ズレてる矯正部の話
@Firsted
第1話
3階の角にある空き教室。そこは「矯正部(きょうせいぶ)」の部室だ。
その部屋の中で、高橋隆二(たかはしりゅうじ)はルービックキューブを揃えていた。
カチャカチャという音に柊舞(ひいらぎまい)はイライラした様子で眺めている。
「ねぇ隆二、この部活って存在意義あるの?」
「どうした柊」
ルービックキューブの手を止めて隆二は顔を上げた。
「ズレたものを治す矯正部って聞いてたけど、まだ何もして事ないじゃない」
夏休みの1か月前だが、一つも舞い降りてこない仕事に舞は不安を感じていた。
そんな舞を見て隆二はルービックキューブを机に置いて言い放った。
「そうか。じゃあ矯正部の存在意義を教えてやろう」
隆二は腕を組んで語り出した。
「まずこの世界には『ズレ』っていうものが存在する」
「『ズレ』?聞いたこともないけど」
舞は首を傾げる。
「まぁ常人はな。俺の家系は代々矯正師。世界に存在する『ズレ』を昔から直しているんだ」
「へぇ。ズレってなんなの?」
舞は短く相槌をうち、質問を返す。
「ズレっていうのはな、"理論や事実でその物体の実態が証明されているのに、それが否定されるような現象"のことを言うんだ」
「硬いなーもっと柔らかく!」
舞は机に、顔を上げて突っ伏す。
そんな舞に、隆二はルービックキューブを差し出した。
「それなら実際に試した方が早い。このルービックキューブは左、上、右、下の順で回せば底面が白で揃うんだ。ほら、やってみろ」
「う..うん」
舞は手順通り回していく。
だが、回すのに慣れて、素早く回せるようになっても、白が揃うことは無い。
「なんなのよ!もう!」
舞はルービックキューブを勢いよく机に叩きつけた。
集中しすぎていたせいか、息を荒くして俯いている。
「まぁそうだろうな。このルービックキューブは『ズレてる』からな」
「理論上では左、上、右、下で回せば揃う。けどこのルービックキューブは揃わないところがズレてるって事ね...」
舞は荒い息で言葉を途切らせながら言った。
「あぁそうだ。じゃあこのズレを直してみよう」
隆二は舞からルービックキューブを取り上げると、手に力を込める。
「Doctrina(ドクティリーナ)。元の姿に戻りたまえ」
すると、ルービックキューブは強い光を放った。
舞は眩しくて腕で目を覆う。
しばらくし、光が収まったのを確認すると、舞はルービックキューブへ目を向ける。
「これ変わったの?」
舞は疑いの目で隆二を見つめる。
「ああ、もう一度やってみたらいい」
隆二はルービックキューブを手渡す。
舞はぎこちなくルービックキューブを回す。
「ありゃ、揃った!」
舞はルービックキューブの底面を隆二に見せる。
「だろうな、これでわかっただろう?『ズレ』ってやつが」
「うん...でもこれ私できなくない?勉強したらできるものなの?」
「いや、代々受け継がれてないと無理だ」
隆二はすぐに否定する。
「え?じゃあ私入部してる意味無くない!?」
舞は思わず立ち上がりながら、勢いよく机に手をつく。
「まぁそう焦るな。人には生まれつきの天賦の才がある。もしかしたら柊にもできることがあるかもしれない」
その時、5:30を告げるチャイムがなる。
「自分の才能に気づく方法は過去に目を向けることだ。なにか思い当たる節があるかもしれない。それを探してみることだな」
隆二は立ち上がりながらカバンを持つと、部室のドアを開けた。
「ちょっと待って!一緒に帰ろよ!」
舞は椅子を机にしまうことなく勢いよく部室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます