別れの日に、この街ではサクラが咲かない

りりぃこ

現在

 卒業式の日だっていうのに大吹雪で、でもそれはこの街ではよくある事で。


 そんな真っ白な横殴りの雪が降りしきる中、サクラは待ち合わせ場所に、見失ってしまいそうな真っ白なロングコートでやってきた。

 私はサクラを見て言葉を失った。一切染めたことのない黒いショートカットだったサクラが、派手な金色のロングヘアになって、生まれながらの美白の肌にはバッチリメイクを左官されており。それはもうザ・ギャル、そのものだった。

 予約していた居酒屋に入ってコートを脱いだサクラを見て、私は更に息を呑んだ。

 いつも地味な服を着ていたサクラはいなかった。

 可愛いピンクのフワフワのセーターは丈が短く臍が見えていて、その臍にはピンクのピアスがついていた。網タイツを装着した脚を勢いよく出したマイクロミニスカートは、派手な赤色をしている。

「やば」

 一言目に語彙力のない感想が漏れ出した。

 サクラは照れくさそうに笑う。

「似合う?」

「似合う!え、髪は?ウイッグ?」

「エクステしてもらった」

「メイクもすごいね。カラコン入ってる?」

「入ってる。睫毛も増やしてる」

「別人じゃん!」

「頑張っちゃいました」

 そう笑いながらサクラはメニューを開いた。

 すぐに御通しと頼んだカクテルが届いて、私達はチン、と乾杯した。

 サクラは一口カクテルを飲んで、グラスについた赤い口紅の跡をじっと見つめた。

「こんなに口紅ってグラスにつくの?」

「あんまりつかないのも売ってるよ。ついたら親指で軽く拭えばいいんだよ」

 私が実演してみると、サクラも真似する。

「ふうん。結構面倒なんだ」

「そうだよー、面倒なんだよー」

 私の言葉に、サクラはツケマツゲをバサバサさせながら笑った。ツケマツゲはサクラの顔に少し浮いていた。つけなくてもサクラの目はきれいなのに。むしろつけない方が、サクラの綺麗な瞳がよく見えて私は好きなのに。

 まあでも私の趣味なんか関係ない。だってこれは、サクラがしたかった格好なんだから。

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