もうあの人はいない
櫻井
第1話 もうあの人はいない
12月24日、修平は仕事終わりに彼女と会う約束をしていた、世間はクリスマスイブで修平も今夜だけはと思い、いつも行き当たりばったりのデートのくせに今日だけはしっかりとデートプランを考えていた。
お昼すぎ修平の携帯が鳴る、電話番号の主は彼女のお母さんだった。彼女のお母さんから電話が掛かってくることなど滅多にない、何事かと思い慌てて電話にでる。
「ご無沙汰しています」と修平が言うが電話の向こう側からはすすり泣きの声しか聞こえなかった。「どうしたんですか?」と聞いてもお母さんは応えない。
たっぷり2分たったころ「佳苗が池袋の路上で刺されたらしいです」とか細い声で告げられる、修平の頭の中は真っ白になった。なんで佳苗が刺される?生きてはいるのか?
修平はお母さんに尋ねたい事が複数あったが声が出なくなった。「これから警察の方が来て事件の説明してくれるらしいんだけど一緒に立ち会ってくれませんか?」というので修平は「わかりました」と言い電話を切り上司に早退の理由を伝えると「大丈夫か?」と聞かれたが首をコクリと下におろし、職場を後にした。
佳苗はシングルマザーで育ち、お母さんにも頼り人がいないので修平のところに電話がやってきた、お母さんもきっと心細いんだと思う。修平は車をかっ飛ばし佳苗の実家に向かった。実家につくと警察官と思われる者が3人いた、名前を言われたが一人しか修平は覚えていない、その一人と連絡先を交換し半沢と登録した。
警察官の話によると、佳苗がホテルから出てきたところをつけてきて刺されたという、佳苗は風俗嬢だった、もちろん、修平も知っていたし佳苗の母も結婚するまでならと言って渋々許可をしていた。犯人は女性ということだけわかっていて犯人は逮捕されていない。佳苗の母は警察官に「なんで逮捕してくれないんですか?日本の警察って優秀なんじゃにんですか?」と警察官に懇願する、修平は犯人よりも佳苗の安否が気になっていた。お義母さんの電話ですっ飛んできたので安否を聞いていなかった。「佳苗は生きてるんですよね?」と警察官に聞くと警察官は「残念ながら」と言って首を横に振った、その瞬間修平は膝から崩れ落ちた。
修平は今日のデートでプロポーズして、風俗を辞めさせようと思っていた、それなのに佳苗は誰か知らない女に殺されたのだ、お義母さん以上に泣き崩れた。
「絶対に許さない」と呟いて警察官から離れ、知り合いの携帯に電話をかけた。
池袋のボス、武雄は呑気に「しゅうちゃんどうしたー」と言ったがその呑気さに勝手に腹をたてた。修平は今日あった事を武雄に話した、武雄は親身に話をきいてくれた、さすが池袋のボスだけある。ボスは神妙な面持ちで「さすがに俺たちでも捕まえられるかわからんよ」といった。それはそうだろうと、修平も思ったが頼むところが武雄しかいなかった。武雄は池袋の半グレたちを纏めている、ブルードラゴンの頭を張っていた。そんなやつに頼めば一発でわかるんじゃないかと考えてた自分が馬鹿だったと修平は落胆した。
犯人が半グレなら武雄の出番だったかもしれないが今回の犯行は多分半グレの犯行ではない、警察いわく怨恨の線が高いと言っていた。何故、佳苗が恨まれなければいけないのか修平にはわからなかった、修平は武雄との電話を切りお義母さんにも挨拶もせずに自宅に向かった。上司には一週間の休職願いを出した、上司は何も聞かずに「わかった」と言って了承してくれた。修平は一週間何をするか考えてはいなかった。
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