第3話 いや、笑えねぇよ。でも好きなんだよな……お前のこと
「私のために争わないで!!!!!!!!!!!!!!!」
本日二度目の『私のために争わないで』を聞いた梨太郎。
温厚な梨太郎もさすがに、これには怒り心頭。
「おい……ヒナ。お前、学校はどうした?」
青木ヒナ。彼女はこれでも女子高通いのお姫様だ。
親からは溺愛されて、毎日のように高級すしを食べ、そこで溺れるようにいくら丼を食べ続けてきた、偏食家だ。
要するに今まで好き放題にやってきたということだ。
女子高に遅刻するなんてこと、ヒナにとって知ったことじゃない。
彼女にとって、それはありふれたことなのかもしれない。
「そんなことどうでもいい!!!兎にも角にも!!!私のために争わないで!!!」
本日3回目。
ここまでくると、馬鹿にしているようにさえ思えてきてしまう。
いや、実際にあり得るのかもしれない。
ヒナのことだ。
どうせ、今回だって、きっとこの状況を楽しんでいるに違いない。
ほら、実際にヒナの口元はぴくついている。
なにか今頃になって、今回もうまく手のひらで踊らされているような気がしてならない。
「ヒナ!!!!!!ちょっと黙っててくれる????」
梨太郎はさすがに声を大きく荒げて、ヒナにお口チャックを要求した。
梨太郎のクラスメイトは、もう何が何だかといったような表情をしている。
先ほどの沈黙を破ったモブキャラは、口をぽかんと開けてヒナのことを見つめている。さすがにもう、次の言葉はないようだった。
「ヒナちゃん、梨太郎。少し冷静になろうか。いろいろと嚙み合わないところがあって、釈然としない。まず先に、聞くけど。梨太郎……」
永治の声が教室中にこだまする。
あまりにも異常な教室内の空気。
これが修羅場というやつだろうか。
「これは何の話?ぼくとヒナちゃんの間には何があったの?」
「ちょ、おま……。とぼけるのもいい加減にしろよ!!!」
梨太郎は冷静を欠いている。
それをニマニマと見つめるヒナ。
あ、これ完全に遊ばれてるんじゃ……
「いいから、落ち着けって……。梨太郎。ぼくには何のことかさっぱり分からないんだ。君がどうしてそんなに怒っているのか、それをまずは教えてくれないかい?」
永治、なかなかに冷静な男みたいだ。
彼の評価を間違っていたかもしれない。
梨太郎は、顔を真っ赤にしているが、深呼吸を何回か繰り返して、落ち着きを取り戻す。
「たしかに、ごめんな。俺が間違っていた。話し合いは建設的に行うものだよな。ごめん、永治。昨日のヒナとのノリ引きずってた」
「いいんだ、梨太郎。誰にでも間違いはある。。ぼくたちはそのことをしっかりと認識したうえで、日々のなかで何かしらの考えを訂正していくことに努めればいいんだ。そこで決して自分を責めたりなんてしちゃ駄目だ。社会が君のことをせめても君だけは、自分を愛して……」
「永治、ちょっと恥ずかしいから、そろそろ本題に入りたいんだけど……」
「あ、ああ。ごめん」
なんだかんだいって、元の調子を取り戻した親友二人。
その様子をなんだかつまらなさそうに見つめるヒナ。
いや、お前は一体何様だよ!!!!
「永治、正直に答えてくれ。俺はヒナよりもお前のことを信じてるから」
「え、それヒナちゃんの前で言っちゃってもいいの?」
「もう、そんな良い男振るのは、かなり昔にやめてしまったよ、永治。お前なら、わかるだろ?」
「ああ、そうだな。なにせ、ヒナちゃんだもんな……」
「見ていろよ、あの顔」
「ああ、めっちゃ可愛いな」
「ああ、そうなんだよ。あの純粋無垢な顔見てみろよ……」
二人して何の会話をしているのだろうか。
NTRを問い詰める前に、もう和解していないか?
二人は何を認め合っているというのだろう。
教室内がざわざわとし始める。
クラスメイトもこの状況に困惑しているようだ。
そろそろ決着をつけるべきかもしれない。
ヒナ、お前。
あとで、校舎裏な。
梨太郎はそんな心境だと、第三者から見てもわかるような、死んだ笑顔をヒナに向けてから……
「永治、お前きのう……俺のヒナを寝取ったのか?」
「断じてない」
「そうか……俺は信じるぞ。永治」
ちらっとヒナのことをみる梨太郎。
ヒナの顔には焦りのようなものが見て取れた。
いや、ヒナちゃん。
あとあと焦っちゃうような不完全な計画で、学校に乗り込んできちゃ、駄目でしょ。
もっとまともな嘘のつき方とかなかったの?
それこそ、NTRされた相手役は意地でも隠すとかさ……
もっと他のやりようはあったでしょ……
「ありがとう、梨太郎」
「でも昨日、ヒナとは会ってたでしょ」
「うん、よくわかったね、梨太郎」
「ああ……そういうことか。だいたい分かったかもしれない。ヒナ、こんなこと聞いてきたでしょ」
「ん?」
「疑似精◯の作り方教えて……?とか」
「すごいな、梨太郎……。一字一句完璧だよ」
「ヒナ……??????」
「梨太郎、今ここでヒナちゃんはのこと怒らないであげて。ヒナちゃん、たぶん本当に悪気はなかったと思うから。でもそういことかあ。昨日どうしてそんなことを聞くんだろうって不思議に思ってたんだ。まさかそれをNTRの演出に使うなんて……。ぼくの教えた『栗の花』使う方法、本当にうまくいっちゃうなんてね……。でも自分で栗の花とってきて、それで作った液体パンツに塗りたくってるところ考えると、なんかシュールだね。ヒナちゃんもよくやるよ。あ、ごめん。いろいろと憶測で語っちゃけど合ってる?」
梨太郎はふっと笑みをこぼして、永治にむかってこくりと頷いた。
それもつかの間。。
梨太郎がヒナのほうをギロっと睨みつける。
これには、ヒナもさすがにやばいと思ったのか、表情が一瞬で固まる。
「さぁさぁ!!!ヒナちゃんも梨太郎も!!!この話はまた二人の間ですることにしてさ!!!誤解もとけた?ことだし、そろそろHRも始まるから……」
「永治、俺はこのアホを高校まで連れていく……」
「え、でも、梨太郎。一限目は英語の小テストが……」
「俺にはもっと大事なことがあるんでね」
「あ、、」
「こいつを、わからせるっていう、大事な大事なことがね……」
教室がさらにざわっと、騒然とし始めたので、梨太郎は、なぜか明るい表情をしたヒナのことを引きずるように引っ張って教室を後にした。
「あんまり、ヒナちゃんをいじめないであげてね~」
永治は二人の後ろ姿を見て、そんな言葉を彼らに送った……
こうして、NTR騒動には終止符が打たれた。
青木ヒナ、16歳。
今までも、そしてこれからも。
彼女は梨太郎を振り回していくのだろう。
でも、二人はきっとうまくやっていけそうな気がする。
栗の花が咲き乱れる5月下旬。
こんな、青春……
いや、性春もあるんだということを、ここに記す。
「梨太郎ぅぅぅうううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うおらぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
梨太郎の家のリビングにて。
すでに母親と父親は満員電車のなか。
あまりにも自由過ぎる二人のカップルが、今日も今日とて愛を確かめあっていた……
【続く】
___________________
【あとがき】
すみません。こんなくだらない終わり方で。。。
NTRコメディに挑戦してみたかったんです。もっと勉強あるのみですね。。。
余計なお話ですが、栗の花があれの匂いに似てると教えてもらったのは中学生のころでした。お友達と話しながら歩いている際、その匂いがしたとき、とても気まずいというか、複雑な気持ちになってたの思い出しました……笑。
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