会う度に記憶がリセットされる彼女は双子でローテーションしていた。気付かれないと思っていたらしく暴いた瞬間、どっちが【俺の彼女】かで姉妹間の関係が拗れた。これって俺のせいなの?
タキテル
第1話 彼女ができた日
最近、彼女が出来た。それは意図せぬことで全くの偶然である。
まさかあんな運命的な出会いがあるなんて世の中捨てたものではない。
平穏な高校生活を送っている俺、
いつもは学校が終われば真っ先に家に帰ってアニメを見ながら携帯ゲームをするのがお決まりなのだが、この日は学校が終わって家とは反対方向の街外れに来ていた。
「早く行かないと限定版が売り切れる」
急かし足で俺はとあるショップに向かっていた。
そう、この日は某アニメとコラボした限定の腕時計の発売日。一部のマニアしか知られていないが、希少なためすぐ売り切れてしまう。
この日のためにコツコツとお小遣いを貯めたのだ。ラスト一個でも残っていればそれでいい。だが、最近転売ヤーという非常識な人が増えているため不安が残る。
買い占めをされたら一発でアウトだ。
学校を休んで買いに行く手も考えたが、流石にズル休みをするほど俺には度胸がない。
よって学校終わりに行く羽目になっていた。
「大体、何でド平日に発売するんだよ。学生や社会人のことを一切考えていないじゃないか」
ブツブツと俺は誰に文句を言っているのか、とにかく気持ちを急かしていた。
目的のショップまでもう少しのところだった。
そんな時である。
ブオォーンと俺の前に黒のワンボックスカーがゆっくりと通っていく。
ほとんど徒歩と同じ速度だ。明らかに様子が変だった。
しかもナンバープレートが外されて走行している。
そしてその先には俺と同じ学校の制服を着た女子生徒が一人で歩いている姿があった。
「あれって栗枝じゃないか?」
後ろ姿でもその人物は特定できる。
身長は百六十八センチとやや高め。高身長なことからスタイルが良い。
同級生の中ではトップクラスの美少女であり、男女問わず人気の高い。
入学当初から目立った存在で新入生代表として挨拶していたのが印象的だ。
何と言っても美しすぎて近づけないほど、男子にとっては眩しかった。
それでも交際を申し込む男子はいたが、付き合った様子は見たことないのでおそらく振られているのだろう。
クラスは別だが、一年の時は同じクラスだった。当然、栗枝とは親しい間柄ではない。
憧れの存在として目に焼き付けるくらいでしかなかった。
付き合うとしたらああ言う子が理想だが、俺には高望みの存在かもしれない。
そんな栗枝に黒のワンボックスカーが迫る。
栗枝の前に停車すると助手席から外国人の男が出ていた。
最初から狙っていたように栗枝に何か喋る。
会話までは聞こえなかったが、栗枝は困った表情を見せて聞こえないふりをしているのか、無視を決め込む。そのまま立ち去ろうとした瞬間である。
外国人の男は後部座席に栗枝を無理やり押し込んだ。
「きゃー!」
栗枝は悲鳴をあげるが、布で口を押さえつけられていた。
後部座席にもう一人いたのか、二人掛かりで栗枝を車に押し込む。
この時、俺は誘拐と頭に浮かんだ。
限定品の腕時計は諦めようと決め込んで俺は拳をグッと握り込んで外国人の男に突っ込んだ。
「何をしているんだ! この野郎!」
考えるよりも俺は手が出ていた。助走を付けながら俺の拳は外国人の男の頬を殴っていた。グーパンで。
「ぶへっ!」と外国人の男から声が漏れる。
バコーン! と凄まじい効果音とともにそのまま歩行者用通路の先まで吹っ飛んでいた。一瞬の出来事に運転手と後部座席に乗っていた仲間が反応に困っていたのは何となく分かる。
動揺していることもあり、黒のワンボックスカーはドアが開いたまま走り去ってしまった。今は犯人を追いかける余裕はない。すぐに俺は地べたで腰を抜かしている栗枝に駆け寄った。
「栗枝! 大丈夫か? 怪我は?」
そう言うと栗枝は涙を浮かべていた。
「うえーん。怖かったよぉ」
限界だったのか、栗枝は俺に抱きついて泣きじゃくった。
普段、人に弱みを見せることがないと思っていたが、この時は普通の女の子のように思えた。
その後、警察に通報して誘拐されそうになったことを報告する。
幸いにも犯人の一人が気絶していたこともあり、犯人グループは一網打尽で逮捕された。警察の事情聴取をしている間、栗枝は終始、俺の傍から離れることがなかった。
まるで子供のように俺の後ろに隠れる始末だ。
俺が事情を話して栗枝は言葉を発することなく頷くことしかなかった。
大丈夫? 平気? と、励ます言葉を掛け続けるが、栗枝は顔を隠しながら頷いた。
恐怖が身に染みたのか、これ以上付き合わせるのはあまりにも可哀想に思えた。
「一人で帰れる? 送ろうか?」
「さっき親に連絡したら迎えに来てくれることになったので大丈夫です」
栗枝はようやくまともに喋ってくれた。
「そ、そうか。気をつけて」
その日は親の迎えの車で帰宅したが、大丈夫だっただろうか。
結局、限定品の腕時計は売り切れで買うことが出来なかったが、それ以上に栗枝の無事が俺の達成感に繋がった。
翌日、俺は何事もなく登校した。すると、栗枝はポツンと誰かを待っているように立っていた。昨日の今日で学校を休むと思っていたが、顔色を見る限り大丈夫そうだった。
栗枝は俺に気がつくと駆け寄って来た。
「あ、神谷くん。おはよう」
「栗枝。おはよう」
「昨日は本当にありがとう。私、気が動転していてまともにお礼を言えてなかったね。ごめんね」
「いや、気にしないでくれ。俺も栗枝が無事で本当に良かったと思っているから」
わざわざお礼を言うために待っていたところを見ると人の良さを感じた。
こういう素直な女の子がモテるものだと改めて思う。
面と向かって感謝されてどんな顔をすればいいか分からず、その場を立ち去ろうとする。
「それじゃ」
「あ、待って。もう一つ言いたいことがあって……」
栗枝は追撃をするように言った。
「あの、迷惑じゃなかったらでいいんだけど、その……私とお付き合いしてもらえないかな。好きです。神谷くんのことが。単純ですけど、今回のことでドキドキしちゃって。ダメ……かな」
栗枝からの告白に俺はパッと表情が明るくなった。女子からの告白。しかも美少女から。このありえない展開に俺は受け入れることを決める。
「俺で良かったらよろしくお願いします」
こうして俺は栗枝双葉との交際が始まった。
人生初の彼女だった。
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