第178話 木の実とガソリン蒸留装置


 俺達は行きに比べてやはりゆっくり目のペースで進み。夕方頃にヤマッハを通り過ぎて会社の本部に到着した。


 すると、まずガスパルが驚いた。


「おかえりー!うおっ、配管じゃねーか!?しかも大量じゃん、すげー」


「おっすガスパル、すげーだろ。これ全部なんだぜ?ちょっと社宅に置いとくから貿易輸送が終わったら工事しよう」


「おっけー!楽しみだー!」

 ガスパルはニカッと笑った。


 あれ?そういえばこの社宅内、えらく綺麗になってる気がするな……。


「お前、めっちゃ掃除してないか?いや素晴らしいんだけども」

「だろ?俺も最初はこんなに綺麗にする気はなかったんだけど片付け始めたら止まんなくてよ」

「はっはっは、良い事だ。あ、あとな。会社の通帳つくったぜ。ほら」

「つ、通帳!?な、なんだコレ?どう使うんだ?カイト」

「いや……そういやお前経済活動始めたの最近だったな。また今度詳しく話すわ」


 そんな風に軽く言葉を交わしながら配管を全部下ろし、俺達はいよいよ我が家に帰ってきた。



「ういーー!」ゴロゴロ。


 ターニャが早速居間の畳に転がった。

 俺も真似しよう。

 ゴロゴロゴロ……。あ、目がまわる……。



 しばらくして落ち着いた後、俺は二人をねぎらった。


「はー、二人共今日はお疲れさん」

「おじ、楽しかったー!」

「私も久しぶりに充実した休日だったよ。ありがとうカイト」


 セシルも笑顔を見せてくれる。

 カブに乗るのも結構慣れてくれたようで嬉しいぜセシル。



 おっと、早速例の「世界樹の木の実」を確認しに行かねば。



 俺はハシゴを持って世界樹に登った。


「うおー、なんか前よりさらにデカくなってんな」


 この成長中の世界樹はバダガリ農園に行く道(キルケー経由でない)の途中で見た木より大分小さいが、それでも幹の太さは直径1メートル近くに成長していた。


「んー……見つからんな……あ!あったあった!」


 すぐさまその光る木の実を採ってポーチに入れた。


 最初の一個はすぐに見たかったが、それから2個目がなかなか発見出来なかった。そんな中、下からターニャの声がした。


「おじ、なんか光ってる!そっち」


 ん?


 俺はターニャの指差す方へのそのそと移動する。この世界樹は広葉樹のような形状をしていて、枝が色んな方角へ伸びているのだ。


「このへんか……おおっ!?」


 発見したその実は今までの実と違い直径は倍くらい大きかった。


「よしよしデカくていいな。あと何個か探しとこう」




 しかし結局、見つかったのはその2個だけだった。


「んー、これで合計3個か。大丈夫かな……」

「おじはそれ食べても魔法つかえないの?」


 ターニャは不思議そうに聞いてきた。

「そうだなー。俺はどうやら身体能力が強化されるタイプみたいだな。格闘系っていうのか?」


 そう言って俺はボクサーのようにシャドーボクシングの真似事を始めた。

 俺もできれば魔法使いたいぞ。


「ターニャは魔法!火の魔法でてきをたおす」


 うん、確かそうだったな。欲を言えば今の状況では土の魔法であれば尚良かった。しかしそもそも魔法やら使えるようになる「木の実」が3個しかないからなー。


 こういう時は強力な身体能力や魔法が使い放題なあっちの世界ドゥカテーが羨ましく感じる。



「まあ2個取れただけでも満足しとくか!」


 明日は……いや、今日からガソリン作りの準備をしておこう。

 俺は日本へ帰った時、ホームセンターで鉄パイプと魚を入れる用の発泡スチロールをいくつか買っていたのだ。


「ガソリン精製用の蒸留装置をもう一つ作ることにしよう」



 ――ドゥルルルルン。


「カイトさん。聞きましたよ!ガソリン作りですかー、いいですねー!」


 カブがニヤつきながら自走してきた。


「カブはがそりんが好き!」

「はい、ターニャちゃん!その通りです。僕にとってのご飯です!」


 ここでふと俺は思った。


「なあ、この木の実をよ、カブのガソリンタンクに入れたらどうなるんだろうな?」


 当然のようにカブは反発した。


「カ、カイトさん。何を言ってるんですか!?そんな木の実みたいな不純物の塊なんて入れたら僕壊れますよ!?」


 カブはタコのように顔を赤くして怒っている。


「そ、そう思うのも分かるがそうじゃない。これは食った俺とかターニャじゃねーと分からんと思うが、多分これは食い物じゃない」

「え!?……」


 カブはキョトンとした顔をしている。

 逆にターニャはなんとなく理解したような顔だ。


「ターニャもなんか……そんな気がする。かんでも溶けて消えちゃう!」

「そうそう、そんな感じで空気食ってるみたいなんだよ。だから物体っていうよりエネルギーの塊みたいなモンなんだ」


 カブは斜め上を見上げて悩み顔でいる。

「なるほど。ま、まあでも僕の場合は使わないほうが良い気がします……」


「おう、俺もそう思う。てかそういう事態にまずならねーだろ?」

「カイトさんそれフラグみたいで怖いんですけど」

「はっはっは。大丈夫だ!俺達に任せろ」

「カブ、しんぱいいらない!だいじょーぶ!」

「……まあそうですよね!今はお二人以外にもミルコさんやガスパルさんもいますしね。ははっ、心強いです!!」


 カブが納得したようで俺も安心した。


 しかしドゥカテーでのとんでもパワーを思い出すと、俺は時々あっちに行ってみたくなるのだった。



 ――バチバチッ。


 それから俺はアーク溶接で大きめのヤカンの口を鉄パイプと溶接した。


 後は鉄パイプの周りに穴を空けた発泡スチロールを通して……ん?ここで俺は考えた。


「要は冷却のために鉄パイプの周りに氷水があれば良いわけだから……発泡スチロールより良いもんがあるじゃねえか!」


 そう、本日持って帰ってきたである。


「よし、あれを鉄パイプの周りにに取り付けよう。カブ、ターニャ。行くぞ!」

「え!?カイトさん、どちらへ?」

「本部だ!」

「いく!ターニャもいくー!!」


「よし、ターニャ。台所から重曹じゅうそうを取ってきてくれ!分からなかったらセシルに聞いてくれ」


「わかったー!」


「あとは瞬間接着剤のシアノンを倉庫から持って行く!」


「カイトさん、なんか楽しそうですね!」

 カブはグッドマークをタブレットに映している。


「おうっ、ノッてきたぜ。はははっ!」


 俺の頭には完成したガソリン蒸留装置と、それから今後必要になるであろうをどうやって作るかという課題でいっぱいだった。

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