名コンビ?

 毒々しい爪を見せびらかすように、ポイズンベアは三人の方へ近づいていく。


「接近戦は論外だな」


「僕が魔法で仕留める。オリビアは援護をレオンはいざと言う時のバックアップを頼む」


「おう。分かった」


「任せて。魔法強化」


 オリビアの手から魔力が放たれる。


「行くよ。一点を貫き敵を射殺せ『石弾ストーンバレット』」


 様子見のつもりでヴィクターが放った石弾はポイズンベアの胴体に直撃し、肉を抉った。


「凄い。威力が上がってる」


 だが致命傷には程遠く、野生の殺意が三人に向けられる。


「グギャァァァ」


「魔を祓え『退魔の矢』」


 オリビアから放たれた魔力の矢はポイズンベアに一切のダメージを与えることはなかったが、一瞬気を引くことは出来た。


「太陽よ敵を燃やし尽くせ『火球』」


 いつもの三割増の大きさで出現した太陽は周囲の草を焦がしながら進み、ポイズンベアを包み込む。火球が消える頃には魔物の痕跡は燃え残った爪だけになっていた。


「やったな」


「ええ」


「俺の仕事ないじゃん.....」


 項垂れるレオンを放っておいて、ヴィクターは慎重に爪を回収した。


「これって何かに使えたりする?」


「武器に使う場合もあるみたい。後で売ったらいいと思う」


「そうなんだ。荷物にならないからちょうどいい。ほらいつまでも不貞腐れてないで行くぞ」


 レオンを引っ張って更に奥に進んでいくとかの鳥が再び姿を表す。今度こそは素材を得ようと、察知不能な距離からの狙撃を試みる。


「もっと小さくもっと遠くに」


「『加護』お願い」


「一点を貫き敵を射殺せ『石弾ストーンバレット』」


 飛び出した石の銃弾はクソドリの小さな頭を撃ち抜いた。頭を失った鳥は枝からドサリと落ちる。


「素材一個目ゲットだぜ」


(ポ〇モンかよ)


「やったね。ヴィクター、レオンさん」


「俺また何もしてないけどな」


「まあまあ」


 話しながらも、オリビアはクソドリの死体へと向かい、その羽を一枚一枚丁寧に抜いていった。


「これってそんなに貴重なの?」


「見てください。羽がさっきより綺麗になったと思わない?」


「確かに虹色に反射して綺麗だ」


 レオンが一本引き抜き太陽に透かす。


「でもこれぐらいの羽ならありそうだけどなぁ」


「聖典の一節にこのような話があるの……」


 あるところに数え切れないほどの罪を犯した重罪人がいた。ある街は多くの犠牲を出しながらも罪人を捕まえた。多くの人間を殺した罪人はもちろん極刑に処されることになった。それも民衆の前で苦しみもがきながら死ぬことに。磔にされた罪人に多くの民が石を投げつける中、一人の男が彼らを制止した。「死が罪を洗い流す。天の国は穢れなき」言葉が発せられると同時に罪人の体の汚れ、傷は消え去り穏やかな表情で天へと昇っていった。民は石を投げたことを恥じ罪人の遺体は丁寧に埋葬された。これが第一の奇跡である。


「死ぬまでは悪口を続けて、死んだら綺麗になる。聖典の奇跡と似ているから教会の儀式で重宝されてる。需要の割に素材自体を手に入れるのが難しいから、うまく加工すれば高値で売れて、村の経営の足しになるんだ」


「それじゃあ、取れるだけ取って帰らないとな」


 仲間の死体が荒らされていることに気づいたのか、周囲のクソドリが集まってきて大合唱が始まる。


「「「アホぉ、バカ、マヌケ、人でなし」」」


「頭がおかしくなりそうだ」


「私が何とかする。悪意から身を守れ『加護』。神敵の邪を祓え『解呪』」


 オリビアの魔力が体を覆うと、不快感、怒りが自然と収まった。


「これは?」


「『加護』で魔法耐性を強化して、『解呪』で精神魔法を強制解除した」


「こうなったらこっちの番だ」


「レオンさん。即死させないと綺麗な羽にはならないから、首を狙って一撃で」


「わかった。我が身を稲妻となせ『雷走』。おりゃぁ」


 飛び上がり一閃。一羽が首を失い羽を美しい者へと変え始める。悪口の合唱もより強さを増して響き渡った。


「芸がないな。今更そんなもの効かねぇよ。ほらもういっちょ」


 二羽、三羽とレオンは首無し死体をどんどん増やした。


「そろそろ私たちも行こ」


「レオンにばっかやらせるわけにはいかないな」


「『加護』で使う魔力を軽減するから、一気に殲滅お願い」


「了解。せっかくならアレを試してみよう」


 魔法の弱点は威力担保のために必要な詠唱により連続攻撃が難しい点にある。それを解決する技術は存在する。消費魔力が多いため、あまり使われることはないが、『加護』で軽減されているヴィクターなら或いは。


「顕現せよ『石塊』、一点を貫き敵を射殺せ『石弾ストーンバレット』、我が命に従え『魔法制御コントロール』。『全方向誘導石弾ホーミングストーンバレット』」


 宙に現れた石の塊が石弾で打ち壊され二十の破片がそれぞれ精密に制御されクソドリの脳天をとらえる。鳥がつく悪態はほんの数秒で全くなくなり、辺りに美しい羽を舞い散らせた。


「えぇ」


「凄いだろ」


「凄いよ凄いけどさ、俺やっと仕事でてると思ったのにそりゃないよ」


「悪い。悪い」


「にしてもオリビアさんの『加護』と魔法使いってほんと相性いいんだな」


「魔力効率とか魔力量は人間ではどうしても限度があるのに、それを軽々超えれるからな。僕の特殊魔法は使い勝手がよくないから羨ましい」


「私はヴィクターの『瞬遷』十分強力な魔法だと思うよ」


「特殊魔法持ってる時点で凄いんだよ。てかなんでそっちが多数派なんだよ。持ってないのが普通だぞ」


 レオンが腰に差す剣をヴィクターが触る。


「これがあるだろ。頼りにしてるよ前衛」


「あっズルい。そう言われたらなにも言えなくなるだろ」


 オリビアの口から笑みがこぼれる。


「二人はいいコンビだね」


 ヴィクターとレオンは不自然に棒読みになり羽の回収を主張した。


「早く羽集めないと」


「目的忘れるとこだった。急げ急げ」


「二人とも照れてる~」


「「照れてない」」


「嘘だぁ」


 聖女のからかいに翻弄されながら羽を集めること半刻。十分すぎるほどの量が集まった。三人が村から持ってきた革のバッグは羽でいっぱいで羽毛布団のようになっていた。


 オリビア、ヴィクター、レオンの順番にお腹を鳴らしたことでいったん昼食を取ることに決まった。中層では何が起こるかわからないので、一度低層まで戻り何羽か取っておいたクソドリの肉を焚火にかける。


「聖女様もお腹なるんだ。知らなかったなヴィクター」


「ああ。思ったより豪快だったなレオン」


 仕返しと言わんばかりにノリノリでオリビアの腹の音を二人は弄る。


「もう。さっきのは謝るからやめて~。恥ずかしい」


 こうは言いながらオリビアもどこか楽しそうだ。家族に慕ってくれる村の人たち、彼女の人間関係はとても恵まれていたが、バカなことをして笑いあったり、立場も気にせず話してくれる友人はいなかった。友達になってくれたヴィクターとの再会、その仲間レオンも身分を気にせず受け入れてくれている。年齢以上の振る舞いをしなくてはならない彼女が久しぶりに年相応に戻れた時間だった。


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