第30話 思わぬ高額依頼
「ふう、これで帰りも安心だ」
道路整備の甲斐あって我が家からヤマッハへの行き来がかなり楽になったハズだ。
スコップでならされた山道を見ながら俺は安堵していた。
――トゥルルルン。ガタッ、ガタガタッ。
山道さえ抜けてしまえば後は余裕。
広い道に出てからのカブの運転は後ろに軽油タンクを積んでいようが楽勝だぜ!
「カイトさん、どうします?ヤマッハに着いたらすぐに給油所へ直行しますか?」
「いや、一応ギルドに寄って仕事があるか確認しとこう。多分ねえだろうがな」
「分かりましたー」
他にもあいつ……イングリッドにいくつか聞きたい事があった。
それはこっちの世界の飯やら生活全般に関しての事で、主にターニャの今後のために必要だと考えたからだ。
しかし、ギルドに着くなり俺はそれらの事を全て忘れてしまう程の思わぬグッドニュースが飛び込んできた!
「あ、カイトさん、ちょうど良いタイミングです!一つお話があるんですが……大丈夫ですか?」
ギルドに入って行った俺を見つけたイングリッドは挨拶よりも先にそう話しかけてきた。
んん?コイツがこんなに慌てるなんて珍しいな。
「なんだ?」
とりあえず内容を聞くか。
「実は以前カイトさんに配達してもらったヘドライト村宛に、緊急で一刻も早く届けてもらいたいものがあるんです!」
「え?緊急で!?」
ヘドライト村には確かに行った事がある……しかし行くまでの道が険しく、ウチの家へ続く山道以上に急で石も多くてかなりキツい、さらに距離が長いからそんなキツさが一時間以上も続く、思い出しても辛くなってくるような道のりだった。
「はい。今日の夕方までに何とか届けてくれないか?との事なんですが……」
イングリッドは、遠慮がちではあるが切羽詰まったような雰囲気だ。
「イングリッド。モノは何だ?あと報酬も教えてくれ」
俺がそう言うとイングリッドは一瞬キラリと光る笑顔を見せ、すぐに詳細を話し始めた。
「あ、すいません。一方的にお願いしてしまって……。配達物は『プギャ芋』という芋で、凄く珍しい芋なんですよ!」
「プギャ芋!?え、……ようはただの畑で取れる芋か?」
俺はその意外な配達物に驚いた。
もっと重要な手紙とかなら分かるんだが、何で芋ごときを大慌てで届ける必要があるんだ??
ん?待てよ……プギャ芋ってなんか聞いた事あったな。えーっと……。
俺がちょっと思い出そうとしていると、ターニャが大きめの声を上げた!
「プギャ芋!?プギャ芋ー!!凄いおいしい!うあー……食べたい……」
カウンターの前に立つ俺に向かって目を輝かせながらターニャは叫んでいた。
「あ、ターニャちゃん!こんにちは」
イングリッドはカウンターから身を乗り出してターニャに挨拶した。
「え、ターニャちゃん、プギャ芋食べた事あるの?」
「うん!カイトおじと会う前、たまーに。ほんの少しだけ食べれた!すごいおいしかったー」
ターニャの表情は、その美味さを思い出すかのようにニヤニヤとしていた。
へー、そんな美味い芋があんのか。俺も食ってみてえな。
ここでイングリッドが俺に耳打ちするような仕草で近寄ってくる。
ん?何だ?
「……カイトさん。実はプギャ芋はおいしいだけじゃなく薬としての効果も凄いみたいなんですよ」
「薬!?へー……凄えな。万能食材じゃねえか!」
「はい、で、今のターニャちゃんの話ですけど、……多分ターニャちゃん、前の家でずっと家事とか手伝いをさせられてたと思うんですよ」
「ん!……ああ、そうかもな……」
俺はターニャが昨日見せた大根の皮剥きを思い出した。包丁を使うのがやたらと上手いなと思ってはいたが……。
イングリッドは続けた。
「ターニャちゃんがたまーにプギャ芋を与えられたのって、多分薬としてだと思うんです」
それを聞いて俺はターニャを不憫に思った。
まだ幼いってのに家の手伝いばかりさせられ、家事手伝いのためだけに病気にならないように薬としてわずかな芋しかもらえず、よく分からない草ばっかり食わされ……、しかも最後には捨てられるなんて……。
俺はターニャの親をぶん殴りたい衝動に駆られた。
俺はターニャの背中に手を回して軽く抱きしめた。
「?おじ?」
戸惑うターニャに俺は言った。
「いつか腹一杯プギャ芋食わしてやるからなターニャ!」
「プギャ芋、食べられるの?おじ、ありがとー!」
「……おう、まあ、いつかな」
その為にも稼がねばならない。俺は決意を新たにした。
――そして同時に緊急で配達して欲しいという依頼人の気持ちも理解できた。
配達先の病人に急いで届けてくれって事だな。
「あ、それでカイトさん。報酬なんですが……緊急なので高いです!なんと6000ゲイルです!」
「ええ!?マジか……この前回った三件全部合わせたぐらいの報酬額じゃねえか!?」
「はい」
「……しかし依頼主もよく今日の夕方までなんて時間を指定したもんだな?ただでさえヘドライト村は配達困難で配り手がいない所なのによ……ダメ元でとりあえず頼んでみたって事か?」
俺の疑問に対し、イングリッドは何故か自分のことのように胸を張った。
「そう思うでしょう?なんでも先日カイトさんがヘドライト村まで一日で配達した事が、ヤマッハの住人達の間でちょっとした噂になったみたいなんですよ」
ほ、ほほーう!?俺は目を見開きニヤリとした。
「……ど、どんな風に?」
「スーパーカブって所に頼んだら、あのヘドライト村に直ぐに荷物が届いた!――って。……今回の依頼人さんはそれを聞いて是非お願いしたいとセシルさんに直接頼んできたそうです!」
「……くっくっ。そうかそうか」
俺は自分の仕事がしっかり評価されて周りに伝わっていたというのが嬉しく、しかしターニャのように素直に喜ぶのも気恥ずかしく、結果的に内に秘めたような少々不気味な笑い方になってしまった。いや、嬉しいんだが……。
しばらくニヤけたままでいた俺だったが、そうと決まればすぐに行動だ!
バダガリ農園に卸す軽油は元々明日配送する予定だったから、今日は一旦こっちを片付けてやるぜ!!
「よっしゃ、イングリッド。その依頼、もちろん引き受けるぞ!」
「本当ですか!?良かったー。これで依頼主さんも安心されると思います!」
イングリッドはそう話すといそいそとカウンターの奥に入り、配達物であるプギャ芋の入った皮袋を持ってきた。
「ではカイトさん。お願いしますね」
「おう、任しとけ!夕方どころか昼前にはキッチリ届けてやる!!」
俺は自分の体が熱くなるのを感じていた。
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