第105話 お悩み相談――からの異世界


「あの人、私が今みたいに隣に座っても何もしてこないんです!それどころか外に走りに言っちゃうし!普通、そんな状況になったら……じゃないですかぁ!?」


 イヴはちょっと怒ったように話している。


「あ、ああー。まあ……な。そのへんはあいつ経験ないからな、その、許してやってくれ」


 ここでイヴは残念そうな顔でうつむいた。


「私は、もっと積極的にグイグイ来てくれる人のほうが好きなんです!……そう、カイトさんみたいに」


 ええー!?俺、お前にグイグイ迫ったことなんてあったっけ??


 イヴはさっきよりもっと俺に密着しようと迫ってくる。……スリットから伸びた白い足が俺の足に触れた!

 うおおおっ。興奮する……いや、アカン。ちょっと待て。


 俺は一旦イヴをぐいっと押し返して続きを聞いた。



「……ま、まあそれはともかく、なんか2人でいてもずっと無言だったらしいじゃねーか。他にどんな事したんだ?一緒に飯作ったりはしたのか?」


「一緒に作ろうとしたら、『あ、イヴは座っててくれていいから』とか言われて……結局私、何もしてません!」


 あ、あいつめ……。距離を縮めるのにうってつけの共同作業なのに……。俺は顔をしかめた。



「……ま、まあアイツはちょっと不器用かも知れねえけど、基本的にはいい奴だから気長に付き合ってやってくれ。あと……」


「はい」


「あいつが変なことしたらを入れてやると距離が縮まりやすいと思うぞ。出来ればだが」


「突っ込み……ですか!?」


 イヴは予想外の注文に難しい顔になる。


「ああ、多分あいつは大人しすぎる奴が苦手というか……どう接していいか分かんねーと思ってるんだ。多分、何かキッカケを作ってやったほうが上手くいくと思う」


 イヴはちょっと上を向いて考える仕草を見せ、こう言った。


「分かりました。ちょっと、頑張ってみます!」


 そう意気込んだイヴは、拳を前に出して数回正拳突きのような動きをした。

 な、なんか間違ってねえか?……まあ面白いからほっとこう。


 よし、じゃああいつらと合流しよう。猪肉を受け取るぞー。



 外のちょっと離れた所にターニャを肩車しているバダガリがいた。


「お、カイトさん。話終わったかい?」

「ああ、例の猪肉もらっていいか?」

「おう!今持ってくるな」


 そう言うとバダガリは駆け足で肉を取りに行こうとする。


「ちょいと待て!一緒に歩いて行こう」

「ん?あ、ああ……」


 俺はターニャに物置小屋に行くように伝える。


「ターニャ、あっちでイヴがいるから遊んでもらってきな」

「……うん!」


 ターニャはちょっと考えるように俺を見上げ、素直に従った。

 コイツは意外と空気読んでくれたりするのだ。いい子だぜ。



 数分程バダガリと歩きながら話をした。


「――イヴにはもっと積極的に絡め」


 というアドバイスをして、バダガリもそれに納得しているようだった。


「なるほどなー。やっぱり俺がもっと頑張んねーとダメか……。ありがとよカイトさん!」


「ははは、頑張れ。ってか、脱童貞の相手がイヴなんて恵まれた奴だなーお前!」


 俺はバダガリの肩を叩いた。


「カ、カイトさん。またなんかあったら相談していいかい?」

「おう、むしろ歓迎するぞ。せっかく3日に1回はここに来るんだし」

「分かった!」


 そんなこんなでバダガリから猪の肉をもらい、俺達はバダガリ農園を後にした。



 ――ドゥルルルン!カタカタン。


「いやー、それにしてもバダガリさんもイヴさんも色々悩みがあるんですねー。勉強になります!」


 カブは「人間って面白い!」とでも言いたげな顔を見せている。人ごとだからか実に楽しそうだ。


「ま、生きてりゃ誰でも悩むさ。そんなもんよ。人生で大事なのは環境と自分に対する理解だな」


「へー……」


 呑気にそう答えるカブだったが、精霊のお前がどこまで分かっているのか謎だ。



「ターニャもなやみある!」


 ここでターニャが会話に入ってきた。


「ほう、何だターニャ?」


 ターニャは困った顔をして俺に訴えるように、


「ケイに会いたーい……」

 とつぶやく。


 んー、コレばっかりはあの木の機嫌次第だからな……。


「よっしゃ、じゃああの木を近くで見ながら、この猪肉の焼肉といくか!」


「おー、やきにく!やろうやろう!」


「久しぶりの野外飯ですね。僕も嬉しいです!」


 カブも何かウキウキしている。そういや確かに最近の飯は家の中ばかりだったな。



 俺達は再び我が家へと帰ってきた。


 途中でヤマッハへ寄ろうかと思ったが、一応まだ貿易輸送中という設定だったのと、俺も早く飯が食いたかったので一直線で帰った。



 ガタッ……。


 バーベキュー用の大きめのコンロの上に炭を敷き詰める。


「よし。後はバーナーで火を付けて網を……」


 あ、そうだ!


「ターニャ、芋持ってこい芋!焼き芋も出来るぞ」


 俺がそう言うと、ターニャの顔がパアッと輝いた。


「おおおおっ!!いもーーーー!」


 ターニャは狂喜乱舞し、叫びながら家へと消えていく。そしてしばらくしてアルミホイルを巻き付けた芋を2つ持ってきた。準備は万端だな!


 炭に火を付け網を乗せ、芋と肉を乗せていく。そしてしばらくすると――。



 ――パチパチ、ボボボボボッ……。


「うはっ!うまそーだぜ~」


 いい感じに肉汁が滴り落ちて食欲を掻き立ててくれる。タレ、そして塩コショウを皿に取っている。


「よーし食うぞー!いただきまーす」


「いただきまーす!」


「うほっ!牛よりは豚に似てるな……でももっと味が濃い。俺の好みだ。しかも脂身もめっちゃ甘みがあって美味え……バダガリに感謝だぜ!!」


 ターニャはやはり、かぼちゃをメインにたまに猪肉を食うという俺と逆の食い方をしている。


「うん、うん……」


 肉はまあまあ食いごたえがあり、よーく噛んでいると旨味が出てくる。


 ターニャは野菜や肉を食べつつも、焼き芋が出来るのを心待ちにしているようだった。



 ――俺達が焼肉を食い終わる頃、ちょうど芋も良い感じで焼けたようで、突いた箸がサクッと芋の中を貫通した。


「うん、ターニャもう良いんじゃねーか」


「あはっ、芋できた!」

 ターニャの顔が喜びで満ちていく。


「ん?」


 ここで俺は何か違和感がして顔を上げて辺りを見回す。すると――。


 あの木が再び光っていた!!


「うおおっ。ターニャ見てみろ!また木が光ってるぞ!!」


 ターニャも振り返って木を見て歓声を上げる。


「ホントだー!!おじ、カブ。あっち行こう!」


 俺はちょうど腹も満たされ、この日の予定も特にない事を確認して腰を上げた。



「ちょっと冒険したい気分だ。行くか」

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