ローデリアダンジョン③ ~新スキル~
◇
「はぁはぁ! むかつきすぎて冷静になってきた。もうぶっ殺すしかないかな」
「よくも尻尾掴んで投げ技までしてくれましたね。いいでしょう、エルフの黒焼きでも作ってみましょうか」
フィオとシルメリアの喧嘩は、殴り合いの蹴とばしあいにまで発展していた。
フィオが弓を、シルメリアが杖を構えた時点でピンと張り詰めた空気が……
「くっだらない。なんかもう疲れた」
「それはこっちの台詞です」
なぜか、そうなぜか二人は弓と杖を互いに放り投げてから、レイジの両隣へとやってきてくっついて寝転んだ。
「ちょっとなんでレイジにくっつくのよ」
「そちらこそエルフ臭くなるから離れてください」
「「……」」
「はぁ、むかついてた理由はいくつもあるけど、一番腹立ってるのはね、自分自身よ。あんなミスして、あの程度の連携もできないで、しかも未だにマルチショットが撃てない私が情けなくて悔しい」
「あら、私も自分自身が一番むかつきます。あの程度で詠唱ミスしてしまったり、貫通属性でピンポイントに敵を狙うペネトレイトができない。情けなくて死にたくなるほどよ」
「「……」」
「もしかして、ペネトレイトってさ、収束させて凝縮させて貫こうって集中して魔力練ったりするの?」
「当たり前じゃない、他にどういう念で魔力を練るのよ」
「魔法矢の ペネトレイトっていうか、ストライクアローは、先っちょを尖れ、尖れ、って魔力込めるよ」
「え? それだけ?」
「うん」
さっと立ち上がったシルメリアは、ストーンバレットという土魔法初期呪文を発動させる。
「ペネトレイトマジック ストーンバレット!」
タダの石ころに見えていたストーンバレットの石弾であったが、みるみる回転するドリル状へと変貌し、的になっていた壊れた木盾をいともたやすく貫通したのだった。
「すごい、これでよかったのね。難しく考えすぎていた……」
「すごいじゃんシルちゃん! ……シルメリア」
一緒になって喜んだ後、気まずくなって頬を赤らめるフィオを見ていたシルメリアは、ふっと微笑むとフィオの隣に立った。
「魔法矢でマルチショットを狙う時って、もしかして全矢を当てようとして無理やり制御したりしてない?」
「何言ってんの、当たり前じゃない」
「だからだめなのよ。魔法矢はターゲット認定した時点で自動追尾が発動するんだから、こいつにするって意識して放てばいいのよ。4,5本全部命中する必要だってないじゃない」
「た、たしかに。えっと……」
フィオは弓を構えると、転がっていた木盾やゴミをターゲットにすると、コントロールを意識しすぎずに力を抜いて放つことにした。
3つほどのターゲット全てに追尾機能が働いたマルチショットが命中。
「すごい、本当にできた!」
「すごいわ フィオ! ……フィオさん」
罰が悪そうに項垂れる二人。
「一番謝らなきゃいけないのって、レイジにだよね」
「そう、です。そうでした」
・
・
・
どうやら仲直りだけじゃなく、パワーアップまでできたみたいで何より。
いつ起きるかタイミングをはかっていると、なぜか二人がまた両隣でくっついてくる。
というよりも、密着に近い。
「ねえフィオ……ごめんなさい」
「ううん、こっちこそごめんねシルちゃん」
「この件だけは、ライバル……かな」
「負けたくないなフィオ」
(こいつらは何を言っているんだ?)
「もしものときはさ、あの二人ともってのはあり?」
「……あり、かも」
「「うふふふふふ」」
(急に仲良くなってるし、女ってわかんねぇ……って俺いつ起きればいいんだろう……)
そうこう迷っているうちに、両隣では寝息が聞こえてくる。
さすがにこの状況は想定外。
しかも、フィオとシルメリアというかなりの美少女。
あまり深くは触れてこなかったものの、ギルドで依頼を受けたり食事をしている時など、彼女たちを引っかけようと多くの男たちが言い寄ってきてはにべもなく断られている場面を多く目撃してきた。
また、二人の美少女を侍らせていると言って絡まれたりもして、実際のところ面倒事には事欠かなかったりもする。
二人に視線を移すと、鼓動が早くなるのを抑えきれない。
両腕に当たる、その柔らかい膨らみが……
寄り添うフィととシルメリアの体温が妙に心地が良い。肉感的なドキドキもだが、穏やかな優しい気持ちが沸き起こっているようで、いつの間にか俺も再び眠りに落ちてしまった。
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