初戦闘は辛勝で

「ファイアボール!!」

 その声とともに飛んできた炎の球は、まっすぐにゴブリンへと向かうとその顔面を焼く。

「グギャギャア!?」

 驚きと痛みで悲鳴を上げるゴブリンだったが、仲間を殺された怒りに燃えるゴブリンはその程度では倒れない。

 顔を歪めながら炎の球が飛んできた方向、そこで杖を支えにしながら苦しそうに立つ少女を睨み付ける。

「やっぱりあの程度の威力じゃ駄目か……。でも、もう魔力が……」

 力尽きたように膝をつく少女に向けて怒りを露にしながら、ゴブリンは彼女へ向かって駆け出そうとする。

 そんなゴブリンの背後に回った俺は、素早くクラフトした石の斧を振り上げる。

「お前の相手は、こっちだ!」

 両手で持った斧を力の限り振り下ろすと、その刃はあっけないほど簡単にゴブリンの首を両断した。

 一瞬遅れてゴブリンの首からは勢いよく血が噴き出し、その身体は力を失いゆっくりと倒れていく。

 その様子をしばらく呆然と眺めた後、俺は深いため息を吐きながらその場に座り込んだ。

「はあぁぁぁっ……。マジで死ぬかと思ったぁ……」

 生まれて初めての命のやり取りに、今さらになって全身が恐怖で震える。

 同時に殴られた左腕が強烈に痛み始め、俺は思わず顔をしかめた。

 しかし、そんな俺よりももっと辛そうな人物が居た。

「くっ、うぅ……」

 少女の苦しそうなうめき声を聞いて、俺は慌てて彼女へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

 声を掛けてみても反応はなく、良く見れば彼女の顔色は真っ青で全身には無数の傷があった。

「酷い怪我だ……。早く治療しないと」

 とは言ったものの、ここには薬どころか包帯すらない。

 まともに治療するための物がなにもない状況に、俺は必死になって思考を巡らせる。

「材料さえあれば、回復アイテムを作れるのに……」

 それらしいアイテムのレシピは頭に浮かんでいるのに、それを作るための材料がない。

 どうにか探そうにも、木の枝や石みたいに素人がパッと見て分かるような物ではなかった。

「せめて、見分ける特徴さえ分かれば……」

 そう考えた時、ふと俺の頭にひとつの可能性が浮かんできた。

「……そうだ! クラフトシステムが使えるんなら、他のスキルだって使えるんじゃないか?」

 もしそうなら、材料を見つけることもできるかもしれない。

 こうしている間にも少女の身体からは血が流れ続けていて、状態は刻一刻と悪くなっている。

 迷っている暇などないと判断した俺は、頭に浮かんだ一縷の希望にすがるようにして意識をスキルに集中させた。

「広域鑑定」

 スキルを唱えた瞬間、身体からはなにかが抜けるような不思議な感覚とともに周囲の景色が一変した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る