第181話 人事評価と冷凍庫
「この箱に水とか入れとくと凍るんだ」
ガスパルが冷凍庫を舐めるように見回しながら面白いことを言った。
「そうか!これ、魔法か何かだろ?」
いや、そうじゃない。
ため息交じりにミルコが言った。
「ガスパルさん。カイトさんが持ってきたものなんだから魔法とかじゃないでしょ。何か科学技術的な装置ですよね、カイトさん?」
「その通り。これは本来食料を保存する為の装置だ。肉も冷凍させといて食いたい時に解凍して使うんだ」
するとガスパルは妙なことを言い出した。
「え……肉を買ったその日以外にも食えるって事か!?」
「ん?どういう事?」
「いや、肉ってすぐ虫が湧くだろ?まあ俺は焼いたら虫ごと食えるから別に気にしねえけどよ」
「すげえなお前、引くわ……まあちょっと待ってろ。カブ90デラックス取ってくるから」
ガスパルの食生活にドン引きしながら俺はカブに乗って家に帰る事にした。
「ターニャはここで二人のやってる事見ててくれな」
「分かったー」
――ドゥルルルン!
「カイトさん……。
「そうだなー、まあ
「ですね!あの二人性格も能力も全く違いますけど意外と上手くやってるみたいです!」
ここで俺はウチの従業員の社員としての能力値をザッと大雑把に評価し、カブに話してみた。
ミルコ……社交性A、協調性A+、運動能力C、メンタル耐性C、発想力B。
ガスパル…… 社交性C、協調性 C〜D、運動能力S、メンタル耐性C、発想力?
「……って感じだと俺は思ってる」
「あははは!やっぱりガスパルさんはグラフ
「ウチの人間として安心感が持てるのは間違いなくミルコ!だが今後伸びそうなポテンシャルを多く秘めてそうなのはガスパルかなー」
「あっ、それなんか分かる気がします!ちなみに僕はどうですか?全部Sだったりしませんか?」
「いやお前は人間じゃねーだろ?まあ、……あえて評価するなら燃費SSSパワーCってとこか?」
「えー!?もっとこう人格面の話をして下さいよ」
「だからお前は人じゃねーって言ってんだろ!……ただまあ真面目さはトップクラスだよ。メンタルは微妙!」
「ガーン!僕ってメンタル弱かったんですか!?」
カブはショックを受けている。やっぱりメンタル弱いじゃねーか!
などとアホなことを喋っている間に自宅に着いて、俺はカブ90デラックスに乗り換え再び山道を下る。
カブはもちろん自走して俺の後ろについてきている。
そして20分後、俺達はまた本部へと戻ってきた。
「おーっす、お待たせ。コイツがその冷凍庫の電源だ。ちょっと今から取り付ける」
早速ガスパルが寄ってきた。
「なんかよく分かんねーけど食料が長持ちするなんてサイコーじゃん!」
「だろ?ガスパルとミルコは引き続きガソリン作り頼むぞ」
「おう!」
「はい!」
というわけで早速俺はカブ90に電源ソケットを取り付けにかかった。
俺はカブ90の配線なんていじったこともないしja44とは配線の色も違う。
しかし取り付ける所はUSB電源と同じくキーシリンダーから伸びたアクセサリー(ACC)配線だ。
これはキーをONにすればバッテリーやレギュレーターからの12〜13Vが通電する線である。
バッテリー直だと冷凍庫のコネクターを差しっぱなしにしてしまった場合、確実にバッテリーがあがってしまうだろう。
ACC配線から取ればその心配も大きく減らす事が出来る。
俺はソケットの取り付け作業をしながら、とある考えに至った。
「なあカブ、この世界でウインカーとかテールランプとかブレーキランプって……いる?」
カブは悩ましげな表情を浮かべた。
「……ぶっちゃけ要りません。要りません、けど……なんか寂しいですね」
「分かる、分かるぞ!お前っ!その気持ち分かるぞー!!」
「おじ、カブ!わからん!」
おっと、カブとの会話に入ってきたのはターニャだった。
「ターニャ、お前、この赤いランプがないとなんか物足りなくねーか?」
俺はテールランプをスポッと抜いて、赤い光が出ないカブにした。
「ほら、どうよ?何かさみしい感じしねーか?」
しかしターニャは首を傾げて困惑していた。
「えー……いやー、わかんない……」
くあー、そうか。ターニャはまだバイクのイメージが定着してねーもんな!
「ターニャちゃんもそのうちこのテールランプの良さに気付きますよ!」
「……ふーん」
ターニャはやはりよく分からんといった顔だ。
ま、そもそも現代人の俺と同じ感覚の方がおかしいしな。
なんて会話をしているうちにソケットの取り付けが完了した。
早速この小型冷凍庫を稼働させてみよう!
まずはキックでカブ90のエンジンをかける。
――シャルッ……ルルルードゥルルルルン!
それからたった今取り付けたカーチャージャーソケットに、冷凍庫から伸ばしたコネクターを突き刺し電源を入れる。
――コォオオオオ……。
ターニャがちょっとはしゃいで言った。
「おおっ、おじ!なんかこれ、うなってる!」
「おう、コンプレッサーの可動音だな。ちゃんと動作してるぞ!」
「カイトさん、コレに水を入れると凍るんですよね」
ミルコもちょっと楽しそうだ。
「そうそう、水は家から持ってきたぜ。設定温度をマイナス20℃にしてガンガン冷やすぞ!」
バタン……。
俺は水を入れた製氷容器を中に入れた。後は待つのみ!
「あ、肝心のガソリンの方はどないだ?」
俺は二人の方を向いて聞いた。
ミルコとガスパルは顔を見合わせニヤリとした。
「カイトさん、ガソリンタンクを見て下さい。すでに4分の1ぐらい溜まってますよ」
「マジか!?まだ1時間ちょいしか経ってないのに……ははっ。冷却効率を上げたからかもな」
一般的にガソリンの消費期限は2〜3ヶ月だ。どうせなら今出来るだけ作っておこう!
それから俺達はその日、夕方までに20リットルタンク5つ分……すなわち100リットルほどのガソリンを精製することが出来た。
俺は皆に呼びかけた。
「明日の出発の準備は万全か?」
「もちろんだぜ!」
「はい!」
「はい!お任せくださいカイトさん!」
「ういーー!ターニャがんばる」
……。
その日の夜、セシルは一人でカブで家に帰って来れていた。
「よっしゃ。セシルのカブ通勤も問題なさそうだな」
「うん、大丈夫。カイト、明日から頑張ってね」
「ああ、なるべく早く帰ってくるからな!」
俺はセシルとハグをしてその日は早めに寝た。
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