第60話 宇宙生物

ステーションが完成を迎え、いよいよ本格的にステーションの運営に乗り出そうとした丁度その時、空母内で事件が起こる。いや事件というほどではないけど。それでもヒノマルサイクツの上層部全員が集まったから一応事件。


……シルフィの持ち込んでいた宇宙生物の卵が孵化しようとしているのだ。確かシルフィはペットを飼いたいとか言ってたけど、既に候補が居た模様。もう卵の殻にヒビが入っており、中で何かが蠢いていることが分かる。


「……いやまあ生物を飼っても良いとは言ったけど元から卵持ってるとは思わないじゃん。ずっと戦闘機の中で育ててたんだ?」

「育てていたというより、保温カプセルの中に入れて放置していたです」


冒険者達が宇宙怪獣を狩っている、みたいなことは聞いていたから宇宙空間でも生きる生物みたいなのはいるんだろうなあと思っていたけど、こんな身近にいるとは思わなかった。どうやら冒険者時代から地道にカプセルで熱を与え続けていたようだ。


「……もしかして、あの時の?」

「そうです。フィアお姉さまと2人で竜を狩った時のです」

「え、ちょっと待って。これ今からドラゴンが生まれるの?」

「違うよ。竜に食べられていた方の卵。……竜で大人しい奴は稀だし竜は基本飼えないよ」


シルフィとフィアの会話を聞いて、2人の冒険者時代の話に俄然興味が湧いたが、そろそろ卵が割れそう。何か触角みたいなのが出て来たし、もうすぐだ。……直径は30センチぐらいの硬い卵なんだけど、これが将来的には全長300メートルぐらいになる宇宙生物の卵とは思えない。


そして殻を破って出て来たのは……海老?いや違う、赤いダンゴ虫……じゃなくて赤いグソクムシか。何か全体的に硬そうな印象だけど生まれたての時点で結構なデカさだ。ちょっと気持ち悪くてのけぞったよ。


「あらあら、テドムシですか。可愛いですね。

賢い子なので将来は戦闘機を守れるようになると思いますよ」

「……常識が追い付かないんだけどこれが全長300メートルサイズになるってマジ?」

「大きい個体だと500メートルぐらいにはなるです。

名前はテドドンにするです」


シルフィが卵から産まれたエビっぽい生物を抱きかかえるけど自分は抱っこを遠慮したい気分。というか自分がおかしいのかと思っていたらアリアーナもちょっと引いているのでこれが可愛いかは個人による。少なくとも自分は可愛いとは思えなかった。でも美少女が抱きかかえるとそれが虫でも絵になるなあ。


「テドムシ?」

「この宇宙生物の種族名だね。テドムシの特徴としては岩石を食べること、身体が大きくなれば硬い鉱石でも食べられること。知性があって飼い主の言う事を理解出来ること。……非常に頑丈で、成体はミサイル数発じゃ死なないこと。戦闘機に突っ込んで行って戦闘機を食べることが出来るようにもなるよ」

「ええ……。まずこいつ戦闘機に追い付けるのか……?

というか竜はそんな頑丈なものを食べるのか」

「竜はテドムシを食べない種族もいるけど、基本丸呑みにするね。消化は出来るんじゃない?」


シルフィとフィアは冒険者時代、宇宙怪獣の一種である竜の討伐に行った時、たまたまテドムシの成体を食事している最中の竜に遭遇し、竜を倒したら現場に卵が残っていたから持って帰ったらしい。一応それなりの高値で売れるため、フィアは売ったと思っていたみたいだけどシルフィは育てていたってことか。


「そんなに頑丈なら艦隊戦とかでも活躍できるか?」

「軍で活用している国もあるって聞いたことはあるけど……1匹だけだとどうだろう?」

「テラニドカンパニーの西、サイゴート共和国だと宇宙生物の軍が珍しくないわよ。ラドン連邦やテラニドカンパニーだとコストの問題で見送っているようだけど」

「テドドンはうちの部隊で飼うです。戦闘の時も一緒に戦うです」


シルフィはわりと宇宙生物と一緒に戦うことに憧れていたようで、テドドンと名付けた巨大グソクムシ相手に卵の殻を与えている。そしてその卵の殻をバリバリ食べるテドドン。あの殻滅茶苦茶硬かったと思うんだけど食べられる辺りは流石だな。


……真空状態でも生きることが可能な上、熱にも強いらしいし凄い生き物だな。クマムシが進化し続けたらこうなるのだろうか。宇宙空間を結構な速度で泳ぐそうだし、戦闘面にも期待できるのかな。


そしてテドドンを部下達に披露するシルフィと、それを見て逃げたりドン引きしたりする第一戦闘部隊の面子。良かったシルフィの方が少数側だったわ。でも可愛がる面子も決して少なくないし……しばらくは空母の中で飼うことになるんだろうなあ。


自分もちょいちょいと頭の部分を触ってみたが、生まれたばかりにも関わらず既にコイツかなり硬いな。ここから急成長するのであれば、この硬い甲羅みたいなのがどんどん大きくなるということか?


そう思って成体の写真を見せて貰うと硬い甲羅が数千数万はあるような感じの巨大なグソクムシを見せられた。ちょっと虫への耐性がないので寒気もしたけど、戦闘機と比較しても大きいサイズになるなら戦闘時には頼もしい存在になりそうだ。

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