繰返

 あのとき、魔女は私に言った。


「信じられない。まさか、実質ノーコストで不死の魔法を発動できるとは……」

「……何が起こったの?」


「本来、発動するのに人の命が必要なのだが、先に不死の効果がついてしまった。それゆえ、命という代償を支払っても、不死の効果により命は削られなかった。バグ技のようなものだな」

「……わかったようなわからないような」


「ま、何はともあれ成功したことだし、私の役目はここまでだな」


 そう言い残し、魔女は消え去った。

 不思議なものだ。たった一週間だけの仲だというのに、心に穴が空いたような感覚がした。


 それからというもの、色んなアクシデントに遭ったが、全て乗り越えることができた。

 そして、不死になって分かったことがいくつかあった。


 不死は永遠に変わらない、不変な体を持つものだと思っていたが、実際は破壊と再生が繰り返されるようなものだった。

 古くなった細胞が壊れ、また新しい細胞が生まれるということを永遠に繰り返す、驚異の再生力を持つということだった。


 現実はいつも予想を裏切ってくる。魔女が口癖のように言っていたことだ。




 やがて人類は絶滅し、荒廃した世界をさまよった。

 偶然、祖母の家で隠し部屋を発見した。

 部屋の中にはたくさんの本が保管されていた。

 魔女の歴史と系譜、魔法の理論――知らないことだらけだった。


 通過儀礼――大人になった証として行う儀式のこと。

 魔女は13歳になると、その身に不幸が降り注ぐ。それを乗り越えた者が一人前の魔女として認められる。

 しかし、それも昔のこと。既に魔女は絶滅していた――かのように思われた。

 一人だけ生き残りがいた。

 それが私の祖母だ。

 その魔女の血は、母へ、そして私へと受け継がれていった。


 今はそんな不幸な目に遭う子供もいない。

 それどころか、この地球上には私以外誰もいない。

 この話を伝える相手もいない。




 それから、何億、何兆という年月が流れた。


 地球が終わる瞬間を見た。

 太陽が終わる瞬間を見た。

 宇宙の中に一人残され、宇宙と一体になった。

 不死とは、永遠に孤独と闘い続けることでもあった。


 私はこれからどうなるんだろう。

 未来に答えを求めても仕方なかった。

 それならば過去に求めよう。

 祖母の家にあった本から、魔法の理論は全て理解していた。

 時空を越える魔法も習得済みだ。

 そうでもしないと気が狂いそうだった。


 魔法の代償は、不死の力で全て踏み倒した。

 髪の毛を代償にする魔法、片腕を代償にする魔法、視力を代償にする魔法――どんな代償も、この驚異の再生力の前では無いも同然だった。


 過去に戻ろう。退屈しのぎにも丁度いい。


 運命のあの日、あの場所へ――


                  (『リンネと魔女 魔女』 へ戻る)

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