第35話 イントール星系

自分が居ない時の採掘での稼ぎというのを把握したかったため、採掘隊に特に採掘ポイントも指定せずに採掘頑張れと伝え、2つの戦闘隊を4つの採掘隊の護衛に付け、残りのメンバーでイントール星系の孤児院を訪問。何かあったらシルフィから連絡入るようになっているけど、シルフィとイザベラさんが残ってるなら何があっても大丈夫でしょ。あの2人は駆逐艦に乗ってるし。


まあ大規模な艦隊にまで成長した上、ラドン連邦の戦争相手となったネルサイド協定から名指しでマークされているから護衛はあった方が良い。そうでなくても最近宙賊が増えて来て物騒な世の中になったし。……一番物騒なことをしているのたぶん自分達だけど。


「結構大きい惑星だな。……そんでもって、身体が重い」

「交易ステーションや宇宙船の中で発生させている重力の約1.28倍だから多少は動きづらいけど……そんな風になるって軟弱過ぎない?」

「いやなんかずっとエレベーターで上昇し続けているぐらいの負荷かかってるし……人間は結構辛いぞこれ」


イントール星系には居住可能惑星が2つあり、フィアが契約している孤児院があるのは2つ目の方だからイントールⅡという惑星になる。巨大な孤児院が複数あるけど別にこれが主要産業というわけでもなく、軍事産業が盛んな惑星らしい。


前にセンイチちゃん達に買って上げたパワーアーマーとかはこの惑星で作られているね。あと数十億人が住む惑星だから、軍事産業だけではなく色んな企業が犇めいている。食料自給率も200%を優に超えているから高いけど、特にこの惑星は培養肉の生産が盛んなのかな。培養肉の工場地帯が複数あるや。


そしていつもお世話になっている孤児院へ向かうと、そこにはまだ小さな獣人達がその身に合わない巨大な電子銃やパワーアーマーを身に着けて崖を登ったり電子銃を撃ち合っていたりする光景が広がる。なんだこの地獄絵図は。


というか普通に出血して倒れている子もいるんだけどこの世界の孤児院物騒過ぎない?あ、教官っぽい人もいる。なんか女性なのにめっちゃ筋肉隆々でごつい人だ。


「落石!」


その教官っぽい人が拡声器を持って一言言うと、武装している獣人の子達が崖上にも現れて石というか岩を落とし、崖を登っている子達はそれを避けるけどたまに当たって落下する。……岩に押しつぶされながら10メートルぐらい落下したけどあれで生きてるってマジ?というか絶対必要ない訓練だろこれ。


「まだここを出て2ヵ月しか経っていないけど懐かしいよ。僕はシミュレーター組だったからここまでの訓練はあまりしたことなかったけど」

「私も既に懐かしいです。あ、6678番がまだいますね。あれはたぶん私達の次に優秀ですよ」


訓練を見て懐かしむサンディとセンイチちゃん。これが日常とか獣人の孤児院が怖すぎるんだけど孤児院卒業までの死亡率は0.1%以下らしいのでたぶん1万人に10人も死んでないんだろうな。というか病死や事故死とかも含めたら訓練での死亡はほぼ0じゃないか。


「お疲れさまー。テスミィーまた来たよー」

「フィア!約束の時間より随分と早いじゃないか。

……そこでぐったりしている男が例の稀人か?」

「そうだよ。重力に勝てなかったみたい」

「……そんなにステーションと差はないだろう?本当に大丈夫なのか?」

「まあ肉体面は間違いなく劣だけど既に大規模な艦隊まで持ってるし、あれだけ雇ってまだ人手不足だから企業としての成長速度は察して欲しいかな」


訓練が一段落したタイミングで、あの怖い教官にフィアが話しかけに行くけどあれが孤児院の責任者でもあるようで結構仲も良いみたい。知り合いが孤児院の経営をしていたから、スムーズに孤児を雇えたのかな。


あ、救護班みたいなのが出て来て血を流しながら倒れている子の看護もし始めた。……軍人になるための教育をしているとは聞いてたけど、これもう軍人の訓練だろ。


無理やりこんなことやらされる孤児側も可哀想だなと思ったら、どうやらあれは全員志願して地上軍に入ろうとしている子達みたい。……宇宙船乗りの道や、科学者の道を進む人もいるみたいだから全員が全員あのレベルの訓練はしていない模様。


あと進路の中には母体というものもある。……この孤児院の基本方針は「減ったら増やせ」であり、孤児院を卒業せずに管理側に回ると同時に、子供を産むだけの人になるのも多いとか。


「孤児が子供を産んで、ここで育てるならもうその子供は孤児ではないような気がするんだけど……」

「母体になる場合は年に1回、一生で20回は出産するからまともに育児は出来ないよ。結果的には孤児とあまり変わらないかな」

「……えー、そんなにいっぱい子供を増やすメリットある?」

「母星から優秀な子種を買っているから優秀な子供が生まれやすいし、男が生まれたらすぐに母星へ出荷されて大金が入るからそれなりにメリットは多いよ。優秀な子供は沢山稼いで、孤児院にも還元をしてくれるし」


フィアにこの孤児院の仕組みについて聞くけど職業:母体……というか、職業:出産係があるのは言葉に出来ない怖さを感じる。出産の痛みや危険は皆無な世界だし、それが生きるための職になるのであれば自分はそれでも良いとは思うけど……はっきり自分と価値観が違うのは感じ取れた。


いや、本人納得済みでも自分が子供を産み続ける存在になるのを受け入れられるのは狂ってないか?……でも、生物的にも正しい事ではあるし、この世界の獣人の考え方的にも合致しているんだから文句や批判を言うのはお門違いだな。

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