第4話 初デートの打ち合わせ
「カラオケに行きたいです」
「急にどうしたの三國さん」
「カラオケに行きたい気分なんですよ」
「いってらっしゃい」
~終~
「いや終われるわけがないでしょう」
by三國さん。
夕方の喫煙所で三國さんに会う。
営業の三國さんは外勤が多いらしく、彼女と喫煙所で会うのはまだ外出していないことが多い午前中の早い時間帯が比較的多い。
「終わりたいわけではないけど、終わるタイミングだったのでは?」
「いやいや、『じゃあ一緒に行こうか?』とかないんですかね、まったく」
「二人で出かけたこともない人とはじめてでかけるのがカラオケはハードルがオリンピック予選並みだと思う」
「そういえば私たちこれだけ仲良いのに一緒に出掛けたことなかったですね」
「喫煙所でたまに会話する関係としては当然だと思う」
「いつ二人で出掛けますか?私たちもう成人してますし最初はお酒なんか飲みながらお互いのこと知るみたいな……。って二人で出掛けるってもうそれはデートですかね?デートしちゃいます?あっ、私は割り勘上等派なのでその辺は気にしなくていいですよ?」
今日の三國さんは人の話を聞かない。
「カラオケに行きたいんじゃ?それと、一応言っておくけどどっかに出掛けるのもデートも今のところ行くつもりはありません」
むぅと顔をする三國さん。
デート、したかったのだろうか。
「デートの件は後日打ち合わせするとしまして」
仕切り直しですといった表情に変わった三國さん。
「たまーに猛烈にカラオケ行きたいと思うことってありません?」
「ある」
「おお?即答ですねえ。田辺さん結構カラオケ好きだったり?」
「結構好きだったりする」
「えー、意外ですね。もしかして歌ウマさんですか?」
「ひひーん」
「……ひひーん」
「2回言ったって助けませんよ?」
「ごめんなさい、すべりました」
助けてくれてもいいのに。
「うまべさんはどんな馬……じゃなかった、歌を歌うんですか?」
助け舟というべきなのだろうか。
否。これは傷口に塩を塗る行為、すなわち追い討ちである。
「本当にしょうもないことを言ったと後悔してるのでこの件は無かったことにならないでしょうか」
「しょうもないなんて私は思っていませんよ?すごーくユニークな会話で素敵だと思ってます」
にやにやしながら素敵と言われても伝わりません。
「今は心優しく綺麗な大人な三國さんと優雅な会話を楽しみたい気分だったんだけど、どうやら三國さんはそういう気分ではないらしい。一人で束の間の一服を楽しむことにするよ」
にやけ顔の三國さんの顔がより一層にやけたと、と思ったらすぐにやられたという表情になる。
しかしながら軽く咳払いをすると先ほどまでの豊かな表情から一変し、凛とした表情の三國さんが前髪を軽く掻き分けた。
「大人な女性こと私三國が一人寂しく煙草を咥えている田辺さんの相手をしてあげてもいいですよ?」
「なんだか無理にしてしてもらうのも気が引けるのでやはりこのまま一人で喫煙してます」
「むぅ」
「大人な女性はどこへやら」
「かわいい女の子をいじめながら吸う煙草はおいしいですか」
「よきかな」
「へえーそうですかそうですか」
拗ねた表情の三國さんが幼く見える。先ほどの大人びた表情といい、表情が豊かな点は彼女の魅力のひとつだと思う。
「あれ?そういえばかわいい女の子ってところ否定しないってことは田辺さんが私のことをかわいいって認めたってことですよね?」
「その前は綺麗な三國さんとか言ってましたし。今日はやけに褒められちゃって照れてしまいます」
にんまり顔の三國さん。
「嬉しそうでなによりです」
「嬉しいですよ。普段デレない田辺さんがデレたので」
「デレデレですよ、いつも」
「じゃあデートに……「お、煙草を吸い終えてしまったみたいだ。またね三國さん」
そう言い残し不満げな三國さんを喫煙所に残して部屋を出た。
喫煙所を出て廊下を歩きながら、他に人影がなく自分一人だけの空間にいることを確認する。
「むぅ……」
少しだけ熱くなっている気がする顔で、三國さんの真似をしてみた。
「かわいい女の子のそれには勝てる気がしないな……」
三國さんの『むぅ」の破壊力がやばい。
喫煙所の女の子と仲良くなった。 @iruma-lk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。喫煙所の女の子と仲良くなった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます