第128話 カターナと山賊


 朝になった。

 スマホの時刻を見ると午前11時だ。


 ……このスズッキーニは日本時間から6時間遅れなので午前5時ぐらいという事だ。


 隣にはセシルが寝ている、全裸で。俺ももちろん全裸である。気持ちのいい朝だぜ。



 俺は起きて下だけ履いて1階に降り、トイレで用を足している途中ふと思った。


 今日は色々とやる事が多いぞ……。

 まずカターナで剣の調達を済ませた後、ヤマッハで芋を購入してケイとゴブリン達に渡す。

 それに加えセシルの送り迎えもする。文字にするとこれだけだが絶対に密度は濃いだろう。


 まあ面白いから良いんだけどな。



 トイレから出ると下着姿のセシルが目をこすって立っていた。


「ん……カイト、おはよう」

「おはようセシル。飯食ったらギルドまで送っていくわ。歩いてだと2~3時間はかかるだろ?」

「え!?ホントに?……助かるんだけどカイトは大丈夫なの?」

「行きはついでだし問題ねえ。帰りはアレだけどな。早く自転車に……ゆくゆくはカブに乗れるようになってくれよ」


 俺は笑って言った。

 セシルはちょっと顔をしかめ「……がんばる」とボソッとつぶやき、トイレに入っていった。

 そうとうコケるのが嫌なようだな。ターニャはある程度一人で乗れるようになったから今度セシルを集中的に鍛えてやるか!



「おじー、セシル!おはよー」

「おう、おはようターニャ。今日は早いな!」


 ターニャも起きた。俺とセシルの話し声が聞こえたんだろうか?


「おじ、今日はどこ行くー?」

「ん、今日は色んな所に行くぞ。最初はカターナだ!」


 そう言っておきながらカターナの場所をまだ聞いてなかった。後でセシルに聞いとこう。


「おお……カターナ!剣!まほう!」

「いや、魔法は違うぞ。でもその後でヤマッハで芋大量に買ってドゥカテーには行くけどな」

「そうだ!ケイにまほう教えてもらってない……。今日は教えてもらお」

「お、そうだな。水魔法でも教えてもらえ」



 ――それから各自着替えてから朝食となった。飯は適当に3人で作った。


「なあセシル。カターナってどこにあるんだっけ?ヤマッハからあんまり遠くないよな?」

「うん。この前ゼファール行ったでしょ?」

「おう」

「そこから小道が分かれてる所があって、そっちに入って真っすぐ行けばいいよ。多分前渡した地図にも載ってると思う」

「なるほど……」


 ここでセシルからちょっと気になる情報を聞いた。


「ちょっと気を付けてほしいんだけど。あの辺はこのスズッキーニで一番治安の悪い所だから」


 俺は一瞬で真顔になり詳細を聞いた。


「あそこは良い鉄製品がたくさん生み出される代わりに、それを悪用するも結構居たりするの」


「え……!?」


 俺はビックリした。この国平和なんじゃなかったんかい!?

 セシルは続けた。


「以前、国が一斉に討伐に踏み切って大分数は減ったと思うけど。完全にいなくなったわけじゃない……カイト、気を付けてね」


 俺は内心ちょっと怖気付いていたが、セシルの手前ちょっと強がってみた。


「ま、まあ大丈夫だ。それにしてもそういう山賊から身を守るために剣を買いに行くのに、そこに行くまでに山賊が出るとはな……笑い話にはハード過ぎるぜ。ははっ」


 ターニャは俺を真剣な目でみつめている。


「おじ、いっしょにさんぞくを潰そう!」

「お前本当に女の子か?」


 なんかターニャは戦う気満々のようだが、もちろん参戦などさせてたまるか!


 俺の頭の中にはイザ襲われたらあのを飲んで蹴散らすという考えがあった。

 まあ話し合いで解決出来ればそれに越したことは無いのだが、そんな奴が山賊なんかやらねーだろうしな。




 ……そして出発の時が来た。


「カイトさん、行きますか!」

「おう、カブ。まずは事務所まで行ってミルコを拾うぞ!」


 荷車にはターニャとセシルが乗っている。


「しゅっぱーつ!」

「しゅっきーん!」


 ターニャに合わせるようにセシルも音頭を取っていた。はは。




 ――ドゥルルルルン。ガタガタッ!


 山道を下りヤマッハへと続く広い道へと出る。

 そのままヤマッハの方へ走ると、道の脇に事務所がある所まで来た。雑草でコーティングされているせいで、外からだと本当に目立たない。いい感じだ。


 事務所の前にはやはりミルコがいた。ミルコはセシルを見て驚いていた


「あ、カイトさん!え?セシルさんもカターナに行くんですか?」

「いや、単に職場に送ってるだけだ」


 セシルは微笑みながらミルコに尋ねた。

「おはようミルコ君。カターナには一緒に行って貰えるの?」

「もちろんっすよ!俺、剣とかめっちゃ興味あるんで。喜んで同行させてもらいます!」


「……山賊には注意してね」


 セシルにそう言われてミルコは若干顔が引きった。


「あ、あれ……奴らって憲兵に住処すみかを追い払われたんじゃ……?」


「そうなんだけと、まだ目撃情報が上がってるからね」


 俺は発破をかけるつもりでミルコに言った。


「怖気ついたか、ミルコよ?」

「そそ、そんな訳ないっすよ!仕事でもそういう所にも行くかも知れないし……い、いい経験になるってもんです!」


 おう、頼もしいぞ。


「ミルコ!ターニャもいっしょにたたかう!まほう使う!」


「いやだからオメーはちょっと怖がれ!逆に」

「タ、ターニャちゃん。君は隠れてた方がいいよ!」


 ここでふと実際山賊に襲われて、ターニャに危害が及ぶ場面を想像した。

 いくら俺が強くてもターニャを人質に取られたりしたら……やべーな。


 厳しいって!ガチで危機感持った方がいいって!



 ……俺はポケットに入れていたをターニャに2つ渡した。


「お前、敵に襲われるってなったらコレを飲め!魔法も使えるし身体能力もちょっとは上がるだろう。それで何が何でもソイツから逃げろ。あ、今食うんじゃないぞ!」


 俺は食いしん坊なターニャがすぐ口に入れてしまうんじゃないかと一応警告しておいた。


「うん、食べない。だってこの実、美味しくないもん!」


 美味かったら食うんかい!?と心の中でつっこんだ。



「じゃあ私はここからギルドまで歩くから」

とセシル。


「おう、日が落ちたら迎えに行くようにするわ。それまでギルドにいてくれ」

「分かった」


 そう言って職場へと歩いて行くセシルを見送り、俺はカブに跨る。

 同時にターニャとミルコも荷車に乗り込んだ。


「さーて、俺達も行くか!ところでミルコも剣買うのか?」

「……はい。ちょっと迷ってましたが山賊の話を聞いて買うことに決めました」

「おう、それが良いと思う。将来的に一人で配送に出るんだしな。じゃ、しゅっぱーつ!」

「ういーー!!」

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