第77話 ネルサイド協定③

レプリコンの勢力圏で艦隊を撃破し続け、スクラップをどんどん売ることで何とか日銭を稼ぐネルサイド協定だったが、ランタンはこの状況をヒノマルサイクツが作りだしていることに気付く。


「良いように扱われていたってことかよ……」

「道理でテラニドカンパニーがこれだけのお金を払ってくれるわけです……。最近はレプリコン側の哨戒部隊が多くなってきましたし、そろそろ本隊が来るのでは?」


そのことをランタンがネルサイド協定のトップに話すと、ネルサイド協定は本拠地であるシレーネ星系に艦隊を集結させた。これから先も、レプリコンの艦隊を狩るか否かで激論が起きたからだ。


しかしその最中、レプリコンの大規模艦隊が襲来し、ネルサイド協定は応戦するも星系基地を破壊され、本拠地であるステーションまで完全に機能不全に陥る。ネルサイド協定が保有する戦力もかなり多かったのだが、レプリコンの方が多かった。


「レプリコン側は今だに空母8、戦艦8、巡洋艦46。駆逐艦は100以上が健在か。持ちこたえられる物量ではないと進言したんだがな……」

「せ、戦艦ブルグストンが轟沈しました……。頭取含め全員死亡した模様です」

「チッ、全軍シレーネ星系から撤退だ。パラディ社とシンカー解放戦線が動くだろうからディレーネ星系まで逃げれば追撃はないぞ」


旗艦であり、一番金を費やした戦艦ブルグストンが轟沈するのを目の当たりにしたネルサイド協定のNo2のランタンは舌打ちし、トップが死んだことを確認すると全員でシレーネ星系から脱出する決意を行う。この時点で、組織としてはもう今後成り立たないことをランタンは把握していた。


「これからどうするんですか!?ラドン連邦には国境封鎖を食らってますし、袋小路ですよ!?」

「……ラドン連邦に今から頭を下げたところで受け入れられるのは下っ端だけだろうな。それなら俺は、ヒノマルサイクツの方に頭を下げる」

「なっ、正気ですか!?我々はあいつ等にどれだけの煮え湯を」

「だからだ。ヒノマルサイクツに吸収されるのが嫌な奴はここを脱してラドン連邦に逃げろ。パラディ社やシンカー解放戦線でも良い。……少なくとも、ネルサイド協定という組織は解体させるしかない。テラニドカンパニーへの支払いも滞っているからな」


リーダーが死んだことで、自動的にネルサイド協定の全権を握ることとなったランタンは、改めてネルサイド協定が保有する莫大な借金を見て身売りを決意する。その身売り先に定めたのは、今稼ぎに稼いでいると噂されているヒノマルサイクツだった。


「……元難民達はともかく、俺達の大半は宙賊上がりだ。つまりは、戦闘機乗りとしてそれなりには戦える」

「……だからと言って、我々がこうなった元凶に吸収されるのですか。そもそも相手が受け入れるかも怪しい話です」

「いや、あいつはきっと受け入れる。元宙賊としての手口や技術というのは、ヒノマルサイクツに売り込めるはずだ」

「……ヒノマルサイクツの方がその手の事に詳しかったから我々はこんな目にあっているのでは?」

「……いやまあそれはそうなんだが」


ランタンは元宙賊としての技術や腕が買われるだろうとの判断だったが、ランタンの秘書であるローワンは冷静にヒノマルサイクツの方が詳しいからネルサイド協定が壊滅したんじゃないかと突っ込む。


ランタンがネルサイド協定自体をヒノマルサイクツに売り込むことは徐々にネルサイド協定内に広まり、あんな奴らのところに吸収されるのは嫌だと考えた者達は少なからずネルサイド協定を脱出したが、多くはネルサイド協定内に留まった。もはや仇敵に縋らなくては日々の生活すら成り立っていない状態だったからだ。


「残存戦力は戦艦1隻に、巡洋艦8隻と駆逐艦19隻か。手土産としては十分だ」

「……もはや、ヒノマルサイクツにすら劣る戦力でしょうね。あちらは最新鋭の空母を保有しているようですし、明らかに一企業が保有していい戦力を超えています」


ネルサイド協定の残存戦力は、多いように見えるが大半は損害を受けており、修理しないとまともに戦えない艦船も多かった。そんな中、ランタンの乗る戦艦シュパードだけは損耗がなく、売り飛ばせば20億クレジットは下らない価値があった。


最終的なネルサイド協定の借金額は41憶7000万クレジット。そのことまでヒノマルサイクツに伝え、吸収合併を望んだネルサイド協定。最初、この連絡を受けたアリアーナは事務的に応答していたが、内心では吸収なんてありえないと思っていた。


「……あれこれ赤字額を補填すれば戦艦貰えるってだけでも大きくね?戦闘機乗りは大量に欲しかったし吸収して良いだろ」


なお、アリアーナの上司は吸収合併について軽く考えており、戦艦と戦闘機乗り目当てでネルサイド協定を受け入れた。その後、ネルサイド協定が保有する三星系について、一番高くで売れる勢力に売るような指示がアリアーナに出され、彼女は頭を抱えることになったという。

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