第23話 とにかく稼ぐぞ!
バダガリは俺を見たままキョトンとした表情を浮かべ、その場に立ちすくんだ。
俺がすぐに冗談だと言おうとすると、またもや大声で笑い始めた。
「ぎゃはははは!そりゃーやべえ。そうなったらこっちは大損だわ!!」
「……何で笑ってられるんだ?実際そうなる事も十分ありうるだろうに?」
「カイトさんなら大丈夫だ!」
「いや、だから何で?」
「俺の勘だ。この人は信用出来るっていう俺の勘!あんたが自分の車に荷車付けようとしてる時、スゲエ顔がイキイキしてた。それ見て何となくこの人は大丈夫だ!って思ったんだ」
何だそりゃ?あまりに楽観的すぎるんじゃねーか?……と思っていたら、続けてこうも言ってきた。
「ま、もし実際誰かにそんな事されたらギルドに駆け込んで『コイツに荷車を盗まれたんだ!』って報告しに行くぜ。そうなりゃソイツはこの辺じゃ仕事が出来なくなる」
俺はちょっと冷や汗をかいた。
「なんだ、ちゃんと考えてんじゃねーか。逆に安心したぜ」
バダガリもニヤリとして、
「そりゃあな。ちなみにその荷車の値段は24000ゲイルだ」
と一言。
「な、中々の値段だな。それだけ俺を信用してるってワケだ!」
バダガリは笑顔のまま頷く。
「よっしゃ!明後日には軽油荷台満載で持ってきてやる!」
「早えな。頼んだぜー!!」
――という訳で俺達はバダガリ農園を後にした。
もちろん後ろに取り付けた荷車を牽引しているのだが、これがまた素晴らしい品質で無駄な力もほとんどかからずカブの動きにスゥーッ、と付いて来てくれる!
例の衝撃吸収素材のせいかガタガタ音もそこまで大きいものではなく、液体を輸送するのにもやはり適している。良いもん貸してもらったぜ!
と荷車のクオリティーには大満足の俺だったが、実は内心かなり焦っていたのだ。
「……うーんやべえ……。勢いで仕事引き受けちまったけど、結構ピンチなんじゃねーか、今……」
俺は意識せずそんな独り言をつぶやいていたようで、それをカブは聞き逃さなかった。
ご丁寧にタブレット上に「?」の文字をデカデカと映し出している。
「?何がですカイトさん?せっかく大口の取引先を開拓できて荷車もゲットして言うことなしじゃないですか!?」
何も考えてなさそうな前向きなセリフだ。コイツらしいぜ……。
「アホ。確かに仕事は出来た。だが肝心の軽油が手元にないどころかまだこれから精製しなきゃならねえ状態だ。確かに軽油の精製には一度成功してるが次もちゃんと上手くかは分からん……、それがまず一つ」
「あー、なるほど……」
カブはタブレット上で目を斜め上に向けてうなっている。
「それと足りねえのは軽油だけじゃねえ。それを入れるタンクが必ずいる、しかも荷車に満載に積めるぐらい結構多めに。でなきゃバダガリ農園を一往復したときの利益率が下がっちまう。こういう配送業ってのは一回の運行でどれだけ大量の荷物を捌けるかってのが重要だ!」
そんな風にカブに力説する俺は、性格的に間違いなく石橋を叩いて渡る方だ。
なので本来ならこういう時は完璧に配送体制を整えた上で仕事を受ける……ハズだったのだが、なぜ今こんな綱渡的な状況になってるんだ……?
いや、俺が強気に受けてしまったのが悪いのは分かってるんだが。
しかし、それでも前向きなカブは俺を励ましてくれた。
「大丈夫です!カイトさん、僕がいるじゃないですか!」
「お、おう。まあ、お前の燃費に関しては実際かなり助けられてるからな。今後も頼むぞ」
「はい!」
カブは満面の笑みを貼り付けて答えた。
そう、この世界の車の燃費はまだ俺のカブには到底及ばない。こっちの世界で一文無しの俺はそれを武器に配送業で稼ぎまくるしかねえ。
当面の目標は10万ゲイル(40万円)としておこう。
現在およそ4000ゲイル、まだまだ頑張らにゃいかんな!
「おっしゃ!頑張って金稼ぐぞー。取り敢えずヤマッハの給油所へ行ってタンクと未蒸留軽油を買いまくるぞ!」
「はい!」
「ういーー!」
――トゥルルルルルン、カロロロロッ、カタンカタンッ。
新たにカブに取り付けた荷車の音がカブのエンジン音に混ざって新たな音色を奏でている。
不思議と嫌な音じゃなかった。むしろテンションの上がるような気さえする。
いくぜーー!!
――そうしてしばらくカブを走らせていると再びヤマッハの町が見えてきた。ガソリンメーターを見ると、3分の2ぐらいの所を針が示している。
やはりバダガリ農園の往復には2リットルぐらいのガソリンを使うようだ。恐らく荷車に軽油を満載にした場合もう少し必要になるだろう。
こういったデータは仕事上重要なので覚えておかなくては。
よし、時間を無駄にはしねーぜ。昨日の給油所へ直行だ!
――トゥルルルン。
――「へい、いらっしゃい!あれ?今日も給油っすか?あ!……ってことはガソリン抽出出来たって事っすね!」
給油所の若い兄ちゃんは軽快な動き近寄ってこちらに挨拶してきた。
「おう!そうなんだよ、上手くガソリン取り出せてよ、今もそれでひとっ走り行ってきた所だ。んで、実は昨日買った未蒸留の軽油が大量に必要になってな、また買いに来たんだよ」
「え、大量に!?なんか凄いっすねカイトさん。でもカイトさんのそのカブって車に必要なのはガソリンでしょ?蒸留し終わった後の軽油、めっちゃ無駄にならないっすか?」
俺はちょっとギクリとした!
この給油所も今の俺も軽油を販売しているという意味ではある種ライバルだ。あまりバダガリ農園の事やらは話さない方がいいと思った。
「……い、いや。それも使い道はありそうだから平気だ。あのよ、軽油やらガソリンやらの入れもんが多めにあれば助かるんだが――」
俺がそこまで言うと兄ちゃんはさらに笑顔を輝かせた。
「あ、ちょうどいいっすわ!ウチでまたタンクお貸しします。今んとこ30個ぐらい貸し出し用のタンクが残ってるんすよ。そんでまた給油しに来て下さい!」
「うおお。最高じゃねーか!取り敢えず後の荷車に積めるだけ貸してくれ!」
店員の兄ちゃんは俺のカブを見て、後ろに荷車が付いているのを発見し驚く。
「うはっ!これはまたいい荷車っすね!」
「そうでしょう!?僕も気に入ってます」
カブは嬉しそうに笑顔で兄ちゃんに答えた。
……あれ?お前確か人で目立たないようにするって言ってなかったか?
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