第2話 5年ぶりの再会

ドアから出てきたのは──

高校一年の頃、同じクラスだった元カノ。

しかも、四ヶ月ほど付き合っていた相手、**中山裕美なかやまゆみ**だった。


高一の七月、夏休み前。

俺、**上田翔太うえだしょうた**は、裕美に告白して付き合うことになった。


でも──当時の俺は、女子との会話経験ゼロのコミュ障で。


デートに行けば挙動不審、

プレゼントに選んだのは謎の“ジャム”、

行き先はゲームショップ──と、散々な彼氏だった。


当然ながら、十一月には振られた。


その後、クラスは別になったけれど、

廊下ですれ違うたび、心臓が変なリズムで跳ねていた。



「高一の頃、同じクラスだった中山だよ〜! 忘れちゃったの?」


「えっっ! うっそーーっ! ……すごい綺麗になったじゃん。誰だか分からなかったよ!」


「上田くんって、“すごい綺麗”とか言うタイプだっけ?」


(……気まずっっ)


「ぼ、僕も大学の四年間で色々と成長したからね……」


「同窓会とか来なかったもんね〜。関西の大学に行ってたんだっけ?」


「ソダヨー……」


はやく、この空気から脱出したい。


「これ! 心ばかりのものですが受け取ってください!」


「えっ!? プレゼント? まさかジャムとかじゃないよね?」


「さぁね? ──じゃ、もう遅いし帰るわ!」


そう言って、俺は無理やり話を切って、その場を立ち去った。



ジャム。

それは昔、裕美に誕生日プレゼントとして贈ったもの。


でも後から知った。

──裕美は生粋の“ご飯派”だった。


いや、そもそもジャムを誕プレに選ぶって何だよ俺。

今なら間違いなく「いらねーよ」って突っ込むわ。


それよりも、今の方が問題だ。


とにかく、気まずすぎる。

再会したのが最悪の相手で、しかも隣人って……どうすればいいんだよ。


しんどすぎる。



今日は色々あったな……

そう思いながら風呂に入り、布団に潜り込む。


眠ろうとしたその時──


ピコンッ


スマホが鳴った。


画面を見ると、LINEの通知。


『裕美:今日は久しぶりに会えてよかったよ! 昔の話とかしたいし、明日空いてる〜?』


(……ブロックとかしてなかったんだな、俺)


正直、めんどい。


返事せず、そのままスマホを伏せて目を閉じた。



高一の頃、俺は初めて人を好きになった。


相手は、小柄で落ち着いた雰囲気の女の子。

地味だけど、真面目で、どこか安心感のある存在だった。


騒がしい女子より、静かな子が好きな俺にとっては、

裕美を好きになるのは、むしろ自然なことだった。


でも、どうやって近づけばいいか分からなかった。


LINEなんて持ってなかった俺は、無理やりインスタで繋がった。

今思えば、若気の至りってやつだ。


夏休み前、告白のタイミングも分からなくて──

クラスメイトが見てる中で、強引に想いを伝えた。



初デートでは、彼女が観たがってたアニメ映画を観た。


……までは良かった。


その後、なぜか俺はゲームショップに寄り道。

あの時の裕美の顔──引きつってたの、今でも思い出せる。


二回目のデートは、オープンキャンパスに行った後、食事とウィンドウショッピング。


今思えば、裕美はもっと色んなことを言ってほしかったのかもしれない。

やってほしかったことも、たくさんあったのかも。


でも、俺はそれに気づけなかった。

彼女の気持ちに応えられなかった。


それが、最後のデートになった。



文化祭にも一緒に行った。

帰りに寄ったカフェで他愛もない会話をした。

LINEでも、たくさんやりとりをした。


でも──

別れの一言で、すべてが終わった。


絶望した。

そして、罪悪感も芽生えた。


彼女は、四ヶ月も“我慢”してくれていた。

ガキだった俺を、ちゃんと受け止めてくれていた。


なのに俺は、彼女に甘えてばかりだった。


強くならないと。

そう、思ったんだ。



翌朝、午前八時。


『ピンポーンピンポーンピンポーン……』


インターホンの連打。

俺はその音で、目を覚ました。


(……まさか、またアイツ?)


寝ぼけながら、玄関に向かった。

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