第5話 指先と意識と肉体と
「うっ・・・あなた、何したの・・私に・・」
マットの上でうつ伏せで動けなくなった都子の体が、ピクピクと痙攣している。
すると、今度は三日月が脚をフラつかせてよろけた。
「おっとっと・・ははは、今のはちょっと気合が入りすぎたみたいだわね。こっちにまで返ってきちゃったわ・・ふう・・」
なんとかバランスを保った三日月は、苦笑いをして
都子は聞き逃さなかった。
・・・返ってきた?
今の刺激が・・ということだろうか。
ならば、あの電流のような刺激は羅城門が出したということなのか・・・?
さっきの・・・右手の親指の付け根の膨らみを、羅城門に掴まれたところまでは覚えている。だが次の瞬間、電流のような衝撃が脳を貫いたのだ。
そのとたん、自分の全身の筋肉は力を失った。
そして、キーーーーン・・・という耳鳴り。
意識がとんだ。
今、少し戻ってきている。
一瞬頭の中が真っ白になったが、
羅城門が背後でゴソゴソ、と何かしているのがわかった。
・・・なにやら背中がスースーとする。
「? 」
うつ伏せのままで筋肉はまだ動かせないが、なんとか首を少しだけひねり、横目で確認すると・・・
「なっ・・・!? 」
セーラー服を胸までたくし上げられている。
そして、パンツもスカートと共に太腿まで下げられているのが見えた。
清美と同じで、背中からお尻まで丸見えの状態。
胸が楽なのは、ブラのホックもはずされているからに違いなかった。
三日月は、都子のお尻に
まるで女が女を襲ってるように見える。風紀委員の腕章をつけた少女が、今、
生徒を守るため、学校に
そんな解説が付けられてもおかしくはない
一部の人には、たいへんに
が、良識のある一般人がこれを見れば、日本の明日はどうなるのかと深く絶望するかもしれない。
三日月の姿は、それほどクレージーでアナーキーな風韻と破壊力を持っていた。
「フフフ、何をしたの、じゃなくて・・これから、す・る・の」
三日月は自分の胸を都子の背中に
つつーーー・・・
その指先が、都子のお尻から背筋をゆっくりとなぞるように登ってくる。
「ううっ・・・」
鳥肌が立つようなイヤらしい指の動き。都子はブルッと震えた。
すると三日月の指は、都子の首の後ろをギュッと
ピリッ・・ピリピリッ・・・と、三日月の指先が鳴る。
「くっ・・くはっ・・!」
痛いとか苦しいからではない。
最初の
三日月の指に、力が加わる。
「はむうっ・・・・!! 」
ギューーーンッ、とした指の緊張と弛緩で、押し殺すような呻き声が出た。
ギュッギュッギュッギュッ・・
「あっあっあっあっ・・!」
三日月の指の圧がかかるたびに、トーンの高いアへ声が響く。
圧だけではない。三日月の指先から、ピリピリとした刺激が流れ出てくる。
それが麻痺させられた脳幹に、心地よい快感となって波のように寄せては返す。
ギュッギュッギュッギュッ・・ギュッギュッギュッギュッ・・
「あふっ・・あっあっあっあっ・・あっあっあっあっ・・」
なぜか体が動かせず、呻き声だけが漏れ出してしまう。
脳の中で、なにか温かいものがジュワーーッ、と分泌されているのがわかる。
脳内麻薬だろうか。
頭の中が、ジンジンとした甘美で強い快楽に支配されていく・・・
脳から
・・都子は二年前、ひどい
初めてのマッサージだったが、先生の施術は驚くほど気持ちが良かった。
他人に筋肉を
通うたびに味わった、脳にジンジンと押し寄せるあの快感。
久しく忘れていた快楽を今、味わっている。
それも、一層強い刺激でもって。
都子の首筋をもみ続ける三日月の目の前には、都子のうなじがある。
そこから首筋の左側・・そのまま左の
実際、そのようなモヤなど立つはずはないのだが、三日月の眼には見えていた。
「そこがポイントなのね・・わかったわ」
そう言うと三日月は、黒いモヤの立つ部分を揉み始めた。
ギュッギュッギュッギュッ・・
「あふっあふっあふっあふっ・・! 」
都子の口から激しい吐息があふれ出る。
指圧はリズミカルに、そして力強く。うなじから左の首筋へ・・そして左肩へ。
三日月は都子の首横のセーラーの襟から指を侵入させて、首から左肩につながる筋肉を
ギュッギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッギュッ・・
ピリピリッ・・ピリピリッ・・!
揉むたびに、三日月の指先から音が発せられる。
「あっあっあっあっ、あっあっあっあっ・・!! 」
都子は、もう天にも昇る気持ちだった。
あああっ・・脳が・・・脳が溶けていく・・・
マッサージの先生でも、ここまでのことはなかったのに!
そもそも指先の感触からして、まるで違っている。
三日月の指先からは何かが発せられ、その刺激が触れた部分の筋肉をブルブルと微動させる。その微動が筋繊維を
利発な都子は快感に溺れながらも、かろうじて分析した。
ギュッギュッギュッギュッ・・ギュッギュッギュッギュッ・・
三日月の指圧は続く。
「あふっあふっあふっあふっ・・くうっくうっ、あっあっあっあっ・・!! 」
言葉にならないほどの快楽が津波のように押し寄せ続ける。
少し引いて、また強く寄せてくる。快感は、時間と共に高くなっていくようだ。
三日月が、今度はたくし上げられた都子のセーラー服の背から指を侵入させ、左背の
ここが黒いモヤを発する総本山と見極めたからだ。
右の指は、背骨に沿って伸びる
そして、ググッ、と指先に力を込めると、
「ビシッ・・!! 」
と、強い音を指先が発した。
「ああああああっ・・!!! 」
強い快楽の津波が、都子の意識を一瞬で飛ばした。
「フフフ、入ったわ・・・」
三日月が、ニヤリと笑った。
・・・不思議なことが、都子に起こった。
ボーーッとした視界のすぐ下に、二人の姿が見えた。
羅城門がうつ伏せになった女の子に跨って、背に両手を這わせている・・・
えっえっえっえっ!?
都子はキョロキョロした。
自分が裸で宙に浮いてるのがわかって、あわてて胸を隠した。
何が起きたの・・なんで私、こんなところに!?
意識が浮いてるのか、はたまた噂に聞く幽体離脱か。
いやいや、そんなものあるわけがないわ。
落ち着け、落ち着きなさいよ、都子・・・と、自分に言い聞かせる。
そして一呼吸おいて、よーく見てみる。
白いブラを頭に被っている変質者と組み敷かれている少女がいる・・・
「あれは・・羅城門で間違いないわね・・ならもう一人は・・まさか 」
女の子のセーラー服の左腕には、風紀委員の腕章がある。
乱れてはいるが、あのショートの髪型・横顔。
間違いない、自分だ。
それだけではない。信じられない光景を都子は目撃していた。
羅城門の両手が光り、皮膚を抜けて都子の背の中に入り込んでいるのだ。
いや・・・皮膚という境界が柔らかくぼやけて、溶けて混ざるように一体化し、
まるでカップのカプチーノにスプーンを沈ませるように、羅城門が両手を侵入させ、
うれしそうに都子の体内をいじくり回している。
それは宝箱の中身を物色し、良い物はないかと手探りしているようにも見えた・・
だがよく観察すれば、その光る両手の指が左の肩甲骨の裏側に入り込み、筋肉も神経・・血管までも
三日月の指先が、それはそれは一本ずつ丁寧に解していくのだ・・・
それもウットリとした表情を羅城門は浮かべ、肩甲骨の裏側までも丁寧に丁寧に・・クリーニングでもするように優しく撫で上げている。
「何しているの・・あなた、なぜそんなことが出来るの・・!? 」
肩甲骨にあるすべての組織を撫で上げられるたびに、うつ伏せの都子の肉体がいやらしく反応し、喘ぎ声を上げ、
その様子を宙から都子本人が見ているのだった・・・
一体どういうことなの?
私は・・私は今ここにいるわ。
あんなの、私じゃないっ!
本当の私は、あんなふしだらじゃないっ!!
違う、違う違う、絶対に違う・・・!!
これは夢よ、幻よっ・・・見てなさい羅城門、あんただけは、ゆるさない・・
こんなことして・・ゆるさ・・な・・ぃ・・・
不可思議な光景を見ているうちに、宙に浮かぶ都子の意識が薄れてきた。
そして、スウゥゥゥッ・・・・と眠りに落ちたかと思った瞬間、自分のリアルな声が小さく聞こえてきた。
「・・・ぁっ・・ぁっぁっぁっ・・」
フェードするように、声は徐々に大きく聞こえてくる。
「あっあっあっあっ・・! 」
左肩甲骨に走る大きな刺激に、都子の体は
「あっ・・うううううんっっっ!!! 」
仰け反ったまま、両脚がピンと先まで伸びてブルブルと痙攣する。
嵐のような快感が、頭を抜けていった。
そして、ドサッ・・と、全身がマットの上に崩れた。
「ハァ・・ハァ・・・」
どのくらいの時間が経っているのだろうか・・
ノドがかすれる。よほど大きく
指先を動かしてみる。ピクピクと動かせる。
よかった。意識が肉体に戻ったらしい・・・
都子は薄目を開け、背中の状態を確認する。
当然、羅城門の手は自分の体の中には入っていない。
刃物も使わずに入れられるはずがないのだが・・・それにしても・・さっきの光景はなんだったのか?
羅城門は、たしかに「入った」と言っていたが・・・
三日月が、後ろから都子に顔を寄せてくる。
「うふふふ・・どうだったかしら。気をヤッてしまったようだけれど・・相当に気持ちよかったみたいね。喜んでもらえて光栄だわ」
都子の頭はまだふらつき、全身は小刻みに震えて動かせない。
「な・・なによ、気をヤるって・・・」
「イッちゃったってこと」
「なっ・・・!? 」
「ふふ、安心しなさいよ。性的に、って意味じゃないから」
ニヤリ、と三日月が好色そうな目をする。
「でも・・いい声だったわよ。さっそく今夜のオカズにさせてもらおうかしら」
都子は、顔を赤くした。
「ふ・・ふざけないでっ・・そんな
「あら、食事の話なのに、なぜ卑猥なのかしら。都子さんの美声を思い出しながら
三日月はからかうように、
「ぐっ・・」
からかわれて、都子は呻いた。
羅城門三日月・・なんていやな女だろうか・・
「 今夜はそーねー・・エビフライでもしましょうか。風紀委員長さんの・・いえ、藤原院家の三女・都子さんの
都子のプライドに、ぐさりと刺さる三日月の一言。
都子は、くやしさに唇をギッと噛んだ。体が動けば、飛びかかるところだ。
「あんたは・・あんたは・・・!!」
「花岳寺さんは私が巻き込んじゃっただけだから。叱らないであげてよね。本当にマッサージしてあげてただけだって、わかったでしょ?」
「く・・・・」
都子は
何も悪いことなどしていないのだが・・羅城門のすべてが気に障る。
「そもそもさぁ、事情も聞かずに突っかかってきたのはそちらじゃないの。真面目なのは理解するけどさ、短気はダメよ、風紀委員長さん? 」
したり顔で言う三日月。
たしかに、短慮であったかもしれない。
が、あの清美の乱れた姿を目撃すれば、人の良い清美がたぶらかされて犯罪に巻き込まれたと思うのは当然だろう。それにその後の羅城門のふざけた言動にも問題があった。そこはお互い様ではないのか、と都子は唇を噛んだ。
三日月は一息吐くと、都子の体の下に敷かれたままになっていた自分のセーラー服を引っ張って出し、よいせっ、とマットを降りた。
「体が動くようになるまで30分ぐらいかしらね。言いたいことがあったら、明日聞くわ。じゃ、またねー・・・・おっとっと・・」
三日月が、またよろめいた。
「ふう・・ヤバイヤバイ。調子こいて力を流し込んじゃうと、その分こっちにも返ってきちゃうのよね、刺激も、快感もね・・ま、私も気持ちが良いからいいんだけどねぇー、あっはっは!」
三日月は高笑いすると、自分のセーラー服とスカートを肩に引っ掛けるようにして、風来坊のようにふわり、と体育倉庫を出て行った。
三日月の頭にはまだ清美の白いブラ。そしてピンクのスポーツ下着というイカした姿であった。
「くっそぉ・・・!! 」
マットの上には、うつ伏せのまま動けないでいる都子が一人残された。
それもセーラー服を乱暴に乱され、背中からお尻まで丸出しで、ピクピクとくやしそうに震えていた。
やはり、事件現場にしか見えん。
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