第129話 武器屋だぜ!


 ――ドゥルルルルン。


 カターナへの道を走っている途中、ミルコが遠慮がちに聞いてきた。


「あ、あのカイトさん。俺、ちょっとカブ君運転してみたいんすけど……」


 それに真っ先に反応したのはもちろんカブだ。


「あっ、いやっ……ミルコさん。きょ、今日はほら、休日じゃないですか?せっかくの休日に僕を運転したら、仕事みたいで嫌でしょう?」


「お前、……どんだけミルコに乗って欲しくねーんだよ?ミルコは今は結構乗れるようになってんだぞ……なあ?」


「そうっすよ!俺をみくびって貰っちゃ困るなーカブ君」


 ミルコは得意げに腕捲うでまくりした。


「うっ……」


 カブは疑わしい目をミルコに向けたまま沈黙した。


「カブよ、ちょっと試しに乗らせてみろ。ダメそうなら言ってくれりゃいい」

「……わ、分かりました」



 という訳で俺は運転をミルコと交代した。

 さーてミルコがどれだけ成長したか見てやるか!


「ミルコがんばれー!」


 ターニャも応援している中、ミルコはカブのシートに跨った。


「……あー、やっぱり自転車より大分骨組みがガッシリしてますね。じゃあ行きまーす!」



 ――ドゥルオオオオオオオォォン!!


 壮大な空ぶかしをするミルコ。


「あっ……あれ!?」


Nニュートラルのままだ、1速に入れろ!……まあ俺もたまーにやっちまうけど」

「あっ、そ、そうでした!」



 ――カシャッ。


 このja44は最新のja59と違いシフトインジケーターが無いので、本来なら今何速に入っているのか分からない。

 しかし俺は「Hand Man」(※)の動画を参考に自分で作ったシフトインジケーターを装着済みなのだ!


「メーター上部に青い光が出たら1速な……うん、オッケー」


 メーターを覗いた俺はすぐさま荷車の方に戻った。


「じゃ、今度こそ出まーす!」

「おう」

「しゅっぱーつ!」


 カブの顔がチラッと見えたが、やはり青ざめていた。



 トゥルルルルッ――カシャッ――ドゥルルルーーッ……。



「お!上手い上手い!いいぞー」

「な、なんか、自転車より簡単です!!」

「自分で漕がなくていいからな」



 しばらくそのまま進むと、道は緩やかなカーブになっていた。



 ――ドゥルルル……。


 ミルコはブレーキをかけ、少しスピードダウンさせて、車体を少しだけ内側に倒してスムーズに右へ曲がって走っていく。よし!

 曲がり方も問題ない、コレは……結構いけるんじゃねーか?

 とミルコの運転を褒めようとした時――。



 ――カシャッ。グワォオオオオン!!ガクンガクン!!


 突如急ブレーキがかかり、荷車の中の俺とターニャは前に突っ込みそうになった!


「うおっ!?」

「んあっ!?」


 ターニャは荷車の側板に掴まり、何事かと口をポッカリと開けている。


「うぉい!シフトダウンはもっと減速してからだぞ!」

「す、すいません!なんか……をやってみたくて……」

「ブリッピングの事か!?あんなもんまともに乗り回せるようになってからだ。今はすんな!」

「わ、分かりましたー。サーセン!!」



 しかしちゃんと運転出来ている事は普通に凄いな。しばらく運転は任せてみよう。

 このミルコの運転、カブはどう評価してんのかな?

 俺はカブの表情を見ようとタブレットを覗いてみると、……薄く口を開けて汗をかきながら半笑いになっていた。

 何ちゅう顔だ!まだ完全に安心しきれてないようだな……。


「ミ、ミルコさん……確かに前と比べて圧倒的に上達してます!素直に凄いです」

「ははっ。そうだろカブ君!?」

「ただ、その……、僕が何も考えず安心してボケーっと出来るかっていうと……まだまだ全然なので、そうなれるぐらいにはがんばってくださいね!」


 褒めているのか煽っているのか微妙なカブの言葉だが、ミルコは嬉しそうだった。

 まあ喜んでるならいいか。俺はナビに徹しよう。



「あ、そこ左な!」

「はい!」




 ――ドゥルルルルン!


 俺達が事務所を出発して4~50分ほど経った。


「そろそろカターナが見えてくるハズだ……」


 道の両脇には大きな杉のような木が揃って生えている。まるでここを通る者を歓迎しているかのようだ。


 俺は周りを警戒してキョロキョロと周囲を見回していた。

 ターニャも俺と同じ様にキョロキョロしている。一応警備に協力してくれているらしい。


 俺達は無言で緊張しながら、その並木道を進んでいく。――すると突然視界が開け、同時にどこかで嗅いだのと似た匂いを感じた。


「あ、この鉄の匂いはアレだな。ニンジャーの時と一緒だ!やっぱり鉄を扱ってるだけある」


 カターナの建物の至る所から燃料を燃やして出たと思われる煙が立ち昇っている。


「うっわー!凄い!カイトさん、ちょっと町中まで行ってみましょう!」


 ミルコが興奮を抑えきれない様子で言う。俺もなんかワクワクしてきた。


「よし、取り合えず剣を売ってそうな店に行こう。進めミルコ!」

「了解!」



 ――ドゥルルルー。


 ミルコが時速20キロぐらいでカブを走らせ、町の中心に向かっている。

 町で行き交う住民を見ていると、皆険しい顔をした職人みたいな男ばかりだった。


「しょくにん!しょくにん!」


「そうだな、いかにもこの道30年……みたいな連中ばっかりだな」




 ん!?――。


 ……ここで俺は一瞬、誰かのを感じた!


 周りを見回すが特に俺達を見ているものはいない、……というか皆気難しい顔で無言で歩いていて、俺達の存在すら感知していないように見える。……気のせいか?



「あ、あれ。武器屋じゃないですか?」


 ミルコが左手で指さしたそれは正に武器屋だった。


 はやる気持ちを抑えきれないようにミルコは店の隣にカブを停め、俺とターニャは荷車から降りて早足で中に駆け込んだ。



「おおーっ……!!」

「うわーっ……!!」


 店内の壁には立派な剣や槍、斧といった戦闘用の物から一般家庭で使う調理用ナイフなど様々な刃物類が並べられていた。


「おおっ!ミルコ見ろよこの槍めちゃくちゃでかくね!?」

「う、うわー、こんなの扱える人バダガリさんぐらいじゃないっすか!?すっげー。あ、このナイフ……刃先がバネで飛んでいくらしいっすよ!やばっ!!あははっ」

「……おじ、ミルコ。はやく買って帰ろー?」


 俺とミルコはじっくりとそれらを見て回り、ターニャは早々に飽きて早く帰りたがっていた。


 そんな刃物が並ぶ中、俺はとある武器が目についた。


「んん!?……なんだこりゃ?」


 俺は気になった武器とは、そう。



 ――鉄パイプだった。



――――――――――――

                     ※Hand Man=作者

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