フィーニスという街

 それからおよそ3分後、俺たちはフィーニス都市の入口と思しき場所へたどり着いた。さすが、国境に隣接する街特有の障壁があった。俺が毎日見慣れいた木製の壁とは大違いだけどね。


「すごい」


 目の前には厳かな石造り障壁。空に届く錯覚すら与えるほどに高い。胡粉色ごふんいろの石は傷が一つない、それに壁の上に凹の字みたいな飾りが壁全体に見当たれる。定期的の間を隔てるかのように奇麗な塔が辺りをそびえる。


「そういえば、呉羽くれはくんはシルバ村意外の世界は全然知らないね!」


 声の主は皐月さつきゆいさん、ちょっと今俺と一緒に馬車の中にいた。その彼女に俺は答える。


「そうね、本当に信じられないな」

「壁だけでこんな驚くとね、街に入る時には気絶しそうだけど? 」

「大丈夫です…多分」


 俺たちは壁の入口門をくぐる。そこには黒い服装を装う二人の兵士が門を護衛する形で立っていた。しかし、シルバ村の兵士とは違い、スリングなど使っていない。三十年式歩兵銃は村の兵士と似ているけど、銃の砲身は木製っぽい茶色。その砲身の先に銃全体に相まって、銀色のバヨネットがあった。


「あまり見ない方がいいよ」

「そうですね」


 耳元で囁く皐月さんの言葉に納得する。





 街に入ると、外の世界と隔絶した感覚が全身に走る。寒い初冬なのに外の空気に比べたら、内側の空気は変な温もりがあった。匂いも、慣れている自然の香りじゃない。人、汗、煙の匂いは肺をめぐる。


「ほら! 九頭竜くずりゅう候に会えるので服ぐらい買いましょう?」


 皐月さんは笑みで俺に質問をなげるが、俺は人々の行き来に夢中になった。襲撃の後、2日すらたてないけど寂しさに堕ちている心がなぜか久しぶりに感じる景色。こんなに人がいるところ……


「あれ?どうしたの?」

「なんでもないよ!」

「そうなの? 難しい顔しているけど?」

「してないってば!」


 俺は周りを見渡す。そしてちょっと後ろにいる若者たちの会話に耳を傾ける。


「 ねー新聞は読んだの?」

「今日はまだ読んでねえよ、なんかあった?」

「圧勝だったわ! シルバの戦いはタウルス軍が圧勝、死傷者はわずかの2! 王国側は生存者0だと!」

「おおお! マジか?」


 そのやり取りを聞いた俺はやっと気付いた、新聞。俺の村はどうなったのか、俺は気になった。しかしながら、怖い、もし新聞の内容が凄まじいまずい内容だったらどうすればいいのか?俺は息を呑む。新聞を売っていた商人に振り向くと、震える声で俺は商人に話しかける。


「あ、あの! 新聞を一つください!」

「おう!1アウルです!」


 俺は商人に帝国の通貨である1アウルを渡す。そして彼は苦笑いしながら新聞紙を差し出す。見出しには大きな文字で【帝国の圧勝!王国の侵入は大成功!】。その文字を読みながら、俺は悔しげに新聞を握っている手に力をこめる。

 皐月さんは俺の肩から覗き込む。彼女は言葉を探しているそぶりを見せる。ちょっと無言の間の後、柔らかい声色で告げる。


「気にしない方がいいよ? 生存者はまだいるかもしれないからね!」


 生存者がまだいるかもしれない。その言葉は心のどこかで強く染み込む。過去を気にしすぎると、前へ進まない。母親によく言われたこと。俺は前を向かないとね。


「服屋に行こうよ」




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