girl


じんわりと夜が始まる


嵐は止まることを知らず

立て付けの悪い彼女の家を揺らす。

家に着いたずぶ濡れの彼女は、キッチンの

上の棚からガサゴソとティーパックを取り出し、お湯を沸かしている間に大急ぎで風呂に入った。

湯気が風呂とキッチンで泳ぐ。

風呂から上がった彼女はティーパックにお湯を注ぎ、レモンを絞りリビングへ持っていった。

ソファに座りゆっくり飲み干すと、

昨日途中だった映画の続きを見始めた。

40分たったあたりから睡魔に見舞われ、

意識朦朧とする中床についた。


彼女の名前は蛇。

2歳までは路頭に迷う生活をしていたが、

ある日通りすがった若く美しい女性に家に誘われた。 目から溢れ出した合図をその女性は

聞くまでもなくそっと手を繋ぎ家へ導いた。

名前をつけられ、学校にも通わせてもらい、

世間からも人として扱われるようになった。

ただ、名前や境遇からハブられたり、辱められたりしていた。

そんな時に心の拠り所にしていたのはある本だった。

挫けそうになった時は惰性で、とにかくそれを愛し続けた。


『ゲンローの草案』



2章の初めの5行くらいの文、人間離れした預言。

散らばった肉片を固めたような生々しい人間の欲を、いとも簡単に調理し盛り付ける。

求めていた領域の極地に触れた彼女の頬と顎は

その瞬間みるみる溶けてもはや形を失った。


以降その魔性の味を知った彼女の頬や顎は

元に戻らないまま彼女は青年になってしまった。












「嗚呼美しい。なんて美しいのでしょう。

人の生涯は列車のようで、結末が決まっているという退屈、。でも、

これがあれば私は、、。

何にでもどこへでも、、。

この周遊から下車して、いや解脱して、、。

最も私が私らしい形を以て、、。

半径-N kmの旅が始まる。

始めることが出来る、、。

この足で、羽ばたき始める、、。

私はこの作者の元へ誘われている、そんな気がする、。

行かなきゃ。」





















何もかもあって何もかもないこの世界への

草案。

却下され続けることで保たれているこの世界の均衡。

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