大魔導師の弟子
カフェラテ
1章 タタン街編
第1話 5人の子供たち
『ハーディア』と呼ばれる大地。
魔物が大地に蔓延り、人々は間近にある死を恐怖しながらその生の営みを必死で守り抜いていた。
国は形成され、都市が建設され、街が自然発生的に作られた。全ては自らの種を守り抜くためだ。
ある日、一人の老人が森の中を歩いていた。
目の前に目を覆うばかりの惨状が広がっている。
荷車が大破し、その中にあったであろう荷物は散乱し食い散らかされていた。荷車を曳いていた馬はどこにも見当たらない。大量の血が森の奥へと続いている跡を見ると、何か巨大な力によって馬は引き摺られていったことが分かる。血と共に臓物がここそこに見られ、腐乱死臭が立ち込めている。
人間の手足や体があちこちに散らばっており、夫婦なのだろうか若い男女の頭が転がっている。
護衛の冒険者か傭兵であったものの無残な痕がそこかしこに視認される。皆、死ぬ直前に遭遇した不条理な死への恐怖に色塗られており、眼を見開いているモノ、歯を食いしばっているモノ、その一部が転がっている。
しばらくその様子を眺めながら歩いていると、木の根の間にすっぽりと挟まっている赤ん坊が目に入った。
その赤ん坊はスヤスヤと寝ているではないか。
老人はその奇跡的に生きている赤ん坊を拾い上げ、呟いた。
「この惨劇の中でよく生き残ったな。この残酷な世界で生き残ったのは幸運なのか、それともこのまま連れの者たちと共に朽ちてしまった方が幸運だったのか、ワシには分からん。しかしワシに見つかることがお前の運命だとするならば、ワシはただお前の生死をお前の命運に任せるとしよう」
老人はそう呟き、そのスヤスヤと眠る赤ん坊を抱いて、森の奥へと消えていった。
それから6年の月日が経った。
「待て!この!」
「レオ!右を塞げ!俺は左を塞ぐ!」
「このウサギ、速い。全然当たらない」
「私がやる!」
「・・・」
5人の子供たちが森の中を疾走していた。
異常な光景だった。
人間たちは、城塞都市の城壁より外に出ることはほとんどない。自分たちの生存を守るために人々は結束し集団を作り、防御を固め、生き抜いているのだ。そんな世界にあって子供たちだけで森の中にいることは絶対に有り得ないのだ。
5人の子供たち。3人の男の子と2人の女の子。年齢はそれぞれ6歳ぐらい。多少の差はあれども、5人にとっては、その違いなど全く意味をなさない。
皆生まれた時期、場所、親は不明であるが、兄弟姉妹のような、また戦友のような絆で結ばれた間柄であった。
5人は魔力を全身に纏わせ、今目の前にいる一角ウサギを追跡していた。
一角ウサギは冒険者ギルドに認定ではランクGに相当し、1人の魔法を使う一般術師の力と同等であると言われている。普通、6歳ぐらいの普通の子供たちが相手にしていい魔物ではないし、6歳の子供たちであれば何百人集まろうが、簡単に返り討ちに遭うような力の差があるはずであった。
しかし、この5人の子供たちは楽しそうに笑いながら遊びの一環であるかのように一角ウサギを追い詰めていた。
レオは一角ウサギの左側を並走した。
ノアは一角ウサギの右側を並走。
後ろからフィンが、自分の手元に生成した強固な土塊を、一角ウサギに投げつけているのだが、なかなか当たらない。
フィンの後ろをヘレーネが追走している。
アリスはフィンの横で木の枝を拾い、何度も一角ウサギを突き刺そうとしていたがうまくいかない。
一角ウサギは高速で走りながら、キョロキョロと周囲を見た。
左側の小柄なレオと右側の大柄なノアを見比べて、どちら方向に逃げるのが生存率は高いかを思案したようであった。
一瞬の思案の末、左側へと自分の角を前に出して突撃してきた。
「来た!!」
一角ウサギが自分の一角でレオを突き刺しにしようと襲い掛かった。
しかし、それを今か今かと待っていたレオにとっては、頭から突撃してきたのは絶好の好機であり、容易く一角を掴み思い切り上空に一角ウサギの体を持ち上げ、その胴体を勢いのまま地面に叩きつけた。
ボキッ!!!
「キュハ!!」
骨の折れた大きい音が響き渡った。内臓が破裂したのか、一角ウサギは口から血を吐き出した。一角ウサギはまだ息があり、この状態でも逃走を続けようとしたが、不自然に背中は曲がっていた。
よたよたと動く一角ウサギの後ろを、アリスが木の枝を投擲し、胴体を一刺しにした。
「やった!!」
痙攣している一角ウサギに、フィンは後ろから土の塊を投げつけ、一角ウサギの頭を叩き割り絶命させた。
もう既に動かなくなった一角ウサギに、横からノアが素早く近づき一角ウサギの胴体を切り裂き、腸を取り出した。血が辺りに充満するような臭いが立ち込めていった。
「血抜きをしよう。後で不味くなったら困るからな」
ヘレーネは突き刺された木の枝の端を持ち、突き刺さった一角ウサギをアリスと一緒に運び始めた。
運ばれる一角ウサギの体からは、ポタポタと血がしたたり落ちてきた。
「血の臭いで他の魔物を引き寄せても面倒だから、早く帰ろう」
レオは皆を先導し、自分たちの拠点へと走り去っていくのだった。
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