貴族家嫌いが貴族に?!(仮)
@namatyu
第1話
転生した。
異世界転生だ。
魔法があるそうだ。
でも一人一つ、覚えられる魔法は一つなのだそうだ。
しかも八歳までは分からないらしい。
発現する段階は八歳が一番早いというだけ。
アタシの魔法はまだ発現していない。
異世界生活ちょっと憧れてた時期もありました。
でも、風呂にも入れず、トイレも穴を掘って埋めて、溜まったら肥料にする。結構キツイ生活に直ぐに心が折れた。
貴族が嫌いだ。
何故かって?
何もかも奪って、アタシの生活なんてちっとも考えてくれないんだ。
父ちゃんは徴兵されて、帰って来なかったし。
弟と妹はまだ五歳と三歳だ。
長女のアタシが何とかしなきゃなんない。
『うぇええーーん。ままぁーーー』
弟のデムと妹のルリは揃って号泣と来た。
ベッドに寝臥せっている母ちゃんが心配で堪らないんだろうね。
正直、正攻法じゃ打つ手なしだよ。
母ちゃんを治す薬も買えない。治癒魔法も受けられない。
癒し手って呼ばれるような治癒師は、教会のシスター達が担っている。彼女達は《治癒魔法》が使える。
ただ、それにも御布施がいる。
要は金だよ。
アタシは八歳だから。
本当は治癒魔法でも発言してくれれば万々歳なんだけどね。
そんな奇跡すら起きない。
というわけで、詰みではあるけどお金を工面する方法は一つある。
アタシ自身を売れれば買い付けることも出来るのだ。
無力なアタシは、決断を迫られた。
母ちゃんと弟妹達の為に。
自分を金に換えることにした。
ザックロール領
ここは領都として、ある程度栄えている。
中央にザックロール貴族家の家があり、それを取り囲むように北に商業区、東から南にかけて練兵区、西から南にかけて領民区がある。練兵区と領民区が半々で南も占有しているということだ。
それを囲むように石壁がある。
そして石壁で隔てられた先にいるのが農民・庶民区となっている。農民・庶民区には害獣除けと魔物除けに木柵がある。
木柵はあってないようなものだが、ないよりマシ。
そんな場所で生活しているのがアタシことララだ。
貴族が領のトップ。
それを支える騎士団がいて、彼等騎士は貴族所属。
解雇されると自由国民となるらしい。特殊な位置付けだ。
商人・傭兵・探索者など仮定住者などは自由国民という位置付けだ。
領民とされる安全な《内地》と呼ばれる土地に住む民を上級国民。
自由国民とされる者も《内地》に定住すると上級国民。
農民・庶民は一般庶民。
その下に奴隷がいる。奴隷は大きく分けて三つ。
一つ目は特定分野の生産職に携わる生産奴隷。
例を上げると農業に携わる奴隷は農奴と呼ばれる。
二つ目は戦闘をこなす奴隷—―戦闘奴隷だ。
三つ目は犯罪奴隷。これは犯罪者のみがなる奴隷だ。
一番高値がつくのが戦闘奴隷。
二番目に高値がつくのが生産奴隷。
三番目の異様に安い!安い!安い!の格安奴隷は犯罪奴隷。
生産奴隷より戦闘奴隷が高いのは戦闘奴隷の方が危険だから志願する人がそもそも少ない。
囮用の戦闘奴隷もいるのだよ?戦えなくてもね?
戦闘が出来ない奴隷は囮になるしかないけど、一瞬の時間を作ってくれたらいいって言うベテランもいるんだよね。
ごちゃごちゃ言ったけど命懸けの職務に就くから高い。危険な任務に身をやつす奴はあまりいないのだ。だから高いんだ。
犯罪奴隷は魔物や害獣、盗賊達の囮に使う事もしばしばあるが、それだけじゃやはり需要と供給は釣り合わない。
釣り合いが取れないなら、価格は高騰する。
食糧の相場が飢饉やらで変わるのと一緒だ。
アタシは女だけど、
チビとか発育悪とかいうのはなしな!食べ物が足りないんじゃ!あればもっと育ってたよ!
ごちゃごちゃまた言ったけど自信があった。
だから、なりにきた。
戦闘奴隷に。
《内地》を行き交うことは庶民だってある。
食糧や生活必需品の買い付けのためにね。
だから石壁の中に入っていても文句は言われない。
ただ、たまにエリート意識の強い層に冷ややかな目で見られるだけだ。
商業区の人身売買を生業にしているおじさん達を早速見つける。子どもが一人、さぞ奇妙なことだろう。
売られるにしても大概親が連れているもんだからね。
「おい、こんなとこで何してんだ?」
「身売りか?俺がお前の主人探しでもしてやろうか?」
「きいてんのかー?」
アタシは粗暴な連中を無視し、一人一人奴隷商を見る。
その中でも取り分け身なりの良い人間に目を付けた。
「おじさん、奴隷商?」
「ああ、そうだよ。お嬢ちゃんどうしました?」
このおじさんはアタシが話し掛けても嫌な顔一つせず、わざわざ子どもの目線まで腰を屈めた。そして丁寧に話す。
コイツで決まりだ。
「アタシを戦闘奴隷として買ってくれ。その売値を母ちゃん――マイラに届けてくれ。弟の名前がデム、妹の名前がルリの家だ。場所は南門を出て直ぐのボロ家だよ。」
「失礼ですが、お嬢ちゃんはおいくつで?」
「アタシは八歳。足はそこそこ速いよ。小柄だし、森でも囮役になれる。壁の外では狩りの囮役をすることで肉を分けて貰ってたくらいだ。」
アタシが決意に満ちた目でおじさんに大事な事を簡潔に告げ売り文句を垂れた。
少しの沈黙の後、奴隷商おじさんは口を開いた。
「……分かりました。丁度戦闘奴隷のストックが尽きていた所です。なるべく高値を付けて買い取ってもらいましょうね。」
「ああ、頼むよ。」
戦闘奴隷には剣と盾の紋章が魔法によって印付けされる。
特別痛くはない。
右腕に付けられた奴隷紋を見て奴隷になったのだと自覚する。
奴隷になってしまったのは怖い。
でもしょうがない。
これしかないのだ。泣いて堪るか!
気丈に振る舞い、堂々と檻の中へ。
幸い、あっという間に買い手は見つかった。
そして、二十万ゴールドも値が付いた。
相場を聞いていたので驚いた。
囮用の戦闘奴隷は十万らしい。
犯罪奴隷が一万らしいので、相当に高い。
まあ、需要があったということだ。
「お前の主人、《ギーズ》だ。俺の顔を忘れるんじゃねえぞ」
ものすっごい不細工だし、歯抜けだし、隻眼だし、体臭がくっさいし、無精ひげだし、毛深いし忘れる方が難しいよ。
「はい。」
大人しく従う。
アタシはギーズに買われたらしい。
ギーズの足は速い。
というか歩幅の問題だ。
奴は大人、アタシは子ども。
一歩が違い過ぎる。
でもアタシは囮奴隷に志願した身。
この程度、当たり前のように付いていかなくては。
高値で買ってくれたギーズに不当に扱われる可能性もある。
アタシは走る程ではない、早歩きで付いていく。
どうやら、居酒屋っぽい所に入るらしい。
酒臭さが凄い。
「戦闘奴隷—―囮だが、一匹買ってきたぞ。」
「おお、商品あったんか。」
「やるじゃねえか。」
「で、どれだ。」
「これだよ。」
どうやら仲間がいたらしい。
連れて来られた先で、あくどい顔した連中が此方を見る。
値踏みするような目で。
「おいおい、そんなガキが大丈夫か?」
「ま、女の肉は食いつきがいいからなー」
「確実に一戦分の戦闘にはなるな。」
「いやいや、十戦は保ってもらわないとな。」
「そりゃ、ここらの魔物相手ならな。奥に行こうぜ。そったら一戦でも十分だ。」
どうやら死地に行くらしい。
二十万もの大金は農民であったウチの家族からしたら十年分にもなる。全部が母ちゃんたちに入るわけないけどそれでも病気を治して節約したら当面は食いつないでいけるはずだ。それだけのお金をぽんと出したこいつらは実は相当稼いでいるのかもしれない。
「じゃ、いっちょソイツが使えるか浅い狩場でみてみっか。」
バンダナを巻いた細身のイワシ男が仕切る。
「さんせーい。」
むさくるしい男達の中に女もいたみたい。
そばかすが凄い、目つきがキツイ女だ。
髪も結構傷んでるが、まあこんなもんだ。
太ってないだけマシ、いやこの世界だと太れるのは富の象徴だろう。だから、もしかしたら細身の彼女は価値が低いのかもしれない。
かくいうアタシは細身通り越して、がりがりだけどね。
「俺達、ディセル団の為に死ぬ気で働いてくれよ?」
「違うだろ、死ぬまで働いてくれよ?だろ」
「違う。死肉になっても貢献せよ!!」
部下の悪ふざけに大して一喝したバンダナイワシが一番苛烈だ。
まあ、高値で買ってもらったからね。
こればっかりはしょうがないね。
魔法も持ってないし。いやまだもってないだけだし。死ぬ前に絶対手に入れてやる。一度で良いから使って死んでやる。せっかく魔法がある世界に生まれた替わったんだからね。
「ガガ!お前、斥候だろ!さっさとその小娘に技術の一つでも叩き込んでこい!!」
「へい、小娘さっさとこい!」
ザックロール領を囲むように広がるドリトル森の南へガガと呼ばれた男と一緒に進む。
森へは狩りの時、手伝いに入る。しかも南の森はララにとって庭のようなモノだ。
こいつらはどうやらアタシが何処の出だとか知らずに買ったらしい。
薄いボロ服に、お手製藁草履を履いただけのアタシだがザザに呼ばれた男にしっかりとついていく。
魔物や害獣の索敵の仕方を実際にやらせることで教えてくれるみたいだ。
先ず、草が踏み倒されていないか、汚いが糞はないか。木が傷ついていないか。葉が変に散っていないか。
足跡の見方から、耳を澄まして音を良く聴く。
それらを進行方向に沿って、怪しい茂みやらを徹底して潰していく。もちろん茂みを直接調べるのではなく、怪しい茂みを確認するために一定の距離を取って確認できる位置からだ。
なぜこのような手間な事をするのか。
単純だ。
魔物の中には人間のように知性の高い魔物がいるのだ。
例をあげると、ゴブリン、
そういったのが知性を持つ魔物だそうでしっかり待ち伏せをするらしい。
そして独自の言語を用いて、会話もするそうだ。
単独では動かず、三人四人と徒党も組む。
アタシも奥まで探索しているわけではないから詳しいことは知らないけど、狩りに参加する大人達もこれらの知能のある魔物が怖いみたいで、「ゴブリン達には遭いませんよう、イシュラス神の御加護をどうか我が身に与え給え。」なんてよく言っているのを聞く。イシュラス神とはこの世界の創造の神らしい。
因みにこの神には会って無い。
お決まりの神にあってどうたらってやつはなかった。
話が逸れたね。
アタシは中腹程度までなら森に入った事がある。
でも知性をもった魔物はドリトル森では見た事がない。
つまり、居ないのでは?と彼女なりに予測を立てていた。
それにしても、このガガと呼ばれた男は静かだ。
森に入っているのだから、不用意に声を出さないのは当たり前だが。この者からは音そのものが聴こえない。
やたら自分の足音が煩く聞こえる。
囮役を担う為に、それなりに狩りに出て、経験を積ませてもらっている。ララ自身三年の斥候モドキ経験がある。
足音を消す事は大人の中ですら、ララが上手い方だと自負していたくらいなのだ。
だから、戦闘奴隷なんてものに志願したんだけど。
この飄々とした男の中でも小柄な男に、ララの自信は早々に砕かれてしまった。
なんとか技術を盗もうと必死に食らいつく。
だが、どう考えてもララの足捌きの方が上手い。
つまり学ぶことがない。特に音を立てない歩き方……という点においてだが。
これは……魔法?スキル?
二時間も森にいて観察したのだ。
ララは何らかの魔法をこいつが使っているのだと確信する。だって止まって、もごもご言うんだもの。パッシブスキルならそんな事しなくていいし。
「お前、これが魔法だって気づいたのか?」
突然声を掛けられて、ララはビクッと身体を震わせる。
どうやら、反応を見られていたらしい。
というかアタシが分かりやすいのか?
アタシは頷きを返すだけで、喋る愚行は犯さない。
ここの森にいるのは、月狼と鬼蜘蛛、モラワームと呼ばれる気持ち悪い奴。正式な名前は分からん。みんながそう呼んでるから、そう呼ぶまで。
月狼は真黒な狼。集団戦が得意な魔物だ。
鬼蜘蛛は大人を軽々と包み込んでしまうくらいの大きな脚の蜘蛛。背の模様が鬼みたいに赤くペイントされている蜘蛛だ。
モラワームは両の手がスコップのようになった土蟲。獣のような頭部に二本の触腕。腹がぶよぶよとした蟲感のある魔物だ。
気持ち悪い。
魔物で見た事が在るのはこれだけ。
獣はクマと兎、狐がいるのは知っている。クマは追い払うのが大変だ。だから、会いたくない。アタシが一番会いたくないのはクマだ。しつこいし、強いし、しぶといし。
森の中をガンガンと進み、知り尽くしていると思っていた場所から未開ゾーンに突入する。
そこで、最も相手にしたくない部類とされている魔物を発見してしまうのだった。
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