第125話 世界平和と芋
マジシャンは焼き芋のあまりの美味しさに感動したように、しばらく斜め上を向いて固まってしまった。
「……」
そして、意識を取り戻したように芋を見つめ、夢中になってかぶりつく!
そして食い終わってから俺にこう言った。
「こ、これは……我が今まで食したものの中でも一番の美味さだ!!美味すぎる……。農耕などやった事もないが、是非教えてもらいたい!」
すると周りのゴブリン達が騒ぎ始めた。
「ギャギャー!」
「ゴワッゴワッ!!」
それに対してゴブリンマジシャンが何やら言い返す。
「ギャルルッギュルルロロア!!」
……ゴブリン達は一旦静かになったが何となく納得いかない様子だ。何だ何だ?
「すまぬ。皆、我がお前達と友好的に話しているのを不思議がっているようだ」
「あー、なるほど。まあ一応敵同士だからな。しかしコイツら全員説得するのは大変――あ!」
「どうしましたカイトさん?」
カブが尋ねてきた。
「……カブよ、ちょっとケイに伝言を伝えて来てくれ!」
「……」
「……」
「なるほど!分っかりました!」
そう言うとカブは爆音を響かせながらすっ飛んで行った!
俺は早速、恐らくこのゴブリン達の長であろうマジシャンに聞いてみた。
「ここにゴブリンは何人いるんだ?」
「……ウチは40人だ」
「よし、全員に焼き芋食ってもらおう!そうすりゃ農耕やるのも納得して貰えるんじゃねーかな?」
「な、なんと!?そんなにあの芋が存在するのか!?」
「ケイが、残してくれてりゃー多分ある。……アイツにはその分また買ってやるか」
「お前ら、その代わり今後は盗みとかしないでちゃんと畑仕事するんだぜ?」
「分かっている……元々我々はゴブリン族の中でも比較的温和な部族だ。争わずにあんな美味いモノが食えるなら、反対する者はおらんだろう」
俺はニッと笑ってしばらくカブがケイを連れてくるのを待った。
――そして、数十分後。
またしても爆音を響かせてカブが走ってきた。
荷車にはケイの他にターニャとユルゲンも乗っていた。
結構な重量だが今のスーパーカブには全く問題にならなさそうだ。
「ぎゃああああ!死ぬうーー!」
「こ、これは凄い!カブ、あなたはなんて優秀な馬なんだ!?」
「だから僕は馬じゃないんですー!!」
「あははははは!焼き芋焼き芋ー、うえーーい!!」
カブだけでなく乗ってる奴らもやかましい。
――ギギッ。ガラガラッ……。
カブはそのまま俺とマジシャンの前まで走ってきて、止まった。
そのリアボックスにはまだ段ボールに大量に詰められた芋が乗っていた。
良かったーケイが全部食っちまってたらどうしようかと思ったぜ。
「はぁっ、はぁっ……。あー……死ぬかと思った」
「ケイ、すまねえな。これ、この前家と引き換えにお前にあげた芋だろ?また買ってきてやるからな」
「う、うん、ありがとねカイトおじさん。でも私、コレで村が襲われなくなるならいいと思ったんだよねー」
ケイ……、お前生意気だけど結構いい奴じゃねーか。
「ギャギャッギャー!」
「ギョギョゴゴッ!!」
またしてもゴブリン達が不満を爆発させている。
それに再び長のマジシャンが
ここで俺はマジシャンに頼んだ。
「よーし、じゃあこれから大規模な焼き芋パーティーをやるぞ!長よ、さっきと同じように芋を焼くから仲間に協力するよう伝えてくれ!!」
「う、うむ、分かった。この芋を食えば皆納得するだろう」
――という訳で、俺達はゴブリン達と協力して枯れ葉や石を集め、焚き火を10個程作り芋を焼いた。
出来上がった芋は、その部隊のゴブリン達皆に1本ずつ行き渡り。
長の合図でゴブリン達は皆、焼き芋に食らいついた!
人間ではターニャを筆頭にケイ、そしてユルゲンも焼き芋を手に取っていた。
ユルゲンは特に、焼き芋を見るのも食うのも初めてだったのでしばらく不思議そうに眺めていたが、ケイ達がかぶりつくのを見てやっと自分も口に入れていた。
「オオ……オオオオ……!!??」
「オウ!?」
「フオオオオッ!!」
何と言っているかは定かではないが、芋の美味さに感動しているようだ。中には涙を流すゴブリンもいた。
泣いているのはゴブリンだけではなかった。
「うおおおおっ。な、何という美味さだ!!こ、これは本当に芋なのか!?」
ユルゲン……良かったな。
「ね!師匠、言った通りでしょ?」
「ああケイ……。最初、お前に芋でゴブリンを説得するなどと言われて半信半疑だったが、今意味が分かったよ。本当に美味い!!」
しばらくしてゴブリンマジシャンが他のゴブリン達を集め出した。そして何やら伝えている。
すると突然ゴブリン達が一斉に整列し、膝をついて何かを嘆願するようなポーズを始めた。
マジシャンは他のゴブリン達の意見を代弁してきた。
「カイト……で良いか?是非とも我らに畑作りを教えてほしい。盗みなど……今までの人間達に対する罪には謝罪申し上げる!」
うーん……。ここはユルゲンとケイに判断してもらうしかねえな。
「こう言ってるがどうする?正直、お前らが何をされてきたのか俺は知らねーから、そっちでどうするか決めてくれぃ」
ケイはユルゲンを向いて何かを訴えるような目をした。ユルゲンはそれを受け止め、ちょっと考えてから発言した。
「分かった。ゴブリン達よ、私達はそなた等の謝罪の意を受け入れる。元々他所で聞くような非道な行為はされていないし、お互いが今後の平和に前向きになれれば良いと思っている!」
おおっ!和解の瞬間だ!!
ユルゲンとゴブリンの長はガッシリと握手し、お互いに協力し合う意思を示した。
なんかいいなーこういうの、うん!
二人の握手を見ていたターニャが俺に聞いてきた。
「おじ、芋ってそだてられる!?ターニャたちも家の畑でつくろー!」
「おう!そうだな。やってみっか」
ユルゲンもその案に乗ってきた。よし、皆揃ってるしここで育て方の説明をしとこう。
「まず畑を2つ作るんだ。小さい畑と大きい畑。んで、小さい畑の方にこの芋を埋めて水をちょっとやる――」
ゴブリンもユルゲンも真剣な表情で話を聞いている。
「すると芽が出て苗が育つから、2~30センチ……これぐらいか?に育ったら根元から切る。そしてそれを大きい方の畑に植えて育てるんだ。水はあまりやらなくていい」
俺は身振り手振りも交えつつ真剣に栽培方法を伝えた。
なんで知ってるのかというと、俺も以前やろうとしてバダガリに聞いたことがあったからだ。
俺の隣ではターニャが目を輝かせてワクワクしていた。この芋好きめ。
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