男装女子と始める青春コンティニュー
日朝 柳
始まりはテンプレで
「そうだなぁ、僕はあの女子なんかいいと思うんだ。かわいい子はたくさんいるけど、やっぱり一番大事なのは性格だと思うんだよね。例えばクラスの佐山さん。あの子は見た目はそこまで派手じゃなくて目立った子じゃないけど、実は周囲をちゃんと見配りしているとてもやさしい子なんだよ。わたっ、僕が風邪で休んだ時なんかね」
坂柳詩織は、教室の扉に手を掛けたまま色んな意味で戦慄していた。
刀祢彩夏が一人教室で虚空と話をしていることに。そして、その彼女自身が何故か男装をしていることに。
「よし、俺は何も見なかった。荷物は来週まで置いておこう」
そう思った時にはすでに選択肢は消えていた。
彼女は虚空と話を膨らませて楽しんでいたにもかかわらず、何を思ったか扉に目をやった。もちろんそこにいるのはまごうことなき僕こと俺。
「あっ」
危機察知能力を全開にして俺はダッシュでその場から逃げる。すぐに扉を開く音がして追いかけてきた。あんな光景見ておいて掴まったら死ぬに違いない。
とにかく逃げ切らねば。
「まてーーー!!!」
俺は角を曲がってすぐに遮蔽に隠れるというどっかのハンター逃走法から学んだ知恵で彼女を撒く。足音は同時に消え、俺の心臓の音と彼女の荒い息遣いが廊下から聞こえてくる。
足音は徐々に離れていくかと思ったが、そうでもなかった。
むしろ近づいてきている。俺はトイレの個室に逃げ込んだので、これ以上どうしようもない。鍵だってかけてないので、ただ開くな開くなと念じる。
「おい」
目をゆっくりと開けると、さっきの女子(男装)がいた。
「なんでしょうか」
「このことは誰にも言うなよ」
「ひっ!」
胸倉をつかまれて壁に押し付けられる。彼女の吐息が顔に当たるほどの近さに俺は身もだえしそうになる。
「……さっきのは?」
このまま脅迫だけされるのもあれなので、とりあえず聞いておく。
「なんだよ、笑うのか!」
「いや、そんなことないけど」
いつの間にか彼女の顔は真っ赤になっていて、もはや男子には到底見えない。俺は見惚れてしまいそうになるのを我慢して続けた。
「いいんじゃないか、男装」
「……本当か?」
ぐいっ、とさらに強く手繰り寄せられる。彼女の顔は唇が触れ合ってしまうんじゃないかという近さまで迫る。
「じゃあ証明してみせろ」
「は?」
「僕が卒業までに男装が似合う女にするんだ」
「いやなんで俺が」
「いいな!」
「…………はい」
こうして、なぜか俺は彼女の男装マスターの道を手伝うことになった。
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