第2話 散歩

 元々、私は外が得意ではなかった。

マスクをつけていないと、何もなくてもニヤニヤしている自分の顔を見られ、気持ち悪がられてしまうのではないかと怖かったのだ。

でも、散歩は好きだ。学校の近くから逃げ、自分の住む街から逃げ、行ったことの無い所へ逃げ、この気持ちの悪い世界から逃れようとしていた。


◇空気が美味しい。端から草が生えるコンクリートはもうクサッてしまってぐにぐにとしている。誰もいない!死んでしまったのかな!


ふと鼻にいい香りがただよった。甘い香り。昔は誰かが住んでいたのかもしれないレンガ張りの家からいい香りがしていた。目の前の窓ガラスに大きいふわふわの黒い石を投げると、甲高い音とともにガラスの割れる音がして、私は家に入った。


家の中には、ドーナツでできたチョウと、ドーナツでできた人があった。

「とっても可愛い!」私がドーナツのチョウを食べようとすると、ドーナツでできた人が動いた!

「あなたはようせいさんなの?」

ドーナツのようせいさんはキャ~とさけぶと逃げてしまった。

ドーナツのチョウはハチミツの優しい味がした。


「美味しい!」


バチンッ


後ろから痛みがおそってきた。

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