第126話 ミルコを送る


 もう日は暮れ始めていた。今日は一旦帰るか……。


「よし、じゃあ俺達は一旦帰るな。また明日か明後日にでも芋いっぱい持ってくるわー」


「了解した。そなた等と再び会えることを楽しみにしている!」


 俺達が別れ際に手を振ると、ゴブリン達も皆それに答えるように手を降ってくれた。



 ――ゴルォォオオオォォウウウン!!


「ほんじゃ、出発するぜー」

「はい!」

「ういーー!!」



 そこからカブを運転してわずか2分でケイたちの村に到着した。

 カブが速すぎてやはり別の乗り物にしか見えない。


「カイトさん、今日は本当にありがとうございました。王にも良い返答が出来そうです」


 あ、そういやそういう役割だったなユルゲン。最高の報告が出来そうで良かっただろ?


 ターニャもケイにお別れの言葉を投げる。


「ケイ、また芋持ってくる!」


「待ってるからね。ターニャ、おじさん!」


 ケイとの別れの挨拶も終わり俺とターニャとカブは世界樹の根元へと急いだ。辺りは既に薄暗い。



 俺達が世界樹の根元に到着すると、そこにはターニャの自転車が横たわっていた。


「ちゃりー、ちゃりー!」


 などと言ってターニャは荷車から降りて駆け出し、さっさと木に飛び込んで消えていった。

 そういやミルコは自転車乗れるようになったんか?セシルは何してんだろ?

 などと考えながら俺もカブに乗り世界樹に突っ込む。




 ……。


 …………。



 恒例の意識喪失を無事終えて、俺は目を覚ました。


「……おじ?」


 ターニャの声だ。


「カイトさん、目は覚めましたか?」


 次にカブの声、今回俺が一番目覚めるのが遅かったな。


「おう、俺も今起きたぞ。……しっかしケイに会いに行くだけのつもりがまさかゴブリンと戦う事になるとはな。まあ結果的には良かったけどよ」


「ですねー、皆さん喜んでましたからね!」

「芋、かいにいく?」

「また明日な。……そうだ、ついでにカターナにも明日行ってみよう!」

「ういーー!」



 ――ドゥルルン……。


 カブの普通のエンジン音が響く。やっぱカブはこの音だぜ。


 家の庭には誰もおらず、ミルコが練習していた自転車が玄関の前に止められていた。

 俺は玄関に入ろうとした時カブが不穏な事を口にした。


「カイトさん、どうします?ミルコさんとセシルさんがになってたりしたら……」


「!?バ、バカヤロウ。昼ドラか!?怖い事いうな!」

「アレなこと?なにー?」

「ターニャ、お前にはまだ早い」


 するとミルコが廊下から玄関まで走ってきた。


「あ、お帰りなさいカイトさん!」

「お帰りカイト」


 後ろからセシルも顔を出す。くっ、カブが余計な事言うから変な想像しちったじゃねーか。


「どうでした?その……魔法少女の娘とは会えました?」

「ああ、それどころかゴブリンと戦って無双しちまったわ」


「ゴ、ゴブリン!?」


 ミルコとセシルが同時に驚いた。まあそうだろうな、こっちの世界割と現代に近いからな。


「そのゴブリンがあっちの世界の人間達と揉め事起こしてたから、俺とカブで乗り込んで暴れて、最終的にいい感じに解決出来た。また芋を大量に買うハメになったけどな。ははっ」


 セシルが深刻な顔をしてつぶやいた。


「カイト私、ドゥカテー?だっけ……そこには絶対行きたくない。怖いから」


「慎重な奴だなセシル」

「うん、……それに私が死ぬと困る人が少なからずいるしね」


 俺はセシルの前に歩いて行き、正面からセシルの肩に両手を置いた。


「俺もその一人だぞ」


 俺はセシルの顔を見つめ、セシルも同じくこちらを見つめ返す。

 そのいい感じの雰囲気を察知したのか、ミルコは言った。


「あっ、俺、そろそろ家に帰らなきゃ……、イングリッドアイツに怒られる」


 そういやミルコを送り返すこと忘れてたな。現代だとメッセージアプリで「ちょっと遅くなる」とか送れるからあまり意識してなかったわ。


「……ちなみにミルコよ、無断で朝帰りしたりしたらイングリッドアイツやっぱり怒るか?」


 ミルコは顎に指を当ててちょっと上を向いてから答える。


「んー、一回ソレやった事があるんですけど、……ハッキリと、『今まで何処に行ってた!?』みたいな事は言われないんすけど……態度が素っ気なくなったり、表情が怖かったりと何となく怒ってるような雰囲気を出してきて……」


 な、なんかリアルだな……。


「それで、こっちがうろたえ始めた瞬間にスッ……と甘えて来るんですよ!いやーもうマジ最っ高っすね。ははははっ」


「ふんっ」

 ――ドスッ!


「ぐふっ!?」


 俺は何となくミルコの腹にチョップした。

 セシルも思わず苦笑している。


「じゃあまあイングリッドが鬼にならねえようにお前を送って行くか!」

「……あ、あざますカイトさん!」




 ――ドゥルルルン!ガタガタッ……。


「ミルコまたねー!」


 手を振るターニャを後ろに見ながら俺達は自宅を出発した。


 辺りはもう殆ど真っ暗で、カブのヘッドライトと補助等だけが皓々こうこうと山道を照らしている。


「そういやミルコ。自転車ちょっとは乗れるようになったか?」


 俺が聞くと荷車に乗ったミルコは、待ってましたとばかりに前のめりに話し始めた。


「そうそう!それなんですけど俺、犬のバン君に手伝ってもらって結構乗れるようになったっすよ!ターニャちゃんと同じぐらいには」


 おお、いい話だ。


「ホントか!お前は仕事で絶対カブに乗れないとダメだから頼むぜー!」

「その、カブ君の仲間が増えるのっていつでしたっけ?」


「ん?いつだっけ?カブ」


「えー……、僕の今の感覚だとあと5日ってとこですかねー」


 カブはちょっと悩みつつ答えた。一体どんな感覚なんだろうな?


「分かった、任しとけ。しっかり計画立ててるからな!」

「はい!お願いします」


 ……。


 カブを走らせて30分程でヤマッハの給油所まで辿り着いた。


「……確かこの近くなんだよな?」

「はい!ここまで来れば後は歩いて帰れます」


「おっけー。じゃあまたな。イングリッドによろしく言っといてくれ」


「あ、次の出勤はいつっすか?カイトさん、明日は確かカターナにも行くって言ってましたよね?」


 俺は少し考えて答えを出した。


「カターナは仕事で行くんじゃない。仕事の出勤は3日後だな。ただ個人的にカターナに同行したいってんなら明日迎えに行くぜ。まあプライベートだから給料は出ねえけど」


 ミルコはニカッと笑って答える。


「給料どころじゃ無いっすよ!カターナって言えば男の憧れの町なんスから。絶対行きます」


「お、おう。分かった、また明日事務所にいてくれ。迎えに行くわ」


「はい!待っときます!!」


 正直俺もカターナにどんな剣があるのかちょっとワクワクしていた。

 あ、あとヤマッハで芋も買わないとな。ふふ。

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