地味で下位の弱小魔女ですが、最強の魔法騎士様が護衛(監視役)をして下さるそうです~憧れの騎士様が物騒だった上に無自覚独占欲で振り回してくる件について
千賀春里
第1話 厚底眼鏡
「ふう。終わった~」
リゼナ・アッシュフォードは仕事机に突っ伏し、息を吐く。
眼鏡が壊れるといけないので外すことも忘れない。
分厚いレンズが二枚並んだ眼鏡が机に置かれ、窓から差し込んだ光がレンズに反射してきらりと光る。
アンバード国の王都シェンペスにそびえ立つ王城、マシェリアで事務官として働くリゼナは書類仕事を専門とする誓約の魔女だ。
リゼナが製作する誓約書には強い魔法的効力があり、誓約が簡単に破れないようになっている。
重要な誓約書ほどリゼナの力が必要とされるので、自然と城中の誓約書が集まってくるので忙しい毎日だ。
「今日はもう終わりだし、図書館に行こう」
「えぇ? リゼナ、もう帰るの?」
机に突っ伏したリゼナの呟きを拾い上げてわざとらしく驚いた声を上げるのは同僚のグレイ・ソールだ。
「終わったんなら、俺のも手伝ってよ」
お願い! と両手を合わせて懇願してくるグレイの声を無視してリゼナ眼鏡をかけ直した。
「リゼナ、頼むよ!」
荷物をまとめ始めたリゼナにグレイは言う。
「今日は用事もあるから無理。それに、その仕事は急ぎじゃないんでしょ?」
「そうだけどさ、リゼナが手伝ってくれたら助かるなあって」
「急ぎなら手伝うけどそうじゃないなら今日は無理なの」
断ると「ちぇ」とグレイが唇を尖らせて、席をを離れて行く。
離れたところで「今日の合コンはパスだわ」と言うグレイに対して非難の声を上げる同僚達の声が聞こえてくる。
どうやらどこかの部署と合コンを開くらしく、グレイはそれに参加する予定だったようだ。
合コンに間に合うように仕事を手伝ってもらいたかったのだろう。
もちろん、リゼナは呼ばれていない。
まぁ、当然よね。
ウェーブのかかった黒くて長い髪は二つの三つ編み、顔が分からないくらい分厚いレンズの眼鏡、化粧もしていない顔は同世代の女性と比べるとあまりにも地味に映る。
「デートなんじゃない?」
「え~? 有り得ないって。だってあの子よ?」
揶揄するような発言はリゼナに向けられていた。
「あんな厚底眼鏡と誰がデートするのよ」
「俺だったら絶対ごめんだね」
嘲笑されるのもいつものことなのでリゼナはこれと言って悔しい気持ちにもならない。
一言言わせてもらえれば、私だってあんた達みたいな人達は願い下げってことぐらい。
自分の業務も満足にこなせず、遊ぶことばかり考えて、都合の良い時だけ私に頼ろうとするところが大嫌い。
「いやいや、もしかしたら眼鏡外したら超美人かもしれないじゃん」
そう言ってリゼナをフォローしようとするのはグレイだ。
「有り得ないって!」
グレイの言葉は一蹴され、賑やかな笑い声だけが響いていた。
こういうやり取りを聞くのも初めてではないし、最初こそショックもあったが、自分を鏡で見ればそう言われるのも当然な気がするので自分で納得した。
何を言われてもいいの。本があれば。
この分厚いレンズの眼鏡も、大好きな本を読み過ぎた代償だ。
いわば本好きの勲章と言っても過言ではない。
最近はレンズが重すぎて鼻の上が疲れるし、いちいち眼鏡をかける動作がなければ年間でどれだけ本を読む時間が増えるのだろうかと思い始め、かつての視力が恋しいことには違いない。
魔法眼科で視力回復の治療を受けたいが保険適用外なので費用は高額になる。
ちょっとずつお金を溜めて、いつかは治療をしたいと思うものの、溜めようとしていたお金は全て本で消えてしまう。
誰かタダで治療を受けさせてくれないかしら。
しかし、そんな都合の良いことはないとは充分理解していた。
リゼナは立ち上がり、荷物を持った。
おしゃべりに花を咲かせる同僚達の前を通り過ぎ、軽い足取りで職場を後にして憩いの場へと足を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。