神の治癒術士
魚谷
序章
雷鳴が轟く深夜。
降りしきる大粒の雨が大地をぬかるませ、夜の闇を引き裂く稲妻が周囲を真昼のように照らし出す。
「御当主様!」
自分を呼ぶ家人の声に鏡家の当主、長柄は書物から顔を上げた。
「そんなに慌てて何事だ」
立ち上がった鏡家の当主、長柄は障子を開けると、廊下に出た。
そして目を見開く。
「これはいかがしたっ!」
家人が抱えているのは、十歳の愛娘の雨月だった。
雨月は家人の腕の中で苦しそうに息を喘がせる。
「おい、雨月。目を開けなさい。雨月……」
長柄は優しく頬を叩くが、苦しげな息遣いがこぼれるばかりで反応を示してはくれない。
「何かあった!?」
「じ、実は……一昨日、運び込まれた隣村の村長の息子の部屋で倒れておりました」
「何故っ」
「わ、分かりません」
「誰も見ていなかったのかっ」
すると、別の家人が息を切らして駆け込んでくる。
「御当主様、大変でございます!」
「大変なのは、こっちだっ。用事ならば後で聞く。娘が大変なんだ。とりあえず、私の部屋へ……」
「患者が目を覚ましたのです! 昨日まであったはずの発疹が綺麗になくなって、顔色も……」
「何だと? そんなことあるはずがない。あれはもう手遅れだ。治癒術ではどうにもならないほど、死に見入られ、手遅れだったのだぞ!」
「しかし本当なのです……」
「と、とにかく娘を中へ。村長の息子からは目を離すな。あとで儂が見に行く」
(一体何が起こっている?)
最早手遅れの患者と同じ部屋で倒れていた娘。
手遅れにもかかわらず、突然回復した患者。
(まさか雨月が? いや、そんなはずがない。雨月はそもそも治癒術士として目覚めていない……)
もし仮に今この瞬間、目覚めたのだとしても、長柄に治せぬものを治せるはずがない。
そもそもここまで苦しむ理由が分からなかった。
長柄は混乱しながらも、娘へ手をかざす。
両手が輝き、雨月を包み込む。しかし雨月があいかわらず苦しそうなままだった。
何度治癒術をかけても結果は同じ。
「どういうことだこれは」
不審に思い、長柄は娘の衣を脱がせる。
「!?」
長柄は目にしたものを前に、絶句した。
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