第五章 9人暮らしは想定外だってばよ(焦)

閑話 普通のスローライフをください

俺たちはあの後、普通に帰った。

夜中に9人も森で歩いていたら魔物が来るように思うのだが、カミナスがドラゴンってことや、悪魔や天使がいるってことで襲撃はなかった。

もしかすると、これからはクエストを受けても対象が出てこなくてクエストが失敗になるってことも起こり得るんじゃないのか?

そんなことだけは起こってほしくないな。

そういえば、冒険者ギルドでドロップアイテムの換金をしたら、1000万テリンになったのだが、高金額だから一部は後日用意するとか言われて100万だけ渡された。

支払いが終わるまでにギルドが潰れるってことにはならないと思うが。

家もとい屋敷に到着してから、俺は居間で泥のように眠ってしまったらしい。

俺自身も記憶がないのだが、そのくらいに疲れていたってことなんだろう。

……目が覚めたらユイナの膝枕の上だったってのには驚かされた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ああ……。『終焉之業火』のデメリットが疲れやすいってことは分かったよ……」


昨日は数回の『解析』と2回の『終焉之業火』と3発の『火炎弾』しか使っていないから、そんなに魔法は使っていないはずなのだが。

やっぱり、威力の通りに『終焉之業火』の消費魔力量が多いんだろう。

俺はどうしてか魔力を消費しても倦怠感が全くないから、その辺には鈍感なのだ。

魔力の減少による倦怠感が感じられるようになれば、限度が分かるようになるはず。

それと……。


「……意外とコッチが恥ずかしいんで、もうヤメテクダサイ……」


ユイナも、【中の上】から【上の下】と呼べるくらいの胸がある。

この状況で俺が膝枕を止めてほしいと言っているのを男たちが聞いたら、そんなのを真下から見ることになっている俺を羨ましがる声が大量に湧いてきそうだと思う。


「そっ、それもそうですね。誰かに見られたら、全力で戦闘にならないとは限りませんから。気を付けなければ……」


……取り合われるのもやぶさかではないと思っていたのだが、本音を言うと、もはや百合じゃないのかとか言われちゃうレベルで皆には仲良くしてほしい。

それはそれでちょっと複雑な気分になるが、それももうアリなんじゃないかと思う俺は疲れているんだろう。


「今日は、どの野菜を育てるのか王都まで見に行きませんか? 勿論、全員で!」


……俺の不安ってのも、そんなに必要なモノじゃないのかもしれない。

流石に俺に膝枕しているのを見ただけで戦闘を申し込むようなのはいないと思うし。

とりあえず、今日から俺はミュストの動向も気を付けなければ。

昨日、俺が皇帝精霊に『意味までは言わないけど全員好きだ』という趣旨のことを言った後から、挙動がおかしいように思えたからな。

まあ、あの従者思いの精霊使いにそんなハズはない……と思うのだが。



全員が起き、俺の作った朝食を食べ終えてから片付けも終わった。

今朝は俺が朝食を作っていて、朝食作りのときにユイナが手伝おうとしてくれた。

それは有り難いのだが、朝から美味な暗黒物質を食べる気になれるヤツなんていないと思ってさせなかったのは秘密だ。

それに、この世界は地球と違って、包丁の扱い方がめっちゃ危ないし。

あと、『浄水生成』の扱いにも慣れてきた俺は、手を濡らさずにしっかりと皿や調理器具を洗う術をマスターしつつある。

魔力が水として照射される座標を調節すれば、そんなに魔力を使わなくても汚れが意外と速く落ちるのだ。

洗剤なんてないこの世界で、俺の洗った皿が一番キレイな皿である自身はある。

足りない分の食器やその他必要な物の殆どは『物質創造(低)』で作れたから、深夜になってから急に俺たちと暮らすことになったあの3人も問題はなかった。

今日は野菜の種だか苗だかを見に行く予定だが、5人の使う家具とかも買わないと。

ちなみに、部屋の数はまだ足りている。

もうこれ以上メンバーを増やすワケにもいかないが。

あの悪魔っ娘2人――カカリとマルヴェ――と、天使っ娘――コトネ――の3人は、もう完璧に悪魔や天使だった痕跡を消していたな。

それぞれ角や翼は消して、人間っぽい服装で身を包んでいる。

まあ、もし角や翼を消しただけだと、日本だったらお巡りさんがすごい勢いで飛んできそうなくらいに際どい……に近い服だったのは問題だったしな。

とか考えながら歯磨きも終わらせると。


「早くしてください! もう皆さんが外に出てますよ!」


ウキウキしたユイナの声が、玄関から聞こえてきた。

そんなに急ぐことじゃないだろうにとは思うんだが、王都は王都なんだから、それなりに早く行かないと、意外と混雑して楽しめないそうだ。

……そう言えば今更だが、俺たちのパーティーメンバーって普通じゃないな。

元勇者の右腕とか、ドラゴンとか、精霊王とか、天使に悪魔まで……。

俺だってチート能力持ちだし、死者を出す魔物も一撃だし……。

それと、俺ってユイナとスローライフするつもりだったのに、少しずつだけど、スローライフから遠のいてきてないか?

……俺に、普通のスローライフをください……。

そんな誰にも届かないことを願いながら、俺は玄関へと急ぎ足で向かったのだった。


次回 Episode022 大規模討伐クエスト、9人で受けます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る