――彼が眠る土地。ここは、それだけの場所なのよ――恐れ知らずの旅人さん。」
間
カレル:「う…」
アンダイン:「…お目覚めですか?」
カレル:「あ…ええ。私は一体…そうだ、丘の方に。」
アンダイン:「(かぶせるように)道端で倒れていたそうですよ。急に、外を出歩くからです。」
カレル:「え、ああ。申し訳ない…。ここまで、運んでくださったのですか?」
アンダイン:「運んだのは別の方ですけれど。騒がしいので外に出たら、中心に貴方が倒れているじゃありませんか。今度こそ、捕まるところでしたよ?」
カレル(M):…おかしい。あの丘の近くには、誰もいなかった。宿からも少し距離があるだろう。わざわざ道端と言い換えたのはなぜだ。
それに、あの声は――。
カレル:「…。そうですか。お手数をおかけいたしました。」
アンダイン:「いいえ。それより、お水でもお飲みになって。」
カレル:「…。」
アンダイン:「どうされたの?早くお取りになって。」
カレル:「これは…ここの水ですか?」
アンダイン:「そうですけれど。昼食に出したものと同じですよ。それが何か?」
カレル:「いえ、ありがとうございます。いただきます…」
カレル(M):直感が、不器用に手の軌道を変えた。
広がる染みから伝わる冷たさに、居心地が悪くなる。
カレル:「お、おっと…」
アンダイン:「あら…。まだ、ご気分が優れないようね。」
カレル:「すみません。手元が狂いまして。」
アンダイン:「匙ですくってあげましょうか。はい、お口を開けて。」
カレル:「いやいや、そんなことをしていただくわけには。」
アンダイン:「脱水でも起こしたら大変です。ここの日中は暑いですから、ね。」
カレル(M):視線と手つきに、いままでにない圧を感じる。
それでもなお口を開けようとしない私に、
彼女は根負けしたようにため息をついた。
アンダイン:「…いまは、お飲みになりたくないのかしら。」
カレル:「はい。その…気分が。すみません。」
アンダイン:「仕方がありませんね。水瓶、置いておきますから…気分が良くなったらお飲みください。」
カレル(M):静かに部屋を去る彼女の背中に、疑問が次々と浮かんでくる。
カレル:「…私は、本当の神域に踏み込んでいるのか。もしくは、呪術の類か…」
カレル(M):先程の幻聴が、何かのヒントになるかもしれない。
おぼろげにでも覚えているうちに、書き付けなくては。
カレル:「っそうだ!ノート。研究ノート。なぜ今まで忘れていた…?!」
カレル(M):少ない荷物の一番底。
分厚く擦り切れた私の記録。
ページをめくる音に、焦る鼓動が加速する。
辿った先には、かき消されそうになっていた疑問の答えが。
いや、疑問そのものが、記されていた。
カレル:「砂漠の只中、突如現れる水の街…相反するように、発達した火の神の伝承。彼の尾。妙だ。
これほどの貴重な資源を持ちながら、オアシスとして栄えることもなく、時に地図からも忘れられている。…この場所は一体?」
4
アンダイン(M):「水と油、犬猿の仲。その関係性すなわち、水と火の神。
…私たちは、互いにその子供だった。」
アンダイン(M):「人から見れば、ありふれた恋物語でしょう。周りが遠ざけようとすればするほど、私達は惹かれていった。彼の燃え盛る髪も、瞳も、その心も。私には、眩しすぎる光だった。それでいて、私に近づくときに、抑えるように揺らぐ炎…」
アンダイン(M):「愛している、という言葉よりも。その葛藤が――何よりも愛おしかった。もどかしかった。何にも縛られず、うねるような彼に近づきたいのに、距離を縮めるたび…この体は耐え難い乾きに襲われる。少しでも呼吸が荒くなると、途端に彼の火は弱まり…他では決して見せない、優しい色になった。」
アンダイン(M):「互いの身を削りながら、必死に寄り添う私達を、どちらの家も許さなかった。逃げるように、追われるように。持てる
アンダイン(M):…過去の甘い回想。何度なぞっても、その結末は変わらない。
桶を撫ぜると、わずかに残った力に反応し、水が踊る。
ぴちゃり。音が跳ねるのと同時に、扉が開く。
カレル:「…アンダインさん――貴方に、お聞きしたいことがあります。」
アンダイン:「…なにかしら。」
アンダイン(M):血色の悪い顔。
しかしその瞳は、隠しきれない興奮に、輝きを放っている。
そこに、私は確かに。
カレル:「この村は、いいえ、貴方は――何かを、隠してはいませんか。」
アンダイン(M):抑えきれない好奇心。真実に近づかんとする心。
彼の尾の如き閃光。
見つかったのだ。祈りの水膜をも、焼き尽くす炎に。
アンダイン:「…ここは、彼の者が眠る土地。それ以上でも、それ以下でもありませんわ。」
カレル:「私には…そう思えないのです。この土地に辿り着くまで、確かに感じていた疑問。それが何度も遮られ、終いには幻聴まで聞こえてきた。…貴方の声で。思考が妨げられる感覚。これらは、川の水、そしてそれを使った貴方のパンを口にしてからです。」
アンダイン:「…この土地の水が、お体に合わなかったのかもしれないわ。」
カレル:「(遮るように続ける)貴方のお名前…アンダイン。別の言語では、水の精霊を表す言葉だ。これは偶然でしょうか。燃えるような伝承、見渡す限りの砂景色。しかし不釣り合いなほど、ここは豊かな水の街です。ですがその資源によって栄えることもなく…。穏やかすぎるのです。この国は万年、水不足に悩まされている。近隣に存在が知れたら、多くの人々は移住を望むでしょう。貿易や国防の要所としても、国が目をつけないはずがない。それなのに―!」
アンダイン:「…落ち着いて、カレルさん。この村が、穏やかに暮らしていること。それが貴方にとって、なにか問題があるのかしら。」
カレル:「ご存知でしょう…この国の大半は砂漠です。資源は乏しく、周囲は列強に囲まれ、常に侵攻に怯えている。この土地は、そういった憂いを退け、暮らしを豊かにしえる存在です。より大きな利益の追求のため…そう、民衆のためなのです。」
アンダイン:「ふふふっ…嘘。繁栄ばかりを目的に来た人は、みな、洗脳に流されていったわ。」
カレル:「…っ!やはり、何らかの力でもって、隠していたのですか。」
アンダイン:「貴方の言うとおり。このオアシスが、なぜ人で溢れること無く、襲われることもなく。穏やかに時が流れているのか。…私の思い描いた信仰が、今も火を灯しているからよ。」
カレル:「…それは一体、何のため、ですか。」
アンダイン:「貴方が本当に知りたいのは、そこなのでしょう?」
カレル:「…は。」
アンダイン:「こんな日が来ることは、覚悟していました。私がこの地に堕ちてから、長い月日が経っています。弱まっていた神力は、輪をかけてその姿を失い…。今では毎日、川に細工をし、パンに混ぜ物をすることで、ようやくまやかしを保っていましたから。」
カレル:「…。それでは、貴方は。」
アンダイン:「邪な気持ちで来た方であれば、何に変えても追い返すつもりでした。しかし、純粋な情熱には敵いませんね。」
カレル:「…情熱、ですか。」
アンダイン:「ええ。貴方の瞳に映る好奇心。彼の尾の如く美しく、そして眩しいわ。理解したくてたまらないのでしょう。どうやって、この街が、この信仰が生まれたのか。」
カレル(M):穏やかな青い瞳に見つめられ、途端に恥ずかしさを覚える。
いつもこうだ。目の前の疑問に飛びつき、脇目も振らず行動してしまう。
生き急ぐなと、何度忠告されただろう。
カレル:「…すみません、夢中になってしまい。失礼なことを申し上げたかもしれません…その、この土地を守るお方に。」
アンダイン:「いいんです。いつか、誰かに真実を知ってほしいと思っていました。
カレル:「そんなことはありません。貴方には貴方の…そう、この生活を守るための、合理性がきっとお有りなのでしょう。」
アンダイン:「ふふっ。合理性なんてもの、古き者にはありませんわ。我々はもっと愚かで、浅ましく―それでいて、それを貫けるだけの力を、持って産まれてしまった存在なのですから。」
カレル(M):
そうして彼女が語った、本当の成り立ち。
愛しあっていた、若く未熟な神の子ら。
諍い《いさかい》の末、天から堕とされた二人は、遊牧の民のパンに救われた――
しかし彼の火は、彼女を守るために使い果たされ、燃え尽きようとしていた。
アンダイン:「彼は、強くて優しい人だったから。いつか必ず、この土地に火を灯しに戻ってくる。それまで、君の流れを。救ってくれた人々を、守っていてほしい。そう告げて――物言わぬ体になってしまった。」
カレル:「…それでは。あなたは彼の者と、共にこの街に来たのですね。」
アンダイン:「ええ。でも、一人ぼっちになってしまった。あまりの悲しみに、涙は止まらず…溢れる力は、絶えることのない川を作ったわ。」
カレル:「では、彼の尾というのは‥。」
アンダイン:「彼の一番美しい姿だけを、残したかった。みなに覚えていてほしかった。でも
カレル:「そうして、この川と村…。そして彼だけを称えた伝承が、貴方の手によって生まれたと。」
アンダイン:「合理性も何も、あったものでは無いでしょう。これは、私のわがままそのもの。」
カレル:「彼が本当に眠っているのは…川ではなく、あの丘なのですね。」
アンダイン:「察しが良いのね。あそこにだけは、人を近づけないようにしているの。ただの丘…そう思って、誰も気に留めていないわ。」
カレル:「アンダインさんは、彼が戻ってくると、信じているのですか。」
アンダイン:「はじめの頃は、彼の炎が地面に流れているような、そんな感覚があった。けれど、徐々にその熱も、私の神力も弱まっていき――この土地の暑さに混ざって、今は、分からないわ。」
カレル:「‥愚かな質問かもしれませんが。彼を起こしに行こうとは、思わないのですか。」
アンダイン:「…あなたの好奇心は、どこまでも答えを求めるのね。」
カレル:「わかっています。私の良くないところですとも。ですが、あなたの言葉を全て信じるなら。
そのご加護は、薄れつつある。近い先、ここの存在に他の人々も気づくでしょう。その前に彼の言葉の答えを、確かめたいとは思いませんか。あなたの祈りが、今も続いているのなら。彼の祈りも....きっと残っている。そんな気がしてならないのです。」
アンダイン:「仰ることは、わかります。けど、その問いに向き合う勇気があるなら‥私は今も、こうしているかしら。」
カレル:「答えを遠ざけることが、あなたにとっての救いだと?」
アンダイン:「私たち長命者は、人とは違います。墓を暴いたところで、骨が残っているかも分からない。砂深くに眠る彼の息吹が‥完全に失われた事実を、見るのは怖いわ。」
カレル「人間のようなことを仰るのですね。しかし私は、自分の目で見、聞く事こそが重要だと考えています。今日お話したように…。それこそが私の
アンダイン:「ふふ。傲慢ね。でもその驕りこそ、あなたの純粋さ。」
カレル:「今一度、向き合っては見ませんか。先程申し上げた言葉も、あながち嘘ではないのです。」
アンダイン:「..というと、国政としてのお話かしら。」
カレル:「ええ。あなたの力が少しずつ失われたように。情勢も変化し続けています。周辺国家の発展は
アンダイン:「もしそうなれば、今のような街では無くなってしまうでしょうね。」
カレル:「思い出の場所を、踏みにじるつもりはありません。ですが、あなたの力によって、この先の歴史が曲げられようとしている…それもまた事実でしょう。彼は、本当にそれを望むのでしょうか?むしろ、文明の灯を点すことこそ...新たな弔いになるのではありませんか。」
アンダイン:「…少し、考えさせてください。お若い光よ。私の過ごした年月は、
カレル:「ええ。…もちろんです。アンダインさん。私は、
アンダイン:「貴方も、まだ顔色が優れませんから。この桶の水には、何も細工をしていません。きちんと飲んで、お休みになってください。」
カレル:「ありがとうございます。それでは、また明日。」
アンダイン:「ええ。少し早いですが、おやすみなさい。...彼の尾のご加護があらんことを。」
5
カレル(M):砂漠の夜は、よく冷える。
毛布の下で、足をせわしなく動かす。眠れない。
カレル:「本当に生活自体は、人と変わらないように見える。むしろ王立学園の連中よりも慎ましく、質素で…好感が持てる。」
カレル(M):信仰の文脈は、幾分可愛らしいものだった。
人知を超えた存在によって、我々の生活が変えられてきたという、めまいのする事実を除けば。
カレル:「はあ。この題材を取り扱うに当たって、敬意を払ってきたつもりだが。」
カレル(M):私が見出してきた合理性とは、果たして本当にそうだったのだろうか。知らずのうちに、我々がそうするように仕向けられていなかったと…
どうやって否定できよう?
信仰が先か。教義が先か。違う。神の存在が先なのだ。
当然の事実を、眼前に突きつけられた気分だった。
カレル:「少しばかり胃が痛いなあ…。だが、ここに来てよかった。」
カレル(M):冷たく浮かぶ月を見ながら、感じた限りの思いを記していく。
気がつけば、意識は水底に沈んでいた。
間
アンダイン:「あら。おはようございます。」
カレル:「おはようございます。昨日は、よく眠れましたか。」
アンダイン:「おかげさまで。パンもご覧の通り。天気も良くて、いい朝ですわね。」
カレル:「…。」
アンダイン:「ふふ。結論は、そう急ぐものではないわ…と、言いたいけれど。
貴方と私では、生きる流れが違いすぎるわね。燃えるように生きる貴方とは。」
カレル:「っ!すみません。...そんな顔をしていましたか。」
アンダイン:「別に、嫌な気持ちではないわ。そうね。一晩、考えてみたのだけれど…。」
カレル:「…はい。」
アンダイン:「うん。放って置いたら、あなたはきっと、無理やり見に行くでしょう。そんな気がするわ。それなら、その結果を独り占めにはさせません。」
カレル:「…。なんだか、不名誉というか…。」
アンダイン:「食事をしたら、出発しましょう。砂を掘り起こすのは、思っているほど簡単じゃないわ。あなたの命が尽きちゃう前に、私の力が枯れる前に。彼に…もう一度お別れしにいきましょう。」
カレル(M):そういう彼女の瞳は青く凪ぎ、感情を読み取ることはできなかった。
違う時間軸。異なる価値観。しかし確かに、生きている。
カレル:「…わかりました。それでは。」
アンダイン:「ええ。いただきましょう。」
間
アンダイン(M):前方から吹く風に、砂が混じって目を細める。
進みたくはないけれど、足を止めるつもりはない。
彼の不在を、見つめ直す寂しさ。苦しさ。
涙の流し方は、もう忘れてしまったけれど。
カレル:「…。」
アンダイン:「やけに静かね。あなたなら大興奮かと思ったのに。」
カレル:「昨日、色々と考えてしまって。ですが、心臓は嘘をつきませんね。先程から高鳴りがやまず。うるさいくらいです。」
アンダイン:「あまり…期待はしないで。これは、彼の優しい嘘を暴く旅。
だけど、もし彼の火を見ることができたら…学園に戻って、国中に語り継いでくださいね。彼の尾の伝承とともに。」
カレル:「ええ。もちろんですよ。」
アンダイン:「ふふ。さあ。着いたわ。」
カレル:「…具体的には、どうするつもりなのですか?丘に眠っているというのは…。」
アンダイン:「砂丘をどかすわ。」
カレル:「へ。」
アンダイン:「少し、離れていてね。」
カレル(M):そう言い終わった途端、彼女の手の先から…空間が歪む。
その流れは、水のような…だが、目には見えない空気の層となって。
穏やかに、しかし速やかに、小高き砂を削り去っていく。
カレル:「っはは…!これが、神力というものですか…!」
アンダイン:「昔だったら、一体に洪水を起こせたのだけれど。今は、イメージするだけで精一杯なの。この力も、きっと今回限りだわ…。」
カレル:「ははあ…。貴方は本当に、古き神なんですね…。」
アンダイン:「ふふふ。貴方は自分の目で見たものと、聞いたものを信じる、でしょう?しっかりと脳裏に焼き付けておいてね。さあ、あと少し…何か残っているかしら…。」
カレル(M):穏やかにその層を減らしたとはいえ、しばらくは酷い砂煙に覆われる。落ち着くのを待って、恐る恐る彼女が近づいた。
アンダイン:「…やっぱり。なにも残っていないわ。」
カレル(M):代わり映えのない、砂景色。その面積が広がっただけ。
そんな悲しい目に、抗いたい衝動が生まれてくる。
アンダイン:「形見の砂と思って、拾うだけ拾って行きましょうか…」
カレル:「がっかりするには、まだ早いですよ。もう少し…この辺とか、少し手でさらって…。掘ってみたら…!」
アンダイン:「この地と一体になったと言うなら、それでいいのよ。私はこの先も、この場所で生きるから…。」
カレル:「何か…何かある気がしているんです…!ん。待ってください。ほら!ここ、何か妙だぞ…」
アンダイン:「ええ?」
カレル:「…ここ、ここです!黒い水のようなものが…」
アンダイン:「本当だわ。何かしら、これ…」
カレル:「っどうも、地面から湧き出ているようです…こんなにも黒く、粘性のある液体は見たことがない。まして、自然界の中で…!」
アンダイン:「この黒いもののが、彼の遺産だっていうの…?」
カレル:「まだ分かりませんが、可能性は高いと思います。
…そうと分かれば、アンダインさん!こちらは持ち帰り、王立学園にて分析します。結果はまた、ご報告にあがりますので!いかがですか?!」
アンダイン:「…ええ。ええ!ふふ。サラマンデル。これが貴方の形見なら…。
きっと、美しく燃えるのでしょうね。」
間
カレル(M):そこから、私の足は速かった。
持てる限りの黒い液体を持ち帰り、分析班に押し付ける。
絶対に火に関するものだと主張する私を、彼らは訝しげに見ていたが...。
度重なる実験の結果、極めて高濃度かつ、強力な燃料の原液であると結論付けられた。
カレル(M):「なぜ見つけるに至ったのか?」「どうやって砂を掘ったのか?」
彼女のことを、敬意という言葉を知っているかも怪しい連中に話すつもりはない。
今回のことで、いかに私が取り扱う分野が危うく―傲慢であったかを思い知ったからだ。
土着信仰と、地形の結びつき。
そんな言葉で濁したが、それでも評価を得たことは居心地が悪かった。
カレル(M):「燃え盛る水」。誰ともなく呼び始めたその名前は、
遂に新聞の見出しとなり、人々の心も踊らせた。
とはいえ、採掘方法も、利用方法も確立されていく段階だ。
調査団に同行し、一刻も早く彼女のところへ――。
だが、此度の無断欠勤を咎められた私は、当面の現地調査を禁じられてしまった。
研究チームの補佐に付きながら、彼女に火を見せる日を待ち遠しく思っていた、
ある日のこと。
学園職員(アンダイン):「…大変です!帝国が…!」
カレル:「む。一体どうしたんです?そんなに慌てて。」
学園職員(アンダイン):「…バーバニア帝国が、燃え盛る水の噂を聞きつけ、採掘場である村に攻め入り…。そのまま、落としたと。調査に向かっていた職員も、多くが犠牲になったそうです。」
カレル:「…は。」
学園職員(アンダイン):「当然それだけに留まらず…。これから我が国と帝国は、戦争状態に突入します。カレル様。師からの言葉を単刀直入に申し上げます。国外へ脱出へしろと。」
カレル:「…おい!なにを言ってるんだ。反逆罪にも問われる発言だぞ。私はこの国…いや、あの村のために…!そのすべてを投げ出して出ていけというのか?!」
学園職員(アンダイン):「帝国がこれまで侵略してこなかったのは!我が国に…侵攻するだけの価値がなかったからです。ですが、今回の一件で変わってしまった。ましてあの村は水も豊富で、戦略的にも要地です。国境近くだというのに…何故事前に軍を配備しなかったのか。今でも悔やまれます。」
カレル:「…なんてことだ。彼女の力は、それほどまでに弱ってしまったのか…。」
学園職員(アンダイン):「…悔しいですが、師は今回の
カレル:「師が…。そんなことを?」
学園職員(アンダイン):「私としても、その言葉に賛成です。…残念ですが、王のお言葉を見るに、戦闘の人員確保よりも優先される事項はありません。貧弱な体を引きずって野垂れ死にするよりも、貴方にできることをするべきです。」
カレル:「…。」
学園職員(アンダイン):「時間は多くありません。…軍の者に見つかる前に、さあ。ご案内します。」
カレル:「駄目だ…行かなくては。彼女のところへ…!」
学園職員(アンダイン):「カレルさん?!どこへ行かれるのですか!カレルさん!!」
間
アンダイン(M):サラマンデル。
貴方の残した尾は…この国の命脈となり。
今、戦の火種となって燃え盛っている。
カレル(M):掘り進めた先にたどり着いた結果は、身に余りすぎるものだった。
貧弱な土地に住む我々が得た力は、
アンダイン(M):ねえ、カレル。
己を信じ、目をそらさず、たどり着いた真実の果てにーー
国が滅びに瀕するだなんて、想像したことはあったのかしら。
カレル(M):
燃料として高い質を誇る、黒き神の水。
帝国は、その根源から手に入れんと動いた。
当然だ。
歴史を曲げなければ、こうなることを…予見するべきだった。
水の加護を失った穏やかな村は、侵攻に為す術もなかっただろう。
アンダイン(M):勘違いしないでね。
あなたのこと、恨んだりしていないわ。
力を失う寸前まで踏み出せなかった私を、連れ出してくれて、ありがとう。
そして、彼そのものである遺産が、こんな風に燃える様を。
もう一度火が灯る様を見せてくれて――。
アンダイン:「ああ…美しい光だわ。」
カレル(M):途方もなく続く砂景色。
その全てがもどかしく、寝食を置き去りにして。進む。進む。
昼から夜へ、夜から昼へ。気温差が体を
アンダイン(M):戦火は
私の築いた脆弱な信仰よりも、この傷跡は、歴史にずっと深く刻まれるでしょう。
村の人々は気の毒だったけれど、争いは絶えず、敗者は流れ行くもの。
いつかの私達のように…。
カレル(M):
遠目に映る街。ここからでも分かる異変に、唾を飲み込む。
砂粒に、零れ落ちた涙が染み込んでいく。
一歩。二歩。よろめいて進む、三歩。
カレル:「ああ…。あああ…!!!」
アンダイン(M):
ああ。おやすみ。世界よ。愛しき人々よ。
あなた方が、大地を燃やし尽くす前に、この儚い黄昏に。
彼の尾の隣で。眠りにつくわ。
カレル(M):
朝焼けの中、砂に
墓標すらない、炭と化した街を、瞼に焼き付ける。
ああ、さらばだ。水の街よ。私の罪よ。
アンダイン(M):カレル…。
あなたの旅路に、彼の尾のご加護があらんことを。
水底より、祈りを込めて。
間
カレル(M):(ノートの走り書き)
「私は、この目で見た結果を受入れ――逃亡した。」
「好奇心は時に、信仰の、文化のありようすらも変えてしまう。」
「だが時に、その燃える様すらも、辿るべき歴史の運命ならば。」
「私は、この目で見、聞き、知ろうとすることを止めないだろう。」
カレル(M):「但し、火を灯した先を見通せぬ
――――今日を限りに、この砂に埋めていく。」
長命者の永き尾(0:1:1) Si @spineless_black
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