第85話 元宙賊

ネルサイド協定を吸収した利点を活かすために、ヒノマルサイクツでの戦闘にも慣れて来たランタンさんを呼び出してステーション内にある機械からレンス星系の地図を引っ張り出す。


「えーと、ここがレンス星系の第1交易ステーションで、ここの居住モジュール部分で宇宙大麻が流行っている状況だな。

そしてここが宇宙大麻の製造を行っているヘラスタ工業の隠れ基地だ」

「……ちょっと待て。隠れ基地がそこにあるのか?」

「ある。

で、この隠れ基地からラドン連邦の哨戒部隊の目を掻い潜ってこの居住モジュールに届けようとしたらどういうルートになる?」

「…………まあこういうルートになるんじゃないか?賄賂が通じているならルートよりも時間帯の方が重要だが」


ネルサイド協定も麻薬売買をやっていた組織だし、民間船から物資を奪うのが生業だった時期もある。だからまあ、このヘラスタ工業という組織から麻薬をカツアゲ、じゃなかった押収するなら元ネルサイド協定の人達が一番だろう。


ただし、ヘラスタ工業の隠している基地が見つかってしまっていると向こうに思われると非常に面倒なので輸送中に襲う計画を立てる。個人的には、2回までは偶然を装って輸送中の大麻を略奪出来るんじゃないかなと考えている。


「1回の輸送で小型輸送船を使うなら容量は3000Pが最大だが、高速輸送が出来るタイプなら2500P程度になる。……相手の護衛艦隊はどの程度の規模だ?」

「それは分からないけど第三戦闘部隊の規模よりかは圧倒的に少ないはずだよ。駆逐艦は1隻しか持ってなかったはずだし、まだ小規模の組織だ。

ということでいってらっしゃい」

「……了解した」


輸送ルートに隠れて張り込みをすれば、マップが無くても待ち伏せは出来るだろう。元々そういうことをやっていた側なんだから頑張れ。これで戦闘部隊ごと逃げ出す、ということもないだろうしな。


「そういう使い方するのね。

第四戦闘部隊は部隊長にニノを据えるつもり?」

「まあ今のところイチカに空母の戦闘機達の統率を頼んでいるし、レイは経験不足だから次点のニノが第四戦闘部隊の隊長かな。

第四戦闘部隊は護衛任務を中心にするつもり」

「……本当に、動かせる戦力が増えたわね。これで戦闘機もどんどん増えているのが恐ろしいわよ」


ステーションの管理人室は今日もアリアーナが働いているけど工場群の方はみんな慣れて来たみたいでトラブルも起きなくなったみたい。ちゃんと各部門の組織を作って長を任命して組織全体を回せるのは有能。


「アリアーナって何人まで管理できる?」

「組織としての話?ちゃんと仕組みが出来上がっているなら何万人だろうが管理するわよ」

「限界はないって認識で良いの?」

「……何か嫌な予感がするけど、何十万人でも一応問題ないわよ」

「じゃあもしもインバー星系手に入れたら、インバー星系の3つの居住可能惑星に住む推定30億人の管理任せて大丈夫?」

「…………そういうのは流石に複数人に分けた方が良いと思うわ?」

「ならアリアーナみたいなのをあと3人ぐらい引き抜きしないといけないのか」

「さっきよりマシになったけどいきなり1人に1惑星丸ごと任せるのがそもそも非常識!

……最終的にはそれで良いのかもしれないけどね」


シンカー解放戦線とのやりとりで、レプリコンの領域を共同で攻める話もあったんだけど出来ればインバー星系まではヒノマルサイクツで抑えたい。居住可能惑星3つというのは大きいし、地上に豪邸持つのも夢物語ではなくなる。……空母内の居住性は高いし、ステーション内も悪くないんだけど地上の方が安心感あるよね。


「……エレーヌ星系の陥落がまだってことはラドン連邦も本気で抵抗してるな」

「こっちの記事で首都星系の戦艦の内2隻を動かしたって書いてあるわよ」

「お、サンキュー。

シンカー解放戦線は戦闘機の少なさがたぶんネックになってるな」


シンカー解放戦線がラドン連邦のエレーヌ星系に攻め込み、ラドン連邦も結構機敏に対応した結果、恐らくエレーヌ星系では地獄のような戦闘が今も継続中っぽい。……あ、ランタンさんの艦隊は巻き込まれないかな?


レンス星系へ行くためには、エレーヌ星系を通過する必要がある。まあ一応両勢力共に敵対関係ではないから大丈夫か。輸送部隊は襲われてないし。ラドン連邦もシンカー解放戦線もこの状況でヒノマルサイクツと完全に敵対出来なさそうだから通過は問題ないと思いたい。


『先ほどラドン連邦の艦隊から流れ弾が飛んで来て駆逐艦のシールドが少し削られた。賠償金として1万クレジットを支払われたから社長に送っておくぞ』

「……おお?流れ弾が当たったら1万クレジット貰えるのか」

「中立の艦隊に流れ弾を当てた場合は、基本的に削ったシールド値×10クレジットが支払われるわね。1万クレジットということは結構削られているわ」

「シールドジェネレーターが無事ならシールドはすぐに再生するのに賠償するんだな。……戦闘宙域に艦隊を置いてたら小銭稼ぎ出来そう」

「流石に邪魔な位置に中立艦隊があったらそもそも攻撃自体しないわよ」


と思っていたら流れ弾が当たったようで1万クレジットが振り込まれていた。……実際に戦闘しているってことは戦力は拮抗してそうだし、こちらとしては長引けば長引くほどシンカー解放戦線が戦闘機を欲しがるだろうからもっと泥沼になって欲しい。

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