第22話
「はい、それでは今日は劇と配役をパパっと決めちゃいます。やりたい劇がある人は挙手をお願いします」
そんな委員長の声と同時にちらほらと手が上がり始める。
隣の席に座っている女の子も真っ直ぐと手を伸ばして、なんだかよく聞いたことのない劇の名前が黒板に向かって放たれた。
みんなが誰もが聞いたことのある白雪姫だとか、赤ずきんちゃんみたいな海外の童話から桃太郎や浦島太郎のような日本の童話を挙げている中、さすがに演劇部は提案が違う。
琥珀ちゃんのやりたい劇がどういうものか気にはなるけど、今日は琥珀ちゃんに一票を投じることはできなさそうだ。
正直何の劇になろうと、わたしは裏方をやる予定だし、わたし個人としては何でもいいわけだけど、昨日、日和とこんな話をした。
『日和は何の劇やりたい?』
『んー、やっぱり定番のものがやってみたいかな! ロミオとジュリエットとかもいいし、シンデレラとかも! あ、白雪姫もあるよね!』
『どれが一番とかある?』
『そうだなあ…… まあロミオとジュリエットかな? 定番中の定番ってかんじ!』
と、このような会話を交わしたため、わたしはロミオとジュリエットが候補に挙げられれば、それに一票を入れると決めていた。そして、今、黒板には一つの候補としてロミオとジュリエットの文字が書かれている。
琥珀ちゃんには申し訳ないけど、わたしはいつだって日和ファーストなのだ。
一通り候補が挙げられ、ついに投票の時間となる。わたしは予定通りロミオとジュリエットに手を挙げた。
黒板に書かれた正の字はわたしと日和を合わせてちょうど一つ分。中々に少ない。だけど、いろんな劇で票が割れているみたいなので、これが決して悪い結果なわけではなさそうだ。
「やっぱ私のは無理かあ~」
琥珀ちゃんが声を漏らした。琥珀ちゃんが提案したよく分からないカタカナの劇には正の字の一角目までしか書かれていない。
少し可哀想に思う気持ちもあったけど、琥珀ちゃんの顔はあまり悲しそうではなかった。
「──ということで、シンデレラに決定しました。次は配役を決めていきます」
琥珀ちゃんに気を取られている間に、いつの間にかロミオとジュリエットは負けていた。一票差の僅差だった。
まあこればかりは仕方ない。日和ファーストなのはきっと、というよりか、ほぼ絶対にこのクラスで私だけなのだから。
「琥珀ちゃんは何の役やりたいとかある?」
「
意外な役どころに私は目を見開く。
てっきりシンデレラとでも言うのかと思っていた。
「あ、驚いてるでしょ? ムリムリ、私に主役なんか似合わないもん! ちょっと目立てる継母くらいがちょうどいいんだよ!」
「んー、そうかな? 琥珀ちゃんならシンデレラでも似合うと思うけど」
実際、シンデレラを演じても不思議ではない可愛さは持っているし、演劇部なら演技力も申し分ないことだろう。人前に出る勇気もあるだろうし、お世辞ではなく本当に似合うと思う。
「へへ、ありがとう。でも私、悪役ポジションにも自信あるんだ」
そう言ったと同時に、委員長の「次。継母をやりたい人」という声が耳に入った。
琥珀ちゃんは高々と手を挙げ、他に誰も継母をやりたい人がいないこともあって、すぐさま継母役に決定した。
「ふふん、シンデレラをぼこぼこにしてやるんだから!」
そう言って、琥珀ちゃんは手をシュッシュとパンチして見せた。
「あははっ、期待してるよ」
見かけによらず、面白い子だ。
「──ということで、王子役は
教室にはわいわいとした声と拍手の音が鳴り響く。
「…………は?」
一瞬、時が止まる。
私は手なんか一切動かずに、言葉になっていないような言葉を発することしかできなかった。
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