喫煙所の女の子と仲良くなった。
@iruma-lk
第1話 勤務中の煙草休憩はアリ
「あっ、田辺さんやっぱりいた」
「いつもいるみたいに言わないで」
「だっていつもいるじゃないですか」
「決まった間隔でしか来てないから」
いわゆる一服の時間。
喫煙者にとっては肩身の狭い今の時代、席で煙草が吸えたよ?なんて時代は当の昔だ。
そこで喫煙者にとってオアシスとも呼ぶべき場所が「喫煙所」だ。
当ビルは完全禁煙です、というビルも増えた中俺の勤める会社が居座るこのテナントビルにはオアシスが設けられている。
この会社に就職してよかったと思う数少ない利点の一つだ。
そんな場所で知り合ったのが出会うなり人を喫煙所しか居場所がない人かのように俺を蔑む
このテナントの同居人、つまりは同じ会社に所属しているわけではないけど同じビルで働いている人。
彼女とは喫煙所で徐々に会話をするようになり、今では会えばとりあえず話をするぐらいの間柄である。
「そんなに煙草吸ってて会社の人に怒られません?」
「適度に息抜きの時間を設けたほうが効率が上がると思わない?」
「うわ、質問に質問で返す人だ。その適度に、が非喫煙者からすると勝手な休憩時間って言われてるの知ってます?」
「煙草吸わない人は煙草意外で息抜きすればいいんじゃないのかなって思うけどな」
「うーん、でも仕事中は仕事しているのが当たり前で、たとえば1時間に1回5分休憩していいですよーって決められてればって感じじゃないですかね」
「そうやって決めれば一服だって行きやすいのになー」
「じゃ、私が社長になったらそういう規則作ります」
「そのときは雇ってもらおうかな」
「まずは書類選考からで笑」
喫煙所で、二人とも煙草を吸いながら、仕事中の一服についての討論。
三國さんも喫煙者のはずなんだけど、非喫煙者の代表みたいなことを言う。
「そういう三國さんも、仕事中に一服しに来てるんじゃないの」
「私は営業先から会社に戻る途中でここに立ち寄っただけなのでばれてません」
セーフとジェスチャーしながらずるい顔をする。
最近知ったが三國さんは営業職のようだった。
女性が営業、という偏見はもう古い。
中国ではむしろ女性を積極的に営業職に就かせるとか就かせないとか。
男尊女卑なんて言葉は今は禁句。むしろ女性に気を遣いすぎというほど気を遣うのが今の社会。
むしろ変な気の遣い方が女性ということを特別視して嫌な思いをするのでは、と思うこともあるので自分は女性男性を特に意識することなく接するよう心がけている。
三國さんは若いのに一人で営業に出ている。きっと優秀な人なんだろう。
「仕事中の煙草休憩の議題に戻ります」
三國議長がそんな俺の頭の中に静粛にと呼びかける。
「実際、田辺さんの会社の人で喫煙者ってどれくらいいるんですか?」
「俺と後2.3人ぐらいかな」
「えー少ないっ」
「三國さんとこはもっと多いの?」
「私のとこは......えっとわかんないですね。多かったような少なかったような」
複数の会社の人が共同で利用するこの喫煙所で、同じ会社の人は見かけてもそれがどこの会社の人かはわからない。
俺が三國さんの会社の喫煙率まで知ることはできないが、まさか本人もわからないとは。
「でも、確実に言えるのは私は煙草吸います」
ビシッと敬礼のポーズでそう答える。
煙草を持つ手でやるから吸殻が舞ってます。
「失礼しました」
空中に舞う灰を振り払う三国さん。むしろ自分で纏ってしまっている。
「私が喫煙者で、田辺さんも重度の喫煙者じゃないですかー」
「おい」
「だからこうして知り合えたわけで、やっぱ仕事中の一服ってアリなのでは」
「まあ、交流の場って意味では、大人の社交場として喫煙所の価値を見出していくことにしよう」
「そういう意味じゃないんですけど......」
「ん?よく聞こえなかった」
「耳にヤニ詰まってるんじゃないですか」
「急に辛辣」
どういう意味だよ、と疑問に思うも聞くのは野暮だと聞こえないふり。
右手の人差し指と中指で挟む紙巻の煙草に目をやると、煙草の火がフィルターに引火しそうなほどに限界だった。
「吸い終わったから戻るわ」
「もう一本、吸わないんですか?」
「”一服”だからな」
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