第180話 ガソリンの日
「じゃあターニャ。後で家帰って紙に書いて電気の事教えてやる」
「うんっ。おねがい、おじ!」
ターニャはこちらに手を合わせてお辞儀をした。嬉しそうだな。
その後俺ははもう一つの蒸留装置を同じように作って、ふと気がつくと辺りは真っ暗になっていた……早えーな、もうこんなに暗くなるのか。
――サアァァァァーー……。
精油所を吹き抜ける風が冷ややかだ。
季節の変わりようは日本にいた時とよく似ていて、少し風情を感じる。
「じゃなガスパル。明日朝また来るな」
「おう。待ってるぜカイト!」
――ドゥルルルン。ガタッガタッ……。
カブで山道を登り家に帰ると、セシルが夕飯を作ってくれていた。
「おかえり。簡単なやつだけど出来てるよ」
「お、シチューか!ありがとうセシル」
「トンテキはまた明日にすっか」
俺はターニャが肉を食いたがってた事を思い出した。
「うん……」
あ、コイツすでにちょっと眠くなってやがるな!目がショボショボしている。
何気に今日は早朝から往復300キロ移動したりしたし……そう考えたら俺も眠くなってきたぞ。
「今日は早くご飯すませて寝よっか」
セシルもちょっと目をパチパチさせている。
「ああ、そうだな」
……。
その日は飯を食い終わり軽くシャワーを浴びると、皆さっさと居間で横になった。
ターニャを間に挟んで横になった状態で、セシルが俺に
「ねえカイト」
「ん?」
「明日は私、出勤の時カブで山を下りてみる。今日嫌というほど練習したから」
「おお、……いいじゃねーか。バイクなんて慣れが全てだ。山道だって同じよ」
「だね、おやすみ」
それっきりセシルは声を発さなくなった。
そして俺の隣には完全に目を閉じて深い眠りについたターニャがいる。お前さっきあんだけ電気の話聞きたがってたじゃねーか!?
俺は実は工業高校出身で、そういった知識があったのだが……。
こいつめ!
俺はターニャの足の裏をこちょこちょした、するとターニャは一瞬ピクッ足を動かし、
なおも足裏を攻めると今度は「シャッ」と足を素早く動かして
「ぅうーん……みゃふみゃふ……」
謎の寝言を放ち再び静まる。
そのスヤァーっとした寝顔は、相当深い眠りにあることを感じさせるものだった。
うーむ、面白い奴だ。まあグッスリ寝るのは良い事だな。俺も寝るかー……。
――そして翌朝。いつものように俺は真っ先に目を覚ました。
今日はガソリン作りまくるぞー。
俺は二つになった蒸留装置が早速活用できる事に満足感を感じていた。
そうそう、昨日冷凍庫で作った氷を型から剥がしてまた作っとこう。
――パキッ、ガラガラガラガラ……。
今出来た氷は今日持っていく。
よし、後は
確かソケットの分配器があったハズだ。
「あ、カイトさん。おはようございます!」
玄関に行くと、カブがいつもと変わらない声で挨拶してきた。
「おはよう。今日、本部に行く前にお前にソケットを増設するわ」
「あ、了解です!冷凍庫用ですね!」
ここで俺はハッとした。
「……あれ、でもソケット……お前じゃない方がいいかも……」
「え?」
「だってお前に付けたら氷作ってる間は動かせないだろ?普段動かしてないバイクに付けた方が良いよな、どう考えても」
「あ、それは言えるかも……」
ちょっと考えてカブも同意する。
今、ウチには4台のバイクがある。1つは目の前の
カブ90カスタムの方はセシルが通勤用に使うので、残ったデラックスの方をガソリン精製用にしようという結論になった。
はんだごてを工具と一緒に持って行こう。
それからまたしばらく経って、朝飯を食って本部に行く時が来た。
同時にセシルのカブでの初出勤でもある。
「……じゃあ、行くね。カイト」
「おう、坂が急な所はエンブレかけながら走ればいいからな」
「セシルがんばれー!」
――ドゥルルル……ジャリジャリ……。
慎重に坂を
いい感じだ……。
ここで俺はカブ90に乗るセシルを見ていて気付いた。
「アイツ、俺より足長くね?」
「はい、確実に長いですね。そもそもセシルさん180センチぐらいありますから、それで当たり前ですよ!あれ、カイトさん悔しいんですか??」
「べ、別に……」
俺はカブのナチュラルな
……っと、俺は俺で軽油とガソリンの混合液(未蒸留の軽油)をあのデカタンクに半分ぐらい入れて後ろの荷車に積んでいるので気が抜けない。
チャポンチャポン。ザザザザザッ!
「うおおおっっ!やべえぞぉ。荷車からの圧力がやべえ!!」
「そ、そうでした!重量物は下り坂の方が大変なの忘れてましたー!」
「おじ。ターニャおりる!にぐるま後ろから引く!」
「おうターニャ。俺も降りるぞ。セシルすまんがそっち見る余裕ねーわ!」
「うん、カイトこっちは意外と平気だから大丈夫。私そのまま仕事行くね」
――ドゥルルッ、ザザッ。
おお、もうアイツは大丈夫だろ。
セシルの心配事はなくなったがこっちは予想外に大変だ!
――チャポンチャポン!
中身が液体だけに波打ってタンク壁にまとめてぶつかると予期せぬ力が荷車を通じてカブにかかってしまう。
タンクローリーがなんであの楕円形なのか分かった気がするぜ。
俺はもうカブを降りて荷車を後ろ向きに引っ張りながら進んだ。ターニャも同じく俺のベルトを掴み後ろ向きに引っ張ってくれた。
「ゆっくりゆっくり行くぞ……」
――ザザ、ザザザッ。
……。
本当にスローペースでいつもなら20分程走れば到着する所40分はかかってしまった。
「……はー、お疲れターニャ、カブ。ヤバかったなー」
「はーっ、つかれたー」
ターニャは珍しく弱音を吐いて俺の足にもたれかかってきた。いつも元気なのにどうした?
……いや、考えててみればターニャは大体いつもカブや荷車に乗ってるもんな。
「よっしゃ!」
俺はターニャを抱っこして社宅へ入った。
「わーい。うふふー」
嬉しそうにニコニコしてんな。はは。
社宅に入ると二人共すでに中にいた。
「おはよう二人共」
「あ、おはようございますカイトさん」
「おっすカイト!」
元気そうだな。
「今日は一日中ガソリン作るぞ。20リットルタンク2〜3個分は作りてえな」
「出来んだろ!分かんねーけどよ」
「早速作り方教えて下さい」
――そんな感じで俺は二人に作り方を教えて、早速作業が始まった。
「おおー!なんか鉄パイプから水みたいなのが垂れてきたぞ!」
「これがガソリンですかー。へー!」
「そうだ、でもまだ不純物が多いからそれをカブに入れて転送して濾過してもらう。それで晴れて実用で使えるレギュラーガソリンになる」
「……なんかカブ君て凄くないっすか!?」
「そうなんだ。アイツは実は凄え奴なんだよ」
などと雑談しながら二人共ある程度作業に慣れてきたと感じた俺は、カブに乗って一旦自宅にカブ90デラックスを取りに帰ることにした。
「二人にいい知らせだ。ここで冷凍庫が使えるようになるぞ!」
「冷凍庫!?」
「え!?な、何だそれ??」
あ、そっから説明か。
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