第9話 稀人の価値

「なるほど……稀人の男を捕まえるとは流石フィアお姉さまです」

「でしょ?今は一緒に採掘してるんだけど冒険者時代以上に稼げているよ」

「それは凄いです!」


フィアさんがわざわざ自分の部屋まで押し掛けたのはシルフィさんに自分の経緯と特殊能力について説明するためだった。フィアさんと初めて会った時は、そういえば周囲に人は居なかったな。今回は交易ステーション内でも目立つ場所だったし、極力自分が稀人であることを隠す方がフィアさんにとっては都合が良さそう?


「……フィアって採掘やる前は冒険者やってたの?」

「うん。3年ぐらい冒険者やってから、採掘を始めた感じ」

「今何歳なの?」

「こいつ、女性に年齢を聞くとは不敬です」

「18歳だよ。獣人は若く見られがちだから仕方ない質問だけど、女性の年齢を聞くのはマナー違反だよ」


フィアさんは冒険者をやっていたこともあるみたいで、その時にシルフィさんと知り合ったとのこと。獣人同士、惹かれ合うものもあったみたい。……義務教育が10歳までで終了して、11歳からは働ける社会なんだよなこの世界。そしてこの世界でも女性に年齢を尋ねるのはあまりよくない事っぽい。


「あらためて紹介するけど、彼女が冒険者時代に私と艦隊を組んでいたシルフィ。たった5年で階級が伍長まで上がった稀有な冒険者だね」

「1年に1つしか上がらないから今のところは最速で昇進しているのです」

「おお、じゃあ凄く強いんだ」

「……さっきの戦闘で見たと思うけど、高機動高火力のエクリプスに乗って一気に宙賊を葬り去るのがシルフィの基本スタイルだね」


シルフィさんの乗っている戦闘機は小型戦闘機の中でも非常に強いエクリプスという名前の戦闘機らしいけどめっちゃ早そうな馬の名前をしている。実際直線の動きは超早いそうだけど、問題なのは姿勢制御の方。


自分もよく見ていたわけじゃないけど、エクリプスという機体には両翼にスラスターが付いており、その両翼を別々に、360度回転させて上下の移動や、機体の回転を可能にしている変態仕様とのこと。翼の両翼が車のタイヤみたいにグルグル回転していて、都度都度ブーストさせることで通常ではあり得ない動きも可能だとか。


まあ要するに直進のスピードが早いのに変態機動も可能な機体で、それを十全に扱えるからシルフィさんは強いと。飛び級こそ出来なかったものの、5年で伍長まで階級が上がっているのは普通にヤベー人らしい。


「それで提案なんだけど、私達これから凄く稼ぐことになりそうだしフィアも専属の護衛として、一緒に艦隊を組まない?」

「フィアお姉さまの依頼であれば断りませんけど……そんなに稼げるんです?」

「アキラは僅か1週間の保護期間で、35万クレジットも稼いだ。その上、稀人なんだからついて行かない方が損だよ」

「いやその……稀人だからっていうのを辞めて欲しいんだけど」」


フィアさんはシルフィさんを専属の護衛として雇いたいたいそうだけど、伍長の冒険者って1日どれぐらい稼ぐんだろう。今日なんか宙賊を狩って、全部鹵獲出来ていれば20万クレジットに加え、宙賊1隻辺りの賞金が出るから大体25万クレジット近い額にはなったはず。


「少し一緒に作業して分かったけど、本当にそのネガティブなところ治した方が自分のためだと思うよ?」

「いやそれは分かっているんだけどさ。まるで大物確定みたいな扱いされるの嫌なんだよ」

「でもアキラは少なくとも採掘で稼ぎ続けられるでしょ?言っておくけど、アキラが自分のことを大したことないと言った瞬間に、この宇宙の全採掘人は大したことのない存在になるんだからもっと自信を持ってよ」

「それは……そうなるのか」


そしてフィアさんからもっと自信を持てと言われるけどこの世界、謙虚というのはマイナスの特性らしい。というかちょっと怒られた。……たぶん、今のフィアさんの言葉にはフィアさん自身の感情も籠っていると思う。同じ仕事をして1週間の稼ぎに、1ヵ月の稼ぎが負けたら気分的には凄く良くない。自分だったら確実に嫉妬している。


でもそれを呑み込んで、艦隊を組もうと誘ってくれたんだから強い女性だ。例えそれがお金目的であっても、ぼっち脱却して色々と情報を得られた身としてはとてもありがたい。もうちょっと、自分に自信は持つようにしよう。例え借り物の力でも、それで謙遜するのは同業者に対して失礼だと自分も思ったし。


「分かったけど、それなら期待をしているのは採掘人として、にして欲しい。稀人ってことをあまり知られたくもなくなってきたし」

「でも資源の場所分かるのは稀人だからでしょ……?まあ、今ちょっとマシな顔になったから安心したよ。これでまだうじうじ言うようならお尻蹴ってたし」

「獣人の力で蹴られたら骨折れるから勘弁して下さい」


ちなみにフィアさんは物理的にも強い。獣人について調べたら握力とか脚力とか普通の人間より圧倒的に高いし。たまに腕引っ張ってくるんだけど力強いから逞しい存在だよほんと。

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