ローデリアダンジョン② ~諍い~

 シルメリアがマップナビ担当しフィオが気配を察知し、敵をやりすごしていく。

 だがそれでも避けられぬ戦いはあるもので、正面からオークの集団が迫っていることが判明。


 オークファイターがその装備をガチャガチャならしながら5匹の群れでやってくる。

 「戦うしかないな、まずは二人で数を減らしてくれ。その後俺が切り込む」

「わかったわ!」

「了解です」


 「炎の精霊よ、炎の矢となって顕現せよ! フレイムシュート!」

 「燃え盛れ炎よ アルグレアム イグラニス フォル ヴァンベラーム、 ファイヤーボール!」


 俺たちに気付いたオークたちが距離を詰めてくる。

 3列になって襲ってくるのはオークファイター、オークが一匹ずつ。


 ファイターを仕留めてくれると助かると思いながら鬼凛丸を抜き、斬り込む準備をしていると俺の想像とは違った結果になっていた。


 初速のあるフィオのフレイムシュートが右端のオークへ。腹部を射貫かれて前のめりに倒れつつ、傷口から広がった炎に包まれていたところへ、とどめとばかりにシルメリアのファイヤーボールが炸裂した。


 連係ミスによるオーバーキルだった。


 オークファイターを倒すか足止めしている間に、俺がオークを切り伏せ数を減らせればベスト。


 だが、右端のオークだけ仕留めることになってしまい、結果的にオークファイターとオークの2匹を相手にすることになってしまった。


 だが二人を責めたり、文句を言っている時間もないし言うつもりもない。

 ならばと、力強く踏み込んだ俺は正面からオークファイターへと斬りかかった。


 オークファイタが両手斧を叩きつけてくるのを足さばきでかわし、そのままがら空きになった胴を薙ぐ。


 オークファイターの身に着けていた板金鎧をまるでバターのように切り裂いた鬼凛丸。


 上半身がこれでもかというばかりに宙で回転しながら、べちゃりと床に落ちるとき、もう一匹のオークの肩と腹部に矢が突き刺さる。


 フィオの援護だった。これは助かると斬りかかろうとしたとき、左腕に電気が走ったような感覚が生じる。

 ぐっと踏みとどまって無意識に刀が何かを弾いた。

 頬や手が熱い。

 オークメイジの放ったファイヤ―ボルトの魔法だった。


 気を流し込んでいる鬼凛丸だからこそ、魔法を弾けたのだが、それが理解できなかったのかオークメイジがぎょっとなっている隙に、俺は矢が刺さり呻いているオークの頭を斬り飛ばす。


 「レイジ、壁によって!」


 シルメリアの指示に従い、俺は左端の壁に体を寄せる。


 そこに彼女の放ったアイスランスが距離を詰めていたもう一匹のオークファイターの腹部を貫いた、かに見えた。


 だが、フィオの放ったフレイムシュートとアイスランスが、オークファイターの目の前で衝突してしまうという珍事が発生。


 「うそ!」

「ちょっと何してるんですか!」


 連係が乱れているのは疲労のせいか、根本的な行き違いがあるのか?

 苛立ったりはしないが、これは流れが良くない。


 俺はアイスランスの破片で一匹が重傷を負っていることを認識すると、オークメイジを仕留めるべく一気に距離を詰めた。


 狙いすましたかのようなウインドカッターの呪文が俺に向けて放たれた。


 刀で弾くも、呪文の性質上かまいたちにも似た切れ味の真空の刃が俺の太ももと頬を傷付ける。

 「痛みに慣れてんだよ!」


 俺はオークメイジの鼻先にまで肉薄すると脳天から一刀両断。

 返す刀でメイスを振り下ろそうとしていた最後の一匹に、左わき腹から右肩口にかけてを両断。


 刃が肉に吸い込まれる感覚すら微妙なほどの切れ味。


 呼吸が乱れて気の巡りがやや滞ってさえこれだ。


 俺は数歩飛び下がって敵の増援やら生き残りの気配を確かめてから、ようやく鬼凛丸を鞘に納める。


 さて、これからが大変だ。


 さっそくだが、フィオとシルメリアが口論を始めていた。


 「私のほうが詠唱を始めるのが早いのだから、どういう呪文かどうかあなたぐらいの腕なら分かって当然でしょ? しかもどうしてターゲットをかぶらせるなんて真似をしたのですか?」


 丁寧な口調ではあるが、内容は容赦がない。


「ボクが先に狙った相手にターゲットをかぶせてきたのはそっちでしょ? 自分のミスを棚に上げないでもらえる? 構えの射角で方向すら予測できないの!?」

 

 フィオもフィオでかなりご立腹の様子だが……


 ダンジョンの戦闘エリアでこの口論は色々とまずい。


 「ダンジョンにはセーフエリアが存在したはずだな? フィオはルートナビ、シルメリアは警戒、それ以外はするな」


 「わ、わかった」

「りょ、了解です」


 二人ともさすがにこの状況がまずいと理解したのか、俺の提案に素直に従った。


 途中巡回していたオーク二匹を切り伏せ、俺たち3人はなんとかセーフエリアと呼ばれる結界が敷設された部屋に辿り着くことができた。


 そこは多くの人が利用しているらしく、休憩用に簡易的なシートが敷かれていたりタオルが干してあったりと人が過ごしていた気配が残っている。


 俺は装備を置くと、さすがに疲労を感じたためそのままバッグを枕に横になる。

 二人にはあえて何も言う必要はないだろう。


 喧嘩の原因はなんとなく分かるが、俺がどちらかの味方をしてしまうほうが問題だと思う。

 数分もすると俺は眠りに落ちていた。


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