第134話 3年後

ヒノマルサイクツが独立させられてから3年の月日が流れ、その間にヒノマルサイクツは北へ大きく領土を拡張した。レプリコンが必死に戦って北のアイヴァン共和国の領域を削り、自分達がそのレプリコンの領域を貰うだけだったのでヒノマルサイクツにおいて、戦闘は発生していない。


この間にパラディ社とラドン連邦が白紙和平を結び、どちらかと言えばパラディ社側が領土を渡す形で平和となった。元々はラドン連邦が始めた懲罰戦争みたいなものだから絶対終わらない戦争だと思っていたらあっさり終わったので、どちらもヒノマルサイクツを警戒してそうな感じ。


平和とは、戦争と戦争の間の準備期間であるという言葉がぴったりなぐらいには、たぶんどこも次の戦争について考えていたと思う。そしてとうとう、ラドン連邦の選挙においてラドン人民党が過半数の議席を確保出来ず、テラニド人民党や再分配党が大きく躍進し、特にテラニド人民党は前回の2割強から3割強の議席となった。50人ぐらい増えたのか。


再分配党も前回の5議席から31議席と躍進。6%も支持を得たと考えるととんでもないことだな。そしてこの選挙の結果、何をやるにしても過半数の賛成が必要なラドン連邦は、国としての動きが鈍重化する。


『……ゲートウェイの複製のための資材が集まり切らないですね』

「ある程度集まった段階で見切り発車して良いと思うけど建設途中の不安定な状態が一番危ないんだっけ?」

『別の宇宙と接続する可能性もありますから、一気に作り上げたいです』

「……あれ、ゲートウェイで別の宇宙と繋がるの?」

『あくまで可能性がある、という段階です』


レイは代替脳を増やし、代替脳100%の時でもレイとしての自意識というものを持っている状態となった。……生身の時の脳が完全に寝ている時でも、代替脳だけで行動出来ているのでそろそろ完全な切り替えも行うそうだ。


生身の方の脳は、結局3年しか持たなかった。なんか液中に浮かんでいる脳が若干白っぽくなってるけどカビが生えているわけじゃなくて、脳細胞が死ぬことによる機能低下が起きているようだ。


……脳細胞が次々と死んでいくなら手の打ちようもないというか、むしろよく保っている方らしい。レイ自身としての心境は複雑らしいけど、機械の身体に入り込んで動かすことも出来るようになったので不自由はないと言っていた。


やろうと思えば100人でも200人でも機械の身体を動かせるため、移乗攻撃部隊自体はレイ1人で事足りるように。第一艦隊から第四艦隊まで再生巨大戦艦1、空母2、戦艦4、巡洋艦16、駆逐艦108隻で揃えたのでもうこれ以上拿捕する必要性も少なくなったけど。


「……結局、自分は自分の我儘で戦争始めたいんだなって最近になって気付いたわ」

「……どういう欲求?」

「こうやってずらっと並んだ自分の艦隊というのを、飾るだけで済ませたくないんだよ。思えばエルダープライズを手に入れた辺りからラドン連邦との戦争を望むようになったなって」

「まあ持ってても使わなかったら宝の持ち腐れだからね……。それで喧嘩を売られる方はたまったものじゃないけど」


冷静に、自分が何でこんなにラドン連邦と戦争をしたいか考えた結果、言い訳に使えそうな理由自体は何個もあった。自分の組織をひたすら大きくしたいだとか、話し合いで平和が続くわけないとか、技術を進めるために銀河統一するべきだとか。


でもたぶん、本音はそうじゃない。銀河制覇の野望がないと言えば嘘になるけど……恐らく自分は中型採掘船の数を増やして自分の艦隊というものを持った段階で、自分の艦隊が大きくなることへの満足感や充足感を知り、それを追い求めるようになった。


それをひたすら大きくしていき、国相手にも戦えるような規模になった段階で、自分はそれを使いたいと思うようになった。……たぶん自分は、力を持ったら使いたくなる性質なのだろう。過去の大きくなった自分がレイを手に入れて飛行機を墜落させるテロを実施出来てしまったのも、自分がこういう性分だったからかな。


そして今、ほぼ確実にラドン連邦相手に優勢となれるだけの規模の艦隊が揃った。……軍艦とか戦車とか、戦力は飾るだけで済めばそれが一番良い事なんて自分は理解している。だけどそれでも、使いたい。戦ってみたい。戦ってる姿を見てみたい。


「止めても良いんだぞ。もう自分に価値なんてないし。歴史の修復とやらもレイに任せておけば何とかなるんだし」

「確かに稀人としての力は無くなったというか共有化されたけど、それでアキラの価値が薄れることなんてないでしょ。

マップがなくなった時のために、どれだけ努力していたか知ってるし、マップが共有化された今だから言えるけど、本当によくここまで拡大したよ」

「じゃあまあ、ラドン連邦とやるか」

「たぶん、軍にいる全員はその言葉を待ってたと思うよ。」


フィアと数言交わし、軍に対して戦争状態に入ることを予告しておく。……恐らく、全銀河の敵になるんだろうなあ。

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