熱烈な歓迎
「ヴィクターにレオン。俺たちはお嬢に忠誠を誓ってる。間違っても変なことをすれば客人だろうが、分かっているだろ」
「「はいぃ」」
「聖女組のルールは二つ。お嬢を泣かさない事。そして、お嬢の前で荒っぽい言葉を使わない事だ。守れるか?」
声色、顔に似合わず、示された規則は可愛らしいものだった。
(言ってしまえばオリビアのファンクラブか)
世話になる以上二人に断る理由もなく、快く受け入れる。明らかに圧を放っていた周囲は突然穏やかな顔つきになり、酒の入ったグラスを回し始めた。
「ほらお前らも、仲間が増えたら祝い酒って決まってんだよ」
「オットー前も祝い酒とか言って飲んでなかったか?」
「うるせぇ。嬉しいことがあったら全部祝い酒でいいんだ」
「暴論だぁ〜」
オリビアが連れてきた時からヴィクターとレオンを受け入れる気でいたのだろう。ある者は歌い始め。それを聞いたある者は音楽を奏でる。
「新たな仲間の誕生に。かんぱーい」
「「「かんぱーい!!」」」
グラスがぶつかり合う音があちらこちらで聞こえる。雰囲気に飲まれ、この時ばかりはヴィクターも酒を口にした。
「お前らはどのぐらい旅してるんだ?」
「まだ始めたばかりだよ」
「俺なんて数日前までただの騎士見習いだったんだぜ」
「そんなら冒険話は無しかぁ」
「そんなことないよな。ヴィクター、話してやれよ」
「僕はいいよ、レオン頼んだ〜」
「仕方ないな。よし」
レオンが立ち上がると、オットーの隣に座っていた男が部屋の前方に向かう。
「おい、みんな。新たな仲間レオンが冒険譚を話すらしいぞ。ちゅうもーく」
「トーマスはとっとと引っ込めー」
男は笑いながらレオンに場所を譲った。
「あれは俺がまだ騎士見習いをしてた頃.....。っとまあそんな感じでヴィクターの魔法がドカンと巨体を吹き飛ばしたわけよ」
「ハッそりゃすげぇ」
「英雄だ」
「英雄の勝利に乾杯」
「お嬢の友人バンザーイ」
レオンが話終わると同時に宴会のテンションはマックスに。酔っ払いどもの大騒ぎはこの後一晩中続いた。
あまりの熱気に耐えきれず、外に出て星空を眺めるヴィクターに男が近づく。
「どうですか?聖女組は」
「オットーさんも避難してきた口ですか。そうですね愉快で楽しそうです」
「そうでしょう。全部お嬢が作ったものなんです。俺たちみんな明日の飯にも苦労してて、宴会なんてした記憶もなかった。賊になる度胸もなかった。でもお嬢は俺らが食ってけるようにしてくれた。トーマスなんて元々賊になった村のやつで、殺されても文句言えねぇのにお嬢きたら助けて仲間に入れちまった。ほんとにずごい人だ」
黙って空を見上げるままのヴィクターを見て、オットーは続ける。
「ちょっと前に仲間の村が二十を超えたんだ。ほんとの聖女様だよ。教会のお飾り司教よりよっぽど信じれる。ヴィクターも救われたんじゃないか?」
「救ってくれた。背を押してくれた。今でも救おうとしてくれてる」
「そうか、ここじゃ半分のやつは訳ありだ。詮索はしねぇ。救われたもの同士、仲良くやろうぜ」
オットーは強くヴィクターの背中を叩き、騒ぎの中へ戻っていく。
「その酒高いのだろ。俺にも飲ませろ」
「オットーが飲んだら五秒でなくなる。お断りだね」
「なんだとぉ」
「うん。兄さんなら何とかする。僕は決断の責任を最後まで」
つぶやきは夜闇に吸われ誰の耳に届くことなく消えていった。
ヴィクターとオットーが話し始める少し前。トーマスは酒瓶を掲げながらレオンに近づいた。
「飲んでるか?」
「もちろん。楽しませてもらってる」
「こいつは、村で作ったワインだ。美味いぞ、飲むだろ」
「当然だ。備蓄全部からにしてやる」
「その意気だ」
レオンの持つグラスにワインが注がれる。
「酔った時のことって忘れるよな」
「ああ、忘れるな。なんだしたい話でもあるのか?」
「もし、目の前に元盗賊がいたらどうするよ。騎士見習いだったんだろ」
「もう騎士とは関係ないし、なんなら俺も追われる身。今も盗賊ならまだしも、元ならなんもしないし、なんとも思わない。騎士の正義です守れないものがあるって気づいたからな」
トーマスは瓶に残るワインを一気に飲み干した。
「俺はなぁ。貧乏な村の生まれだったんだ。毎年の税は厳しい、食べるものも少ない酷い生活だった。だけどなぁ、一人のバカが馬車襲って金目のもの取ってきちまったんだよ。そっからは村人総出で盗賊生活よ。飯は腹いっぱい食えるようになったし、税も余裕で払えた。人殺ししてない以外は悪党そのものだった。だけど、お嬢は俺たちを捕まえた時、なんて言ったと思う?手を取り合いましょうだぜ。俺はもう付いてくしかないと思ったね。この少女の慈悲を裏切らないように、引き戻してくれた恩を返そうとな」
「凄いな聖女様」
「レオン、お前もお嬢に助けられた口か?」
「今日あったのが始めてだ。街で噂を聞いたぐらいだな」
「そうか、時期に知れるだろう。お嬢がこれだけ慕われる訳をな」
話が終わる頃には二人のグラスも瓶も空っぽになってしまっていた。
「まだいけるか?」
「余裕だ」
連れ立って部屋の中心。最も盛り上がっている所へ追加の酒を求めて歩いていった。
翌日の早朝。ヴィクターとレオンの様子を見に、いつもより早く村に来たオリビアは惨状を目にすることになった。
転がる酒瓶にグラス。寝転び、壁にもたれ掛かり寝る人々。フラフラとおぼつかない足取りで、水場へと向かう数人の男。更には吐瀉物の跡。
「あれ?オリビア早いね」
あの後、宴会に戻ることはなく、用意された部屋で眠ったヴィクターは惨劇に巻き込まれることはなく、オリビアに恥ずかしい姿を晒すこともなかった。
「ヴィクター、これどういうこと?」
「僕たちを歓迎する宴会が思ったより盛り上がっちゃったみたいで」
「そう。風邪ひかないように回復してくるからちょっと待ってて」
駆け足で部屋へと入ったオリビアは一人づつに手を添え癒しの力を行使していった。
「さすが」
「この人たち、私の力があるから大丈夫って思ってる節があるから心配」
「それだけオリビアが信頼されてるってことだよ」
「ならいいんだけど。そうだ、私朝ごはんにサンドイッチを持ってきたの。良かったら一緒に食べない?」
都合よくヴィクターのお腹が大きな音で空腹を訴えた。
「フフっ。良かった多めに持ってきておいて」
「まだ食べるって言ってないよ」
「お腹がそう言ってるじゃない。それに断るつもりなんてないでしょ」
「なんでもお見通しだな。もちろん頂くよ」
朝日と透き通った空気に包まれて、二人は静かな朝食をとる。間に言葉はなく、安寧を噛み締めるように食事を終えたあともしばらく村を眺め続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます